外国法人の支店・駐在員事務所開設手続きを簡素化−FTA相手国の企業が対象−

(メキシコ)

中南米課

2012年08月23日

経済省は8月8日、国家外国投資委員会の決議を官報公示し、米国、カナダ、チリ、コスタリカ、コロンビア、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ウルグアイ、日本、ペルーの12ヵ国で設立された企業に対し、通常国内で外国法人として活動する際に必要とされてきた経済省の開設許可を、不要とする措置を発表した。北米自由貿易協定(NAFTA)や日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)など国際協定に基づく相手国投資家の内国民待遇を根拠とした措置で、今後日本企業が支店や駐在員事務所などの拠点を設ける際、3週間程度の設立期間の短縮につながると期待される。

<許可制度から届け出制度に変更>
外資法第17条は、「メキシコ国内において常態で商行為を営もうとする外国法人」(I項)、「民法第2736条にのみ規定される(常態で商行為を行わない)外国法人でメキシコ国内に拠点を設けようとするもの」(II項)に対し、経済省の拠点開設許可を取得する義務を負うと定めている。

「常態で商行為を営む外国法人」とは日本でいう「外国法人の支店」に相当し、「民法第2736条にのみ規定される外国法人」とは、商行為を営まず、情報収集や商流管理、技術サポートなどを行う「駐在員事務所」に相当する。外資系企業がメキシコの商事会社法に基づき設立する「現地法人」は規制の対象外だ。

今回官報公示された国家外国投資委員会決議の第1条は、前述の12ヵ国で設立された外国法人については拠点開設許可を不要とし、以下の内容について当該法人の法的代表者が書面で宣誓し、届け出れば済むと定めている。

(1)当該法人の定款など設立公正証書において、メキシコの社会秩序に反する活動内容や目的が定められておらず、また、外資法を順守する内容となっていること
(2)対象となる12ヵ国の法律に基づき設立された企業であること
(3)常態で商行為を営む外国法人の場合、メキシコ国内に設けた支店や代理店など活動拠点の住所
(4)民法第2736条のみで規定される外国法人の場合、メキシコ国内に居住している法的代表者の氏名と住所

また、外国法人が支店や駐在員事務所を設立する場合は「商業登記」が必要で、商法第24条および商事会社法第251条に基づき、商業登記する際には事前に経済省の拠点開設許可を得なければならない。しかし、今回公示された決議の第2条は、対象12ヵ国の外国法人の商業登記に際し、前述した経済省への届け出書類に経済省の受領印と受領番号が記されたもの、あるいは経済省の受領証などを商業登記所に提出すれば事足りると規定している。

決議の前文で経済省は、簡素化措置を導入した背景として、メキシコと対象12ヵ国との間で締結している自由貿易協定(FTA)やEPAでは「投資」の章で相手国投資家に対する「内国民待遇」が盛り込まれていることを挙げている。外国法人にのみ求められる手続きである「経済省の拠点開設許可」をこれら12ヵ国に対して廃止することで内国民待遇を与え、12ヵ国の企業のメキシコ進出を円滑化するとしている。

従来、経済省による外国法人の開設許可は外資法17−A条に基づき、条件や書類に不備がない場合は申請日から15営業日以内で許可が付与されると定められていた。今回の決議で日本法人の支店や日系在米法人の支店の拠点開設許可取得が免除されることになり、支店や駐在員事務所の設立手続きが3週間程度短縮されると期待される。

なお、今回の簡素化措置にかかわらず、メキシコの法律に基づき設立された現地法人で外国資本が参加している企業、メキシコ国内において常態で商行為を行う外国法人は、外資法32条に基づき「国家外資登録」が必要だ。登録は法人設立後40営業日以内に行う必要があり、所定のフォーマットに必要情報を記入して提出するだけでよい。行政手数料は無料。

<会社設立関連の規制緩和進む>
カルデロン政権は以前から会社設立関連の規制緩和を進めている。2009年8月にはさまざまな管轄省庁における法人設立手続きを簡素化・一体化したポータルサイト「TuEmpresa.gob.mx」の運用が開始された(2009年8月11日記事参照)

議会でも会社設立を簡素化する法改正をし
ており、2011年12月15日には外資法、商事会社法、連邦行政機関法、連邦公課法など6つの法律を改正する政令が公布された。同政令による主な改正点は以下のとおり。

(1)社名利用許可・同変更許可の所管官庁変更および行政手数料の廃止
(2)最低資本金要件の廃止
(3)外国人(自然人・法人)による土地取得の際の行政手数料廃止

(1)については、外資法第15条、第16条、第16−A条が改正された。適用は法改正の官報公示から6ヵ月後の2012年6月16日から。従来は外務省がメキシコ国内で利用されている社名や団体名のデータベースを管理し、「会社設立許可」の名称で社名・団体名の利用許可を与えていたが、今後は経済省が所管する。経済省は高度電子署名(Fiel)を用いた新たな電子システムを9月17日から立ち上げる予定だが、それまでは外務省の協力を得て従来のデータベースに基づく運用を行う。改正された外資法第16−A条に基づき、社名利用・変更許可は申請から2営業日以内に与えられる。

また、経済省への移管に先立ち連邦公課法第25条が改定され、社名登録および変更に関する行政手数料〔2011年は新規登録が965ペソ(1ペソ=約6円)、変更が885ペソ〕が2012年1月1日に廃止された。

(2)については、商事会社法の第62条、第89条が改正され、2012年1月1日に最低資本金の規制が撤廃された。これにより1ペソから法人が設立できるようになった。従来は、日本でいう「合同会社」(S.R.L)の場合に3,000ペソ、「株式会社」(S.A.)の場合には5万ペソが最低資本金として必要だった。

(3)については、土地などの不動産(国境沿い100キロおよび沿岸50キロ以内の制限地域を除く)を取得する際の行政手数料が廃止された。従来は関連する2つの手続き合計で1万149.12ペソの手数料が必要だった。この手数料撤廃も2012年1月1日に実施された。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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