中朝国境地帯の共同開発めぐり北京で実務協議−企業投資の動きの一方、リスクも存在−

(北朝鮮、中国)

大連発

2012年08月27日

北朝鮮の張成沢国防委員会副委員長は8月14日、北京を訪問し、北朝鮮の羅先経済貿易区と黄金坪・威化島経済区の中朝共同開発に関する実務的な協議を行った。開発は順調とされるものの、「課題が多い」と話す中国関係者もいる。企業の対北朝鮮投資の動きがみられる一方で、失敗事例も報道されている。

<2経済区への投資促進を確認>
張副委員長は8月14日の北京訪問で、北朝鮮の羅先経済貿易区(注1)と黄金坪・威化島経済区(注2)の中朝共同開発に関する実務的な協議を行う「中朝共同開発・共同管理連合指導委員会第3回会議」に参加した。同会議は張副委員長と中国商務部の陳徳銘部長が共同で主催した。

同会議では、両経済区の開発について実務面での作業を進めていく段階に入ったとし、両経済区の管理運営を担う「管理委員会」の設立が決定された。また、管理委員会の運営、経済技術協力、農業分野協力、羅先地区への電力供給、工業園区の建設などに関する協議書が締結され、地区内のインフラ整備を進め、企業の投資を促進することが確認された。

<張副委員長が省トップとも実務協議>
会議終了後、張副委員長は吉林省長春市へ移動し、同省の孫政才書記と会談した。孫書記は「2011年6月に羅先経済貿易区の共同開発事業がスタートして1年余りが経過したが、両者の協力は非常に順調だ」とし、北京で行われた第3回会議において、吉林省と羅先特別市間で締結した一連の協議内容を実行して、より大きな成果を挙げるように努めるとした。

張副委員長はまた遼寧省瀋陽市で同省の王●(王へんに民)書記、陳政高省長とも会談し、黄金坪・威化島経済区の順調な開発状況を双方で確認するとともに、今後の発展に向けて努力するとした。

8月17日には再び北京へ戻り、胡錦涛国家主席、温家宝首相とそれぞれ会見し、中朝間の貿易投資交流促進や両経済区の開発推進について意見交換を行った。胡国家主席との会見には、遼寧省の王書記、吉林省の孫書記も同席した。

<経済区開発の進展以外の思惑も>
張副委員長の今回の訪中に関して、黒龍江省社会科学院関係者は、北朝鮮が中国との関係を引き続き重視し、中朝経済交流の積極的な促進を表明するためという一般的な見方に加えて、中国に対するさまざまな援助の要請、北朝鮮政府幹部の研修・北朝鮮労働者の派遣などに関する新たな提携モデルの構築、金正恩国防委員長訪中のための根回しという目的もあった可能性を指摘する。北朝鮮政府の幹部研修については、既に長春市、遼寧省大連市で実施されており、北朝鮮から中国への労働者派遣も拡大していく流れにあるが、人材管理面などで負担が大きく、積極的でない地方政府もあることから、今後の対応についての話し合いが持たれた可能性がある。

<インフラ整備など多い課題>
順調とされる羅先経済貿易区、黄金坪・威化島経済区の中朝共同開発だが、課題が多いとする意見もある。

北朝鮮問題専門家である中央党校の張●(王へんに2点しんにょうの連)瑰教授は「黄金坪は泥砂が堆積した川中島で、インフラ整備には大量の資金が必要だ。また国境に位置していることから安全保障上の問題もあり、開発には時間がかかる」と指摘した。(「南方日報」8月15日)。隣接する遼寧省丹東市政府関係者は「黄金坪・威化島経済区では、開発に向けての目立った動きはない。経済区で中朝いずれの政策や法律を適用するかや、利益の配分、軍隊の派遣問題などを詰めている状況」という。

羅先経済貿易区に関しても状況は大きく変わらない。吉林省延辺朝鮮族自治州琿春市の政府関係者は「羅先経済貿易区では既存の事業が継続されている以外、新規企業進出で目立った動きはない。北朝鮮の政治の不安定さや、法律の不備など投資環境の不安定さが、投資を考える企業の決断を遅らせている」としている。

<大手企業で投資失敗のケースも>
羅先経済貿易区への企業進出に関しては、吉林省経済技術合作局の李哲書記が「既に10社ほどの中国国有企業、大手民間企業が投資をしており、その中には香港招商集団の港湾建設、北大荒集団(黒龍江省)の農業栽培、緑地集団(上海)のインフラ建設プロジェクトなどが含まれる」と話す(「吉林新聞網」8月20日)。

香港招商集団の動向については、羅津港の第1埠頭から第3埠頭について50年の租借開発権を取得した(「環球報」8月14日)ほか、緑地集団副総裁が北京での第3回会議に参加し、インフラ建設に続き資源開発も検討中(「人民網」8月17日)とされている。

こうした個別企業の動きがみられる一方、先ごろ、中国トップ500社に数えられる遼寧省の西洋集団が北朝鮮投資に失敗したというニュースが中国内外のメディアをにぎわしたように、大手企業でも対北朝鮮投資に失敗した例も明るみに出ている。「北朝鮮への投資を考える企業に警鐘を鳴らした報道で、今後進出する際はリスクを十分考える必要がある」と先の黒龍江省社会科学院関係者は話す。

(注1)羅先経済貿易区は北朝鮮東北部の羅先特別市にある。同特別市は羅津、先鋒の2地域が合併し羅先と改称された。中国吉林省延辺朝鮮族自治州琿春市にある圏河税関から羅先特別市の羅津港までは約50キロ。
(注2)黄金坪・威化島は、ともに中国・北朝鮮国境沿いの鴨緑江河口(新義州)にある北朝鮮領の島(中州)。

(渕田裕介)

(中国・北朝鮮)

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