ロシア〜北朝鮮〜韓国のガスパイプライン建設計画に動き

(韓国、北朝鮮、ロシア)

中国北アジア課

2012年09月07日

2011年8月24日のロシアと北朝鮮との首脳会談で合意した、ロシアから北朝鮮経由で韓国に天然ガスを供給するガスパイプラインの建設計画について、12年8月に入り、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権発足以降初めて新たな動きが報じられるなど、計画の進展をうかがわせる兆しがみられる。

<労働党機関紙などの報道を引用>
韓国紙「毎日経済新聞」(8月16日)は、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」(8月15日)による報道として、その計画について言及した。具体的には、ロシアのプーチン大統領が金正恩第1書記に送付した光復節(日本の植民地からの独立を祝う日、8月15日)の祝電の中で、ロシアが北朝鮮を経由して韓国に天然ガスを供給するガスパイプラインの建設計画に対し北朝鮮が積極的に協力するよう求めているとの内容だ。また同紙は、ロシアのイタルタス通信を引用し、在北朝鮮ロシア大使館で、8月14日に開催された光復節記念パーティーに出席したイ・ヨンナム貿易相が、ロシア側にガス分野の経済協力について前向きなメッセージを提示したと紹介している。

<ウラジオストクと韓国を結ぶ1,100キロの構想>
このガスパイプライン建設構想は、サハリンにある天然ガスをウラジオストクまで運ぶ約1,800キロのサハリン〜ハバロフスク〜ウラジオストク(SKV)天然ガスパイプラインの建設計画が決定した後に考案された。ルートとしてはウラジオストクから朝鮮半島を南下し、韓国までの約1,100キロを結ぶ。このうち約700キロ程度が北朝鮮領内を通過すると見込まれている。

事業主体のガスプロムによると、ロシアから韓国へのガス供給量は年間100億立方メートルで、供給期間は30年間を予定しているという。

<2011年にロ朝、ロ韓の2国間協議進む>
SKV天然ガスパイプライン建設は既に一部が完成し、2011年9月にプーチン首相(当時)出席の下に完工式が開催された。

また、2011年8月25日の朝鮮中央通信は、8月24日の首脳会談で、北朝鮮経由のこのパイプライン建設について、ロシアと北朝鮮の協力内容を決める「特別委員会」の設置で両首脳が合意したと報じた。

さらに、ガスプロムによると、2011年9月15日には同社のミレル社長が北朝鮮の金煕栄(キム・ヒヨン)原油工業相とこの問題について協議し、実務グループの設置などを記載した覚書に両者が署名した。また、韓国側もロシアと独自に協議する動きがみられ、韓国ガス公社の朱剛秀(チュ・ガンス)社長がミレル社長とこの計画実現に向けた話し合いを行い、ロードマップ(工程表)に署名した。

その後、ガスプロムは2011年9月の合意に基づき、実務グループによるロシアと北朝鮮の第1回共同作業部会が2011年11月30日にモスクワで開催されたと発表している。

<「北朝鮮にとってもメリット」と韓国が試算>
このように、ロシア、韓国、北朝鮮の関係者が一堂に会しての協議は行われなかったものの、ロ朝、ロ韓の2ヵ国協議は少しずつ前進していた。

なお、韓国の与党ハンナラ党(現セヌリ党の前身)が2011年8月30日に仁川市で開催した「ハンナラ仁川フォーラム」において、同党関係者が「北朝鮮経由のガスパイプラインが建設されれば、韓国は現在より20〜30%低いコストで天然ガスを導入でき、北朝鮮はガスパイプラインの通過料として約1億ドルの収入が得られる」との試算結果を公表している。

<金正恩政権の出方に注目>
しかし、ロシアと韓国がこの計画にいくら積極的になろうとも、今後の計画の進展に向けては、北朝鮮の出方が大きく影響するものとみられる。

金正日(キム・ジョンイル)総書記の後を継いだ金正恩第1書記が政権の座についてから8ヵ月が経過した。当初は金総書記が進めてきた「先軍政治」を継承するとしていたが、経済テクノクラートを海外研修に派遣したり、8月半ばには張成沢(チャン・ソンテク)朝鮮労働党行政部長を代表とする経済専門家からなる50人規模の使節団を中国に派遣したりするなど、金総書記の先軍政治とは異なった政権運営もみせてきており、このガスパイプライン建設計画についても、どのような判断を下していくかが注目される。

なお、韓国の2011年の天然ガス輸入量は3,669万トンで、カタールからの輸入が815万トンと最も多く、ロシアからは285万トンが輸入された(表参照)。

韓国の主要国別天然ガス(HS:271111)輸入

(根本光幸)

(北朝鮮・ロシア・韓国)

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