日清オイリオ、化粧品原料を現地生産−日系企業の欧州M&A戦略を聞く−
欧州ロシアCIS課
2012年08月20日
食用油大手の日清オイリオグループは2011年7月にスペインの化粧品用油脂の製造販売企業であるインダストリアル・ケミカ・ラセム(IQL)の株式85%を取得、12年7月に残る15%の株式を取得し、100%子会社化した。欧州における初めての製造拠点となるIQL買収の狙いと欧州債務危機の影響について8月2日、山内勝昭理事・ファインケミカル事業部長に聞いた。
<2007年ごろから欧州で生産拠点を探す>
日清オイリオグループ(以下、日清オイリオ)にとって、欧州市場は直接投資があまり進んでいない地域だったが、IQLの買収により欧州で初めて自前の製造拠点を持つことになった。IQLは化粧品用油脂を製造販売する企業で、日清オイリオのファインケミカル事業が展開する事業領域が重なっている。そのため両社が持つ技術や販売網を有効活用することで相乗効果が期待できる。
日清オイリオは20年以上前から、ファインケミカル製品を欧州に輸出してきた。ある程度、事業規模が大きくなったため、2007年にドイツ(デュッセルドルフ)に欧州営業拠点を設立した。その一方、欧州での生産拠点(委託先企業)を探していて、今回買収したIQLは、候補のうちの1社だった。
ただし、生産委託というかたちでは独自の技術を十分に注入できないので、2010年ごろから株式の過半数取得を条件に生産拠点となる企業の買収を検討し、IQLが浮上した。
協議を進める中、IQLの株主から全株売却してもよいとの意思表示があり、2011年7月に85%の株式を取得、12年7月に残りを取得し、完全に子会社化した。グリーンフィールド投資ではなく、企業買収というかたちを選択したのは、欧州に土地勘があまりなかったことに加え、買収先企業の持つ販売網も獲得したかったからだ。15%の株式を1年間残したのも、その間は経営トップに残ってもらい、IQLがこれまでに培ってきた欧州でのビジネススキルの継承をしっかりしてもらうためだった。
IQLは従業員約40人で、日清オイリオからは5人の駐在員を派遣している。2011年度第4四半期からIQLを連結決算の対象にしており、1〜2年かけて両社の事業で相乗効果を獲得していくための基盤を構築していく方針で、買収の成果などが出始めるのはこれからだ。
<化粧品大手が集まる欧州は重要な市場>
ファインケミカル製品は多岐にわたる。日清オイリオの製品は、主に植物由来原料を活用しており、食用油の精製で培った技術を生かし、エステルオイル系の化粧品の基材となる製品を製造している。製品の特徴・強みは、品質の高さにあり、安全性が高い、無色に近い、臭いがない、伸びがよく肌にのりやすい、といったことだ。
欧州市場が大きな意味を持つのは、そのマーケット規模に加え、グローバルに活躍する化粧品メーカーがフランス、イタリアを中心に数多く存在するためだ。IQLの製品分野は、日清オイリオと似ているが、各々が取り揃えている製品群の価格帯は異なる。日清オイリオが高価格帯製品を得意にしているのに対して、IQLは汎用製品が多い。技術面ではかなり共通しているため、IQLの買収により両社の品ぞろえを補完し合うだけでなく、シナジー効果も期待している。
なお、宇部興産など、スペインを足掛かりに南米市場に進出する日系企業もかなりある。南米は、日清オイリオにとって食用油の原料である大豆の調達先であるものの、ファインケミカル事業の展開という点では、今後、IQLの販路活用も踏まえて、具体的な拡大方針を形づくっていく方針だ。
<欧州債務危機と円高の打撃は大きく>
円高が買収に影響したかどうかという点については、交渉を始めたころはそうでもなかった。買収交渉が終了するころには円高が大幅に進み、買収決定の「追い風」となったことは確かだ。
一方、日本から欧州向けへの輸出については多大な影響を感じている。1ユーロ=95円(2012年8月2日時点)という為替水準は想定外で、「輸出だけでいつまでもやっていくことはできない」という思いを強くしている。さらに東日本大震災の影響もあった。震災直後の需給の混乱はもちろんのこと、世界各国から原発事故に伴う日本産品の安全性懸念が寄せられ、納品先によっては、放射線検査のデータ要求にとどまらず、製品の切り替えに動いたところもある。安全性を理解してもらうのに手間、時間、コストがかかった。
2011年は円高と東日本大震災のダブルパンチとなり、事業環境は厳しかったが、欧州の生産拠点獲得は、為替リスクや供給リスクに対する本質的なてこ入れ策となり得るものであり、世界への供給力強化という点でも、その効果は大きいといえる。
欧州債務危機の影響も予想以上に大きい。IQLの場合、日清オイリオによる買収で財務状況は改善したが、特にイタリアやスペインなどの販売先企業については、金融機関が貸し出し条件を厳しくしていることもあり、原材料の在庫を持ちたがらない。このため、IQLの業績にも影響が出ている。
IQLはスペイン東部カタルーニャ州バルセロナ市近郊にある。失業率(注)は高いものの、化学部門の熟練技術者となると人材確保は容易ではないという。
(注)カタルーニャ州の失業率は21.95%(2012年第2四半期平均、スペイン国家統計局)。
(植原行洋、牧野直史、岩井晴美)
(スペイン)
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