鋼材268品目の一般関税率、3%に引き上げ−日本製は日墨EPAの活用を−

(メキシコ)

中南米課

2012年08月10日

国税庁(SAT)は、2010年2月9日付官報公示政令の第2条、第3条に記載された鋼材・鉄鋼製品268品目の一般関税率を8月1日付で0%から3%に引き上げた。鋼材の関税が突然引き上げられたことになるが、日本製については日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)の原産地証明書を添付し、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)の電子産業、自動車産業、資本財産業登録企業が輸入すれば0%の特恵関税が享受できる。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<労組が提訴したアンパロ訴訟に政府が敗訴>
鋼材の一般関税率引き上げの背景には、鋼材・鉄鋼製品の関税撤廃措置の無効を求めた労働組合の訴訟で政府が敗訴したことがある。全国金属機械鉄鋼自動車部品産業労働者組合(SNTIMMSA)は2012年2月、コアウイラ州第8地区行政裁判所に対し、10年2月9日付官報公示政令に基づき12年1月1日に実施された鋼材268品目についての一般関税撤廃の執行停止を求めるアンパロ訴訟を起こした。

アンパロ訴訟とは憲法で保護された基本的人権を国が侵害した場合、その原因となった措置(行政・立法・司法措置)の無効を訴える裁判だ。

SNTIMMSAは、連邦政府が産業界や労働組合の了承なく一方的に関税を引き下げたことにより、中国、インド、ロシアなどメキシコと自由貿易協定(FTA)を締結していない国からの鋼材輸入が急増し、国内鉄鋼業界の生産と雇用が減少し、労働者の生活に大きな打撃を与えたと訴えた。

同行政裁判所は2012年2月10日、鋼材に関する関税撤廃措置を当面停止するとの暫定的判決を下し、6月29日には同判決を確定させ、経済省に対して10年2月9日付官報公示政令の第2条、第3条に掲載されている鋼材の関税率を11年時点の関税率に戻すよう命じた。

これを受け経済省は、合計268品目(対象品目のHSコードは添付資料参照)の鋼材の一般関税率を3%に設定するようSATに要請した。SATは8月1日付で情報告示087号を国内49税関に向けて発出し、3%の一般関税率の徴収が開始された。

<カルデロン政権下で平均関税率は低下>
カルデロン政権は2008年12月24日付官報で政令を公布し、8,000を超える品目について一般関税率を段階的に引き下げる措置を発表した(2009年1月15日記事参照)。この措置はFTAやWTOなどの国際協定に基づくものではなく、メキシコ政府の自主的な自由化措置だ。これにより11年までに鉱工業品の約6割の一般関税が無税となり、メキシコの単純平均関税率はカルデロン政権下で06年の10.2%から11年には6.9%まで下がった(表1参照)。

表1平均関税率の推移

政府は一般関税率を自主的に引き下げた理由として、a.中間財や資本財を中心に関税を下げることで組立加工業の競争力を向上させる、b.一般関税率を引き下げることによりFTAやPROSEC(注1)などの優遇制度を用いることなく中小企業でも低関税の恩恵が受けられるようになるという理由を挙げていた。

メキシコでは大企業を中心にPROSECやFTAなどの優遇関税の利用が盛んだ。FTA税率やPROSEC税率の適用まで考慮した加重平均関税率でみると、2006年時点でも1.05%にすぎず、部品・原材料などの中間財でみると0.53%の関税しか実際は支払っていなかったことになる。これらの優遇措置は資金力や人材に乏しい中小企業にとっては登録・管理コストがかかるために利用しづらいことを考慮し、政府は一般関税率を引き下げることで低関税輸入の恩恵を中小企業まで広げようとした。

この大幅な一般関税率引き下げにより、鋼材の関税率は2010年1月に撤廃される予定だった(表2参照)。しかし、政府の一方的な関税引き下げ措置は、輸入品との価格競争が激しい建設用など廉価な鋼材を生産する国内鉄鋼業界の強い反発を招いた。

表22008年12月24日付官報公示政令に基づく一般関税率削減スケジュール

2010年1月の関税撤廃を控えた09年末、全国鉄鋼業会議所(CANACERO、注2)の働き掛けが奏功し、経済省と全国工業会議所連合会(CONCAMIN)との間で鋼材の関税撤廃時期を2年間引き延ばすことが合意され、それを受けて公布されたのが2010年2月9日付官報公示政令だった(2010年2月12日記事参照)

この政令は鋼材の一般関税撤廃を2年間先延ばしにしたものの、2年後の2012年1月には撤廃されることになっていた。産業界は、2年の移行期間に政府が産業用電気料金の引き下げなど、国内産業の競争力強化策を導入することを関税撤廃の条件としていたが、電気料金が大きく引き下がることはなく、鉄鋼業界は鋼材の関税撤廃を中止するよう政府に要請していた。しかし、経済省が当初スケジュールどおり2012年1月に鋼材の一般関税を撤廃したため、CANACEROやSNTIMMSAのアンパロ訴訟を招く結果となった。

<「一律3%は判決を順守せず」と問題視も>
今回の一般関税率の引き上げは、2010年2月9日付官報公示政令に基づき2012年1月1日に撤廃された鋼材・鉄鋼製品268品目の関税を以前の水準に戻すことを求めた裁判所の裁定に政府が従ったものだが、アンパロ訴訟の判決に忠実に従えば、5%や7%に戻さなければならない鋼材や鉄鋼製品がある(表3参照)。

表32010年2月9日付政令に基づく一般関税率削減スケジュールの変更

しかし、SATはHSコードにかかわらず268品目全てに3%の関税を課しているため、SNTIMMSAは政府当局が判決を順守していないと問題視している。また、コアウイラ州第8地区裁判所は関税を2011年の水準に戻す裁定を下したが、SNTIMMSAは2010年の水準(3〜7%)まで戻すことを求めており、この点については反対する経済省との訴訟が継続している。

<行政通知に基づく引き上げで即日適用>
メキシコでは経済省が一般関税率や関税分類コードを定める権限を持っており、同省が決定し大統領が政令を公布することにより、議会の承認なく一般関税率を変更できる。しかし、今回の措置は判決に違反しないよう急ぎ適用されたもので、一般関税率の変更を定める政令を公布することなく、SATの「情報告示」という行政通知により3%の課税が即日適用された。

この措置により、無関税で輸入できた鋼材に突如、3%の関税が課されることになったため、鋼材の輸入業者には大きな影響が出ている。7月中に出荷された鋼材に対する免除措置もないため、経済省やSATを相手にアンパロ訴訟に訴え、引き上げ措置の執行停止を狙う輸入業者もある。

<PROSEC登録企業は日墨EPA活用で0%に>
鋼材は2011年からPROSECの優遇関税対象から外れているため(2010年2月12日記事参照)、自動車産業や電子産業でPROSEC登録している企業でも一般関税率3%の支払いは免れられない。

このような状況下では、日本製の鋼材については日墨EPAの適用を検討すべきだろう。行政府の措置で一般関税率が変更されても、国際協定である日墨EPAに基づく特恵関税率には変更がないからだ。

日墨EPAの関税撤廃スケジュールでは多くの鋼材が「D」カテゴリーとなっており、2004年1月時点の一般関税率を基点に発効後6年目から関税削減が開始された品目であるため、12年8月時点でも6.5%や9.0%など高い税率が残っている。ただし、これら「D」品目の中には協定付属書Iのメキシコ側注釈22〜24の規定に基づき、PROSEC第II業種(電子産業)、第IX業種(自動車産業)、第VII業種(資本財産業)に登録された企業が輸入すれば、日墨EPA税率が0%になる品目が多い。

PROSEC登録企業が日墨EPAを活用すると関税が0%になる鋼材は、日墨EPAの付属書I(関税譲許表)のコラム5の欄に「22」(電子産業)、「23」(自動車産業)、「24」(資本財産業)の番号が記載されている品目であり、それぞれ番号に呼応したPROSEC登録企業が輸入する場合に利用できる。今回の関税率引き上げ対象268品目の中では合計98品目ある。

PROSEC登録企業が輸入する場合でも、日墨EPAの特定原産地証明書が添付されていない場合は利用できないため、日本製の鋼材をメキシコに輸出する場合は、輸出者が特定原産地証明書を取得した上で輸出することが必要となる。

(注1)政府が国内生産を促進する合計24の業種に所属する企業(生産者)に対し、特定の部品、原材料、機械設備を優遇税率(例えば第XIX業種自動車産業の場合は0%か3%が多い)で輸入することを認める制度。プログラム制度であり、経済省に対してプログラム登録申請を出す必要があり、あらかじめ登録された企業のみ輸入申告の際にPROSEC税率が適用できる。
(注2)CANACEROも2012年2月9日、SNTIMMSAと同様のアンパロ訴訟を連邦区第7地区行政裁判所に提訴したが、最終的に経済省側の勝訴となった。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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