追加的緊縮財政措置に反発広がる

(ポルトガル)

マドリード事務所

2012年10月01日

政府とEU、欧州中央銀行(ECB)、IMFの「トロイカ」は9月11日、780億ユーロの支援条件となっている緊縮財政プログラムの第5次審査の結果を踏まえ、プログラム目標の緩和について合意した。しかし、追加的に打ち出された社会保険料の個人負担率引き上げに抗議する大規模デモが実施されるなど、国民の反発は強まっている。

<緊縮財政で企業倒産や失業が増加>
今回のプログラム目標の緩和(表参照)は、緊縮財政に伴う企業倒産や失業者の増加を背景に、景気回復を狙った措置と受け取られている。

財政赤字(GDP比)の目標値

今回の発表に先立ち、引き続き緊縮財政を遂行する意志を示す必要に迫られた政府は9月7日、2013年度予算案に盛り込む追加的緊縮財政策の一部を発表した。7月には憲法裁判所が公務員の休暇手当削減に違憲判決を下したこともあり、政府は追加的緊縮財政策の見直しを検討してきた。

<緊縮策に保険料の個人負担引き上げを追加>
追加的緊縮財政策の改正案は以下のとおり。

(1)社会保険料率の改正(個人負担率の引き上げ)
現行:34.75%(個人負担率11%、企業負担率23.75%)
改正案:36%(個人負担率18%、企業負担率18%)
(2)公務員給与のうち、夏季・クリスマス手当(それぞれ1ヵ月相当)のいずれかをカット
(3)年金受給額を14ヵ月相当から12ヵ月相当に減額
(4)個人所得税の税控除の見直し
(5)固定資産税の増税

<首相が追加緊縮策の一部撤回を表明>
これらの措置は「トロイカ」からの勧告を踏まえたものだが、野党各党、労働組合などから強い反発を招いた。9月15日には社会保険料の個人負担率引き上げに抗議する大規模デモが実施され、リスボン市内だけで50万人(主催者発表)が参加したという。

翌9月16日には、連立政権を組む民衆党(CDS)党首のポルタス外務相が社会保険料率引き上げ反対を正式に表明するとともに、国営企業の経費削減および国有資産の売却に一層力を入れるべきだとの意見を表明し、議会での討論を要求した。コエリョ首相率いる社会民主党(PSD)は、対策を講じるために党幹部会議を開くなど対応に追われた。

9月21日には、事態を重くみたシルバ大統領が諮問機関である国家評議会を招集し、経営者団体や労組を含めた対話による打開を試みた。しかし、具体的な合意形成には至らなかった。その後、コエリョ首相は、労働者側に配慮するかたちで社会保険料率の引き上げを撤回すると発表。代替案として所得税、資本取引税、資産税を引き上げる可能性を示唆した。

政府は10月15日には2013年度予算案を国会に提出しなければならず、仮に追加的緊縮財政策を変更する場合には「トロイカ」と再協議する必要があるため、時間的な制約の中で調整を迫られている。

(小野恵美、加藤辰也)

(ポルトガル)

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