活躍する企業の戦略は多様−アフリカビジネスセミナー(2)−

(アフリカ)

中東アフリカ課

2012年07月31日

シリーズ2回目は、アフリカで活躍する企業のさまざまな戦略を報告する。

<ネスレ:現地志向型のビジネス戦略>
ジェトロ海外調査部の大木博巳主任調査研究員は「アフリカで活躍する企業」と題して、欧米企業や中国、韓国、インド、日本企業の進出事例を紹介した。概要は以下のとおり。

スイス食品企業ネスレは、新興国ビジネスでPPP(Popularly Positioned Products)戦略を採用している。これは新興国の低所得者層向けの事業戦略で、「消費者向けの、栄養価のある、手の届く価格の製品」という考え方だ。対象とする所得層は1日3〜4ドルを使う消費者で、アフリカでは「マギーシーズニング」「マギーブイヨン」「ミロ」などが人気のPPP製品だ。

ネスレのビジネスモデルは「共通価値の創造」と呼ばれるほど現地志向型だ。コミュニティーの人々の生活を理解し、農家、販売業者、建設業者などと良好な関係を構築するという基盤の上に成立している。例えば、ブイヨンの原料となるキャッサバの供給網を構築するため、西アフリカの数ヵ国で数千戸の農家と協業している。

<ZTE:大規模低コスト生産能力を生かす>
中国企業の中興通訊(ZTE)は、南アフリカ共和国で携帯電話会社ボーダコム、MTN、セルCが参加する通信ネットワーク構築のため、サービス・機器の提供を行っている。ZTEは、2010年にセルCとともに実施した投資総額数十億ランド(1ランド=約9.5円)のプロジェクトに参加した。ZTEの年次報告書によると、アフリカ全体の売上高は106億3,900万元(1元=約12.2円)。売上総利益率は44.83%で、世界市場の平均を10ポイント余り上回るなど順調だ。

ZTEの特徴は、一般消費者への直販ではなく、現地携帯電話プロバイダー向けの製品を提供するという手法だ。大規模低コスト生産能力がより効率的に生かせるような価格差を求める、あるいは同社の技術によって低コスト・高メリットの拡張プログラムを顧客に提供できる分野を模索するという企業戦略をとっている。

<サムスン電子:短期決戦へ事業拠点拡大>
韓国企業サムスン電子がアフリカビジネスを本格化させたのは比較的最近だ。2015年までにアフリカ市場で100億ドルの売り上げ達成という目標を掲げ、短期決戦で臨んでいる。このため、アフリカでの事業拠点を急拡大している。事業拠点は09年から10年にかけて15ヵ国から42ヵ国に、販売代理店数は32から80に、サービスコールセンターも18ヵ所から36ヵ所にした。同社の特徴として、意思決定のスピードが速いことが挙げられる。地域代表に大きな権限を委譲し、プロジェクトの立案から決定までの所要を2ヵ月程度としているという。

<エアテル:携帯市場の潜在需要に注目>
インドのバーティ・エアテルは、アジア、アフリカ19ヵ国で事業展開するグローバル通信大手。世界で2億人(2010年)の顧客を抱え、アフリカでは5,000万人を超える。10年6月にクウェート系ザインのアフリカ資産を107億ドルで買収して市場に参入した。アフリカ諸国市場での政府の事業免許を次々と獲得し、現地の人材を即戦力に据えた。アフリカのビジネス機会について、同社は「アフリカのモバイル普及率は40%未満で巨大な潜在需要が見込める」「モバイル普及率の伸びはわずか10%だが、モバイルサービスへの需要は年率25%で伸びている」と指摘している。

同社の戦略的提携も注目に値する。2011年6月には、中国華為技術(ファーウェイ)との間で、エアテルの第2および第3世代ネットワークインフラの更新と、モバイルブロードバンド受信可能地域拡大の協定を締結した。11年7月には、ネットワーク管理事業をエリクソンに外部委託し、さらにIBMと協定を結びITインフラと機器の設置と管理を委託した。11年10月にはノキア・シーメンス・ネットワークスと契約し、アフリカでのネットワークサービスの設置と管理を委託している。

<味の素:ガーナの栄養改善プロジェクトで協業>
日本企業の事例では、味の素がガーナで行うソーシャルビジネスがある。味の素は2009年、ガーナで子供たちの栄養不足解消を目的とした「ガーナ栄養改善プロジェクト」に乗り出した。プロジェクトの推進に当たって、ガーナ政府、国際機関、企業、NGOなどと連携を図り、同社の強みである食品科学とアミノ酸栄養のノウハウを生かしたサプリメントを開発した。

開発に当たっては、第1に地元の人々がおいしいと感じること、第2にターゲットとなる人々に製品を届けるルートを確保すること、という2点を重視した。ガーナ人がおいしいと感じるような製品の開発に際しては、パートナーの1つであるガーナ大学が味覚テストを行った。その結果、現地生産用の試作品「ココ・プラス」が生まれた。伝統的な離乳食であるココ(乳酸発酵した発酵コーンに砂糖を加えたおかゆ)を作る時に、砂糖の代わりにこのサプリメントを加えることで乳幼児に必要な栄養が補充され、かつおいしい離乳食ができるという。

第2の課題の、どのようなルートを使って人々に届けるかという点は、対象コミュニティーで活動するNGOのネットワークを活用して製品を届けようとしている。国際NGOのCAREがガーナで行っている女性自立支援活動のネットワークを基盤に、女性販売員の販売網を作ろうという試みだ。栄養教育についてはガーナ保健省とともに栄養改善に取り組んでいる。

このようにソーシャルビジネスを進めていく上で、パートナーとの連携は不可欠だ。味の素は多種多様なパートナーとウィン・ウィンの関係を模索しながら、試行錯誤の中で最適解を目指すとしている。

(高崎早和香)

(アフリカ)

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