操短制度の実施で製造業活性化を目指す−職業訓練受講を条件に政府が賃金を補助−

(チェコ)

プラハ発

2012年08月30日

労働・社会福祉省は9月1日から、いわゆる操短制度を実施する。企業の操業短縮により削減された賃金を、政府が補填(ほてん)するというもの。具体的には、受注の減少で過剰となった製造業の労働者に対して、職業訓練・研修受講を条件に、国がその賃金を補償し、また研修費も補助する。失業率の上昇抑制のみならず、労働者の技能向上により企業が受注できる業務の幅が広がることも期待されている。

<支援対象は3ヵ月間の従業員1人当たりの売り上げが減少した企業>
2008年のリーマン・ショック後、ドイツなどでは今回と類似の支援策が実施されたが、チェコではこれが初めて。実施が遅れたのは、補助金の財源確保に時間がかかったためで、労働・社会福祉省が国家予算からの支出を求めたのに対して財務省が強硬に反対していた。最終的には、EU基金を財源とすることでけりがつき、ようやく2012年9月1日から運用開始となった。

支援策の概要は以下のとおり。

(1)支援対象企業
○助成金申請前の3ヵ月間における被雇用者1人当たりの売上高が、前年同期比20%以上減少した企業。
○助成金申請1ヵ月前における被雇用者の実質週間労働時間が、契約により定められた週間労働時間より平均20〜60%下回る企業。
○余剰人員が業務に当たっていない時間に参加させる研修経費を補償できる企業。研修は自社実施、外部受講のどちらでも可。

(2)補助金の内容
○受注減少により余剰となった被雇用者の6ヵ月間の賃金全額(労働局が不可欠と認めた場合のみ例外的に12ヵ月まで延長可)。ただし、対象者1人当たりの月額支給上限額は、賃金と社会保険料の雇用主負担分を合計して3万1,000コルナ(1コルナ=約4円)。
○対象被雇用者の研修経費。ただし、過去にEU基金を財源とした教育・研修助成金を受給していない企業に限る。
○対象被雇用者の研修経費の一部(過去にEU助成金を受給した企業の場合)。

(3)実施期間
2012年9月1日(運用開始日)〜15年8月31日(支援完了の最終期限)

(4)申請窓口
管轄労働局

予算枠は当初4億コルナとされており、その後申請状況をみてさらに4億コルナが追加される。しかし、総額8億コルナの予算では申請企業全てに対して助成金を支出することはできない。労働・社会福祉省と共同で支援制度案をつくったチェコ産業連盟のユジーチェク副総裁は、工業生産高が6月は前年同月比で2.2%減、前月比で0.3%減と回復の兆しがみられない現状(図参照)では、各企業の余剰人員全員に補助金を支給するには、最低でも年間15億コルナ必要になる、と見積もっている。

2012年工業生産高と工業新規受注の推移(前年同月比)

<受注回復の可能性を厳しく審査>
従って、申請企業に関しては、厳密な審査を行い、選別していくことになる。審査基準は、主に将来の業績上昇の見通しの有無で、短期的に受注が滞っていてもその回復に向けて現実的なプランのある企業のみが補助対象となる。労働・社会福祉省のマホトカ労働市場担当次官は「審査を担当する労働局は、銀行の貸し付け承認過程と同様の手続きを踏むことになる。薄型テレビが主流の現在、旧式(ブラウン管)テレビだけを生産している企業は、倒産もやむを得ないと見なし、支援対象とはしない」と説明している。

また研修は、講師の説明を座って聞くだけの理論研修だけでなく、実践的なものでなければならないとされている。主として失業の可能性が最も高い未熟練労働者を対象に、技術的、具体的な研修により、その技能を高めたり、拡張したりするのが目的だ。「例えば、錠前職人が溶接工としても働けるような技能を身につけられるような研修」(ユジーチェク副総裁)であることが要求される。

<大企業よりも中小企業に恩恵が大きい>
操短制度の効果に関して、ユジーチェク副総裁は、6,000人以上の雇用が維持されるとの見積りを発表している。また、企業業績への影響に関しては、「受注拡大を保証することはもちろんできない」としながらも、「労働者の資質、すなわち企業内部の潜在能力を向上させることで、企業は守備範囲を拡大することができ、それまで手が届かなかった案件に対しても受注が望めるようになる」と期待を寄せている。

これに対して、企業側も大半は支援を歓迎している。

ただし、大企業の中には、今回の支援策に対して、懐疑的な企業もある。警備用電子機器の大手メーカー・ヤブロトロンの取締役オーナー、ジェデク氏は「EU基金も結局はわれわれが(納税を通じて)支出しているもの。ギリシャのような状態に陥らないよう、このような方法でチェコの産業を支援していく必要が果たしてあるのかどうか、よく考える必要がある。基盤のしっかりした企業なら、現在の経済状況は自力で乗り越えられるはずだ。倒産の危機に瀕しているような企業に補助金を与える価値はない」と話している。

ユジーチェク副総裁もまた、操短制度は大企業よりも、中小企業にとってより効果的と予想し、「大企業の多くは、既に従業員研修に対する補助金を受給しているため、今回の制度の魅力はそれほど大きくはない。一方、中小企業で過去に研修補助金を受給したところはほとんどない」と指摘している。

(中川圭子)

(チェコ)

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