訪日のチャンギライ首相、政情の安定化を強調

(ジンバブエ、アフリカ)

中東アフリカ課

2012年07月27日

モーガン・チャンギライ首相が率いるミッションが訪日し、ジンバブエへの投資を呼び掛けた。7月18日に開催された投資セミナーでは、同首相が基調講演したほか、鉱山・工業開発副大臣らが鉱物資源開発の現状と展望、投資環境や外国企業の進出状況について紹介した。日本企業としては唯一ジンバブエに駐在員を派遣する伊藤忠商事が投資環境などを報告した。

<日本からの技術移転など呼び掛け>
在日ジンバブエ共和国大使館、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、ジェトロは7月18日、東京都内でジンバブエ投資セミナーを開催し、ビジネス関係者ら50人が参加した。

チャンギライ首相は基調講演で、「2008年大統領選挙での混乱による経済崩壊を経験して、政治が経済にどれほど大きな影響を与えるか身をもって知った。国情の安定は投資の必須条件だ。現在では政治経済情勢は安定しており、ジンバブエは最適な投資先だ」と訴えた。

同首相は「各国で開催した投資フォーラムに多くの外国人投資家が来場し、鉱業、農業、観光、製造業の分野で高い関心を示している」と指摘。今後の産業再構築や経済復興の過程では「通信、鉄道、道路、航空分野などで、より一層ビジネス機会が拡大する」と述べた。日本に対しても、既に進出している自動車分野のほか、鉱物資源探査や建設などの分野で技術移転やパートナー事業を検討してほしいと呼び掛けた。

投資誘致の課題としては「電気、水道、道路などのインフラの未整備」を挙げた。外国企業の現地法人の株式のうち51%をジンバブエ人が所有しなければならないと規定する「現地化・エンパワーメント法」(以下、現地化法)については、「国民のエンパワーメントを図るという基本理念が十分に理解されていない。投資家とのコミュニケーション不足が原因だ」と指摘。また、「ジンバブエはここ10年間、メディアによって誤ったイメージを作られ、その悪影響は大きかった。マイナスのイメージを払拭(ふっしょく)するため、国情が安定しているという事実を自ら国際社会に伝える使命がある」と語った。

<クロム鉱石やプラチナなどが豊富>
ギフト・チマニキレ鉱山・工業開発副大臣は「鉱物資源開発の現状と展望」と題して講演した。国土の60%が始生代の花こう岩で覆われており、「これを南北に分断するグレートダイク岩体(幅3〜12キロ、長さ480キロ)には、ニッケル、銅のほかクロム鉄鉱が豊富に埋蔵している」と紹介した。現在40〜45種類の鉱物が採掘されており、代表的な鉱物資源には、クロム鉱石(埋蔵量世界最大)、プラチナ(同2位)、石炭(同2位)がある。「近年ではダイヤモンドも発見され、定量的な調査は行われていないが、推定で世界の埋蔵量の25%を占めるとされる」と語った。

また、これらの資源の探査、開発には多くの外国企業が乗り出しており、「資源大手のアングロ・アメリカン、リオティントや、南アフリカ共和国企業のインパラ・プラチナが投資するほか、中国企業も現地企業との合弁で資源開発を進めている」と語った。こうした企業は電力不足への対応として、隣国モザンビークなどから電力を輸入しているという。

チマニキレ副大臣によると、ジンバブエのGDP成長率は2009年が5.9%、10年が8.1%、11年が9.3%と推移し、鉱業の寄与度は09年が4.0%、10年が4.0%、11年が13.0%だった。鉱業部門の輸出は、09年が16億ドル、10年も16億ドル、11年は24億5,000万ドルとなった。

<リスク軽減で投資は回復傾向に>
モーゼス・チュンドゥ首相府局長は「ジンバブエの投資環境と外国企業の進出状況」について講演。「ジンバブエ経済は持ち直している。2011年は9.3%と高いGDP成長率を記録した。インフレ率は1桁台で、12年に入ってからも2月は4.3%、3月は4.0%と落ち着いている。製造業部門の設備稼働率も08年当時の10%から、現在では40〜50%に回復した」と述べた。

対内直接投資の推移については、「1998年がピークで、4億4,400万ドルの流入を記録した。それ以降は政治不安で投資は減少した。ところが、近年は増加傾向にある」と紹介した(図参照)。この要因について、「2009年2月に次回選挙までの移行体制として連立政権が樹立されて以降、政治混乱が解消され政治リスクが軽減された。09年1月に複数外貨併用制が導入され、為替リスクやインフレリスクが軽減された」と指摘。将来の見通しについても投資家の間で「状況が悪化することはない」との認識が広がっていると説明した。

対内直接投資への推移

投資家の最大の懸念である現地化法については、「同法が施行された影響で投資が減少した」と認めつつ、「同法は与野党および関係者すべてのコンセンサスを得ている。国民のエンパワーメントを実現させるという理念に基づくもので、外国企業のビジネスに脅威を与えるものではない」と述べた。

<進出日系企業は厳しい投資環境を指摘>
最後に、伊藤忠商事自動車第2部自動車第1課の中島仁課長代行が、駐在経験をもとにジンバブエの投資環境について説明した。同氏は2007年から4年間、ジンバブエの首都ハラレに滞在した。自動車組立工場ウィローベールマツダモーターインダストリーズ(マツダが25%、伊藤忠商事が8%出資)の親会社であるモテック・ホールディングス(伊藤忠商事が25%出資)に出向するかたちで派遣された。中島氏によると、日本企業からのジンバブエへの企業派遣員は、03年以降は伊藤忠商事の1人のみで、04年に同社の事務所は閉鎖されたという。

中島氏は「経済崩壊によって外貨獲得が困難になり、輸入産業である自動車業界も打撃を受けた。自動車需要も激減した」と述べ、こうした状況下で事業を継続できたのは、産業発展や雇用保護の観点から政府からの手厚い保護政策があり、現地パートナーの協力もあったからだ、と説明した。

経済状況については、「連立政権発足を機に徐々に改善している。複数外貨併用制が導入された後はインフレが抑制された。外国為替に関する目立った規制はなく、決済や送金はスムーズに行える」と報告した。また、「勤勉な国民性で、識字率90%という数字も実感としてうなずける」とし、「政治混乱が原因で人材が海外に流出したといわれ、若年層に限ると人材不足を感じることもあるが、全体的にみると優秀な人材は残っている」と述べた。

一方、インフラに関しては、経済崩壊の影響で受けた傷が治っていないという。「電力不足は深刻で会社や自宅は絶えず停電していた。工場が稼働できないほか、パソコンが使えず事務処理もできない。水道は故障してから数年たっても修理されず、庭から地下水をくみ上げて使っていた」と語った。

中でも、「物流は壊滅的な打撃を受けた。内陸国であるジンバブエでは輸送は鉄道に頼っているが、貨物の到着が予想できず、生産計画を立てられない。これは製造業にとっては致命傷になる」と指摘した。

現地化法については、「類似のルールは他国でもみられるが、現地資本の割合が51%となると、外国企業は不安を感じる」と語った。

<中国による投資件数が最多>
投資庁によると、2011年の対内直接投資は認可ベースで66億3,400万ドルだった。投資件数は227件で、分野別では製造業が90件、鉱業が63件、サービス業が56件など。国別では中国が105件と圧倒的に多く、次いで南ア35件、英国11件だった。

中国の進出については、チャンギライ首相は会場からの質問に対し、「1ヵ月前に中国を訪問した。中国のジンバブエに対する関心の高さは予想をはるかに超えるものだった。中国企業7社と面談した。そのうちの1社である中国水利水電建設集団(シノハイドログループ)は、水力発電所(カリバダム)建設に強い意欲をみせた。そのほかの企業は道路建設、ダイヤモンド採掘、医療機器などの分野に関心を示した」と語った。

(高崎早和香)

(ジンバブエ)

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