消費者としての存在感高まる−ジェトロの「中東の女性市場セミナー」(1)−

(サウジアラビア)

中東アフリカ課

2012年09月28日

ジェトロは9月13日、「中東の女性市場」セミナー(後援:経済産業省、中東協力センター・日本サウジアラビア産業協力タスクフォース事務局、サウジアラビア日本女性経営者文化経済交流協議会)を東京で開催した。講演では、日本でなじみの薄い中東女性のライフスタイルや嗜好(しこう)、中東女性市場でのビジネスチャンスなどが紹介された。パネルディスカッションでは日本企業参入の可能性と課題について中東から招いたバイヤーと活発な意見交換があった。セミナーの内容を2回に分けて報告する。

<化粧品輸入は10年で4.2倍に拡大>
中東・北アフリカ諸国(MENA)は石油価格の上昇を背景に経済成長を遂げており、IMFによると、2012年の実質GDP成長率は5.5%と予測されている。家計消費の伸びや人口の増加は消費市場としての将来性を示す。加えて、女性の社会進出やインターネットの普及などがライフスタイルや嗜好に変化をもたらし、消費者としての女性の存在感を一層高めている。それを裏付けるように、女性向けの代表品目である化粧品の2011年の輸入額は2000年の4.2倍、女性用アパレル製品の輸入額も約5倍に拡大した(表参照)。主な輸入国のアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、トルコ3ヵ国でMENA全体の約6割を占める。日本企業にとっては情報量の少なさや宗教・文化的な違いから、ビジネスを成功させることが難しい市場ではあるものの、先進企業はさまざまな工夫を凝らしながら参入を本格化させている。

MENAの化粧品および女性用アパレル製品輸入額

今回のセミナーは、ジェトロがサウジアラビア、UAE、トルコからアパレルと美容分野のバイヤー6人(いずれも女性)を招く機会を捉えて開催した。化粧品や繊維・アパレル業界のほか、電機・電子、建設・エンジニアリングなど幅広い業種から120人を超える参加者があり、「中東の女性市場」という切り口への関心の高さがうかがえた。

<ラグジュアリー路線で女性つかむ>
基調講演で英国系の高級百貨店ハーベイ・ニコルズ・リヤドを運営するアルファ・インターナショナルの女性マネジング・ディレクター、サミラ・ラウーフ氏が「百貨店ハーベイ・ニコルズからみる中東の女性」について紹介。「世界の産業の中で最も早く成長・変化しているファッション業界では、各国が中東に目を向けている。グローバル・インベストメントによるレポートもサウジアラビアの女性と子どもの市場に注目している」と、市場としての重要性を強調した。

サミラ氏は中東の女性の特徴について、「ラグジュアリー」「限定版」「特注品」などに関心を示すと分析する。同社は王族や富裕層の顧客が多いこともあり、高級な路線で、「ファッショニスタ」と称されるファッションに高い関心を持つ層のニーズに応え、主に25〜40歳の女性が生み出す商機をつかんでいる。中東の女性にとっては、自由な時間や付き合いの時間をいかに充実させるか、いかに自身の美しさを表現するかということが大事で、技術やデザインなどを選択する厳しい目が養われているという。

またサミラ氏は、サウジアラビアの観光業の成長ぶりを挙げ、メッカやメディナがあるサウジアラビアでの「宗教ツーリズム」に商機があると指摘した。「観光情報調査センターによると、海外からの巡礼者がハッジ(巡礼)中にサウジアラビアで消費する金額は259億ドルといわれ、サウジアラビアからの海外旅行者が消費する256億ドルより大きい」として、「250万人に及ぶハッジ巡礼者が訪れる機会も無視できない」と話した。

サミラ氏によると同社は、サウジアラビアが産業の多角化を進める上で小売り部門に注力していること、2012年から下着売り場やアクセサリーの店頭で女性販売員が働けるようになるなど女性の就業機会が増加していることは、女性の購買力をさらに拡大していくとみているという。

<美容・ファッション以外にも商機>
在サウジアラビア日本大使館の専門調査員を務めていた高知県立大学専任講師の辻上奈美江氏は、同国でホームステイした経験も踏まえつつ、「湾岸産油国を中心に拡大する女性の購買力」と題し、女性のライフスタイルや関心事、潜在的なビジネスチャンスについて話した。

辻上氏は女性誌に掲載された自動車販売会社ザーヒドの広告を紹介した。ザーヒドはサウジアラビアでボルボ、ルノー、双竜(サンヨン)などの自動車を販売しているが、広告の写真は車のフォルムや運転席ではなく、後部座席だけだった。これは、運転が認められていない女性でも自動車の購買決定に関与していることを示唆した広告だという。辻上氏は、中東の女性に目を向けると、インテリアやなどさまざまな分野にもビジネスチャンスが広がっていると述べた。

辻上氏によると、サウジアラビア国民は最新技術、ハイテク製品を好む傾向にあるが、例えば家電製品などは、シンプルな機能であっても、使いやすく丈夫なものが重宝されるという。

さらに辻上氏は、中東市場の獲得競争は激化しており、決して簡単に参入できる市場ではないが、日本企業のきめ細かさ・技術が評価されている点、そして湾岸諸国の消費者のニーズが多様化している点に、日本企業の参入の可能性があると指摘した。

(高松晃子)

(中東・サウジアラビア)

ビジネス短信 50611fcb0d2f0