品質管理の証明と、代理店との契約期間に要注意−医療機器市場と規制動向(3)−
ジャカルタ事務所
2012年09月28日
インドネシアの医療機器登録審査に関わる保健省担当官がジェトロ主催セミナーで、現地規制の現状について解説した。欧州での医療機器登録に求められるCEマーキングの完了証明を提出できれば、時間はかかっても追加の臨床データを要求されることは少ない。外国製造業者が現地販売代理店を通じて申請する際は、代理店との関係に万一不具合が生じることも想定し委任期間を吟味する必要がある。シリーズ最終回。
<製品リスクに基づく審査を実施>
医療機器を出荷するには、医療機器の規制当局である保健省(MOH)に申請をする必要がある。欧米や日本などで部分的にも第三者認証の仕組みを取り入れているのとは異なり、保健省が全ての医療機器の登録可否を判断している。
日本から出荷する場合には製品を使用する際のリスクの程度によるが、日本で薬事登録が完了していることの証明(自由販売証明:Certificate for Free Sale)と、品質管理の国際規格の認証の証明を提出することで、多くの追加データの提出の必要もなく、登録が完了する。
インドネシアでは、国際的に広く採用されている製品のリスクに応じたクラス分類に基づく認可システムが採用されている。先進国を中心に医療機器は、使用時のリスクの大小により審査の方法が異なる。リスクの大小はクラス1〜3(リスクが低いものが1で高いものが3の3段階、米国式)、クラス1、2a、2b、3(4段階、欧州式)、クラス1〜4(4段階、日本式)というように、3段階から4段階のクラスで表現することが多い。インドネシアは欧州と同様のクラス1、2a、2b、3(4段階)を採用している。
保健省は「書類に不備がなければクラス1は営業日で30日、クラス2は60日、クラス3は90日で登録が完了する」と説明している。ただし、インドネシアの登録手続きに携わった企業関係者の話を総合すると、クラス2で半年、クラス3で1年かかることもあるという。ちなみに医療機器審査担当官の数は「今のところ12人だけ」(保健省担当官)という。人員が限られる中で、市場の拡大に伴い申請が増え、審査対応が難しくなっている様子がうかがえるが、同省は「今後、審査担当官数を増やしていきたい」としている。
<品質管理の証明を求められる場合に課題>
日本企業は、品質管理の証明方法について留意する必要がある。品質管理とは、安全かつ医学的に有効な製品を常に同じ品質で継続生産可能な体制を構築することを意味する。日本では「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)」の順守に相当する。
日本の自由販売証明については、特定非営利法人海外医療機器技術協力会(OMETA)を窓口に厚生労働省から英文証明書を発行してもらえる。しかし、QMS省令の順守に関しては英文証明書がないことから、申請に際して品質管理の証明が必要な日本企業は保健省に対して、QMS省令への適合とは別の手段で、英文により品質管理状況を説明する必要がある。その1つが医療機器の品質管理の国際規格ISO13485(ISO9001の医療機器版)の認証書だ(注)。
ただし、ISO13485の認証を受けるには、民間認証機関の審査を受け、審査時に加えて経年の更新手続き経費がかかる。経費は認証機関により、また認証を受ける品目数などによりさまざまだが、年間百万円単位の負担になることがあるという。日本国内だけで販売していて、品質管理の英文証明が提出できない企業は、インドネシアに製品を出荷する際に新たにISO13485などを取得しなければならない可能性がある。特に中小企業には資金的にも、文書の管理手続き上も、負担感が大きい。
<登録は代理店への委任期間が上限に>
医療機器登録の有効期限は最長5年間だ。ただし、外国製造業者が現地販売代理店に出す委任状の期間が5年未満の場合、その委任状の期間が上限となる。例えば、日本企業が販売代理店と交わす委任状期間が3年であれば登録有効期間は3年となる。保健省担当官は「外国製造業者が販売代理店に5年間の委任状を渡すと、途中で代理店を差し替えることは難しい。従って、委任状の期間をどのくらいの長さに定めるかはよく吟味してほしい」と述べている。
<全て英語のラベリングで可の場合も>
その他、日本の医療機器メーカーが注視する諸点をみてみよう。製品に添付するラベルや製品マニュアルについては、現地に出荷する企業に聞くと、現在のところ英語だけでも十分という。ただし、医療従事者ではなく、一般消費者が扱う可能性のある製品では、インドネシア語表記が求められる場合もあり、この点は登録手続きに当たり申請を行う代理店などに十分確認する必要があるだろう。
また、ASEAN域内では医療機器の規制統合化の動きがある。保健省担当官によると、ASEAN域内では、2014年1月から共通の申請テンプレートの使用や、市販後調査の通報制度の統一が図られることになっている。ただし、域内で整合化を図れる内容は、保健省担当官によると、申請時の統一書式(CSDT)のフォーマットと、不具合事象の通報方式に関わる部分であり、申請案件をどのように評価するかは各国の保健当局が決めることになるいう。この点は、タイの医療機器審査当局FDA担当官の話と同じ内容だ。
保健省担当官は、中古医療機器の流通は認めないと語った。ただし、品質管理の行き届いた製造工場で再調整をかけられた製品については、中古ではなく、新製品と見なして登録を認めることがあるという。
品質管理状況の監査(いわゆるGMP監査)は、企業に確認する限り、それほど厳しくないようだ。また、ブラジルのように主にクラス2以上の医療機器について、外国製造工場のGMP監査を実施することはない。
(注)日本の自由販売証明にはQMS省令の順守に関連した文言は含まれていない。
(吉田雄介、桜内政大)
(インドネシア)
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