対EU、輸出入ともに減少−2012年上半期の貿易統計−

(スイス)

ジュネーブ発

2012年07月31日

連邦関税局の発表(7月19日)によると、2012年上半期(1〜6月)の貿易は、輸出が前年同期比0.2%減、輸入が0.3%減だった。貿易収支は前年同期とほぼ同じ116億1,900万スイス・フラン(1フラン=約80円)の黒字だった。欧州債務危機とフラン高の影響で、対EU貿易が輸出入ともに減少した一方、アジアや米国との貿易が好調で、地域により状況が全く異なることが明らかとなった。

<輸出の不振を時計と医薬品でカバー>
上半期の輸出を四半期ごとにみると、第1四半期が前年同期比0.5%増の502億1,400万フラン、第2四半期は0.9%減の498億3,700万フランと第2四半期に入り輸出が落ち込んだ。

輸出を品目別にみると、機械および電気・電子機器(11.3%減)、金属(9.2%減)、精密機械・医療機器(3.0%減)など、前年の下半期以降、フラン高を背景に受注減と輸出の鈍化がみられていた分野をはじめ、製紙・印刷・出版物(19.5%減)などが軒並み減少した(表1参照)。金属の減少には、自動車生産用のアルミニウムや鉄製品の需要減も影響した。

表12012年上半期の主要品目別輸出(通関ベース)

上半期の輸出減に歯止めをかけた主な要因は、前年同様に2桁台の成長を続ける時計(前年同期比16.4%増)、最大の輸出品目である医薬品を含む化学品(2.8%増)、食品・飲料(1.4%増)の3分野だった。化学品では景気や為替に左右されにくい免疫製剤、医薬品の輸出が伸び、食品ではチョコレートやたばこが減少した半面、チーズ、飲料、コーヒーの輸出が好調だった。

スイス製高級時計は、生産額の95%が輸出向けといわれている。アジアの新興富裕層に人気が高く、スイス時計協会FHによると、2012年上半期の時計輸出の56.5%がアジア(中東含む)向けで、前年同期比20.4%増と好調さを持続した。主な輸出先は、金額順に香港(25.7%増、構成比21.4%)、米国(18.3%増、10.6%)、中国(香港含まず、16.2%増、8.2%)で、6位のドイツ(35.7%増)、8位の日本(31.3%増)も大幅に伸びた。

世界経済の悪化にもかかわらず好調さを維持してきた時計だが、前年上半期には47.8%増を記録した中国への輸出の伸びに陰りがみえており、中国の経済成長の鈍化や欧州債務危機の影響で、12年下半期には輸出が伸び悩む可能性が指摘されている。

<好調な北米、アジア向け輸出>
輸出を地域別にみると、最大の輸出先のEU(構成比56.1%)が3.3%減となった(表2参照)。非ユーロ圏の英国(4.9%増)とハンガリー(13.8%増)向けは増加となったものの、最大の輸出相手国ドイツは横ばい、景気悪化が続くスペイン(10.4%減)、イタリア(9.4%減)、ギリシャ(20.4%減)、アイルランド(34.1%減)などは軒並み大幅減となった。

表22012年上半期の主要国・地域別輸出入(通関ベース)

冷え込むEUへの輸出に対し、アジアや米国への輸出は好調だった。アジアへの輸出(1.7%増)のうち、香港が時計の輸出増などにより23.6%伸び、東日本大震災の影響で減少していた日本向けも1.1%増と回復した。その一方、アジア最大の輸出相手国である中国は14.3%減少し、インドも13.2%減った。北米は医薬品の輸出が特に多かったことで、米国(10.2%増)、カナダ(11.9%増)向けが好調で、メキシコの伸びを中心として南米への輸出も9.1%増加した。

<消費財とエネルギー輸入は増加>
輸入を品目別にみると、構成比が最大の消費財は前年同期比3.2%増だった。これはフラン高による割安感から乗用車(8.9%増)、医薬品(5.9%増)の輸入が増加したことによるもので、装身具・装飾品(2.3%増)も堅調だった。石油燃料(38.4%増)を含むエネルギーは、1月下旬以降の寒波の影響で11.0%増となった(表3参照)。

表32012年上半期の主要品目別輸入(通関ベース)

原料・半完成品(7.7%減)や投資財(3.0%減)は、欧州危機とフラン高により輸出が減少した影響で国内の生産量が落ち、原材料輸入の需要が減ったことから、業務用輸送用機器を除き軒並み減少した。

<アジア、米国からの輸入が大幅増>
輸入を国・地域別にみると、欧州は構成比78.4%を占めており、そのうち最大の輸入相手であるEU(構成比77.2%)は4.7%減だった。国別では、最大のドイツ(31.2%)が7.7%減、イタリア(10.4%)が6.5%減、フランス(8.8%)も4.0%減と軒並み減少したが、スペイン(2.9%)は18.4%と増加、非ユーロ圏の英国(3.5%)も5.2%増だった(表2参照)。

5位の輸入相手国の米国は、化学品・医薬品や時計などの輸入で15.3%増だった。スイス化学工業会によると、米国からの化学原料輸入が36.7%と大きく伸び、金額が最も多い医薬品も3.4%増加した。

落ち込んだEUからの輸入に対し、アジアからの輸入は16.9%増となり、特に中国からの輸入は63.5%と急増した。震災の影響で大幅に減少していた日本からの輸入も22.2%増と大きく伸びた。これは主力品目の化学品・医薬品、自動車が増加したことによる。スイス自動車輸入協会によると、2012年上半期の乗用車の新規登録台数は17万7,310台で前年同期比11.9%増となり、日本車では日産(11.3%増)、トヨタ(6.2%増)、ホンダ(5.4%増)が伸びた。また、スイス化学工業会によると、上半期の日本からの医薬品輸入は63.5%、化学原料輸入は32.3%、それぞれ増加した。

アフリカからの輸入は構成比1.3%と少ないものの、リビアからの石油の輸入が約5.4倍で、全体として70.7%の増加となった。

(洞ノ上佳代)

(スイス)

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