新たな投資インセンティブ制度始まる−研究・開発力の強化狙う−

(トルコ)

イスタンブール発

2012年07月19日

政府の新投資インセンティブ制度が6月19日、官報に公示された。2012年1月にさかのぼって適用される。この結果、09年に発表されたインセンティブ制度に関しては継続部分を除いて停止される。新しいスキームは社会・経済の発展度合いによって全国をIからVIの地域に分け、付加価値税(VAT)と関税が免税される一般投資のほか、地域投資、大規模投資、戦略投資からなる。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<輸入依存の改善にも重点>
政府の投資インセンティブの改定(官報6月19日付28328号)は、投資に当たっての機械・設備購入にかかる付加価値税(VAT/トルコ語ではKDV)免税、輸入関税免税、法人税の低減、また雇用にかかわる社会保険料積み立て、被雇用者所得税控除に対する補助(地域VIのみ)、工業用地の無償供与、VAT払い戻し〔投資額5億トルコ・リラ(1リラ=約44円)以上を対象〕、支払金利に対する補助(地域III〜VIを対象)からなり、地域、規模、戦略性によって適用範囲が異なる。インセンティブは、対内直接投資拡大による国内産業の充実、後進開発地域の発展、雇用の拡大といった一般目標だけでなく、トルコ経済の脆弱(ぜいじゃく)な部分である生産の輸入依存改善に向けた戦略目標にも重点が置かれている。研究・開発力を外資の導入によって強化することで、経済の構造的問題を解決する狙いがある。

<地域別インセンティブ>
地域Iはアンカラ、イスタンブールなど西部を中心に8県、IIはアダナなど13県、IIIはバルケスイルなど12県、IVはアマスィヤなど17県、Vはオスマニエなど16県、VIはアルダハンなど東部の15県で、後進開発地域に対するインセンティブが厚く設定されている。また、投資の時期や公認工業地帯(OIZ)内とその他の地域でも適用規模が異なる。さらに5社以上のジョイントベンチャーが同一のセクターへの投資を行う場合、科学・技術研究評議会(TUBITAK)が支援する研究開発(R&D)プロジェクトには税控除率、社会保障支援が地域Iで地域IIの規模が適用されるなど、地域措置が1段階優遇される。なお、インセンティブ獲得に必要な最低投資額は地域I〜IIが100万リラ、その他は50万リラとなっている。

上記業種に対して、地域別に法人税(法定税率20%)を50〜90%低減。
○地域I−50%、免税枠は投資額の15%(2014年以降は10%)以下
○地域II−55%、免税枠は投資額の20%(2014年以降は15%)以下
○地域III−60%、免税枠は投資額の25%(2014年以降は20%)以下
○地域IV−70%、免税枠は投資額の30%(2014年以降は25%)以下
○地域V−80%、免税枠は投資額の40%(2014年以降は30%)以下
○地域VI−90%、免税枠は投資額の50%(2014年以降は35%)以下

また、社会保障費の雇用者負担分を2〜10年にわたって、財務庁が代わって負担する(添付資料の表1参照)。
○地域I−2年(2014年以降は0年)、適用総額は投資額の10%以下
○地域II−3年(2014年以降は0年)、適用総額は投資額の15%以下
○地域III−5年(2014年以降は3年)、適用総額は投資額の20%以下
○地域IV−6年(2014年以降は5年)、適用総額は投資額の25%以下
○地域V−7年(2014年以降は6年)、適用総額は投資額の35%以下
○地域VI−10年(2014年以降は7年)、適用総額は投資額の50%以下

また、以下の投資に関しては地域I〜IVの投資であっても地域Vのインセンティブが適用される。
○閣僚評議会によって定義される文化・観光保護開発地域への観光投資
○鉱物産業への投資
○鉄道・海運への投資
○最低2,000万リラの一部製薬および防衛産業への投資
○自動車産業、航空宇宙産業、防衛産業にかかわる試験設備、風洞実験にかかわる投資
○民間による小・中・高等学校への投資

<大規模プロジェクト・インセンティブ>
大規模プロジェクト・インセンティブは、技術力と資本力を必要とする以下の12のセクターでの大型投資に対して税の優遇を行うもので、地域別インセンティブとの組み合わせとなる。

(1)石油工業;最低10億リラの投資を条件とする。
(2)化学工業:最低2億リラの投資を条件とする。
(3)港湾および港湾サービス:最低2億リラの投資を条件とする。
(4)自動車関連:自動車生産は最低2億リラ、自動車部品は5,000万リラの投資を条件とする。
(5)鉄道および鉄道車両:最低5,000万リラの投資を条件とする。
(6)輸送パイプラインおよびサービス:最低5,000万リラの投資を条件とする。
(7)電子機器:最低5,000万リラの投資を条件とする。
(8)医療機器および精密機器:最低5,000万リラの投資を条件とする。
(9)医薬品:最低5,000万リラの投資を条件とする。
(10)航空宇宙関連:グリーンフィールドあるいは最低5,000万リラの投資を条件とする。
(11)機械機器(電気機械、設備を含む):最低5,000万リラの投資を条件とする。
(12)鉱業(金属加工を含む):最低5,000万リラの投資を条件とする。

上記12のプロジェクトをIからIVの地域別に法人税(法定税率20%)を50〜90%低減。
○地域I−50%、免税枠は投資額の25%(2014年以降は20%)以下
○地域II−55%、免税枠は投資額の30%(2014年以降は25%)以下
○地域III−60%、免税枠は投資額の35%(2014年以降は30%)以下
○地域IV−70%、免税枠は投資額の40%(2014年以降は35%)以下
○地域V−80%、免税枠は投資額の50%(2014年以降は40%)以下
○地域VI−90%、免税枠は投資額の60%(2014年以降は45%)以下

また、社会保障費の雇用者負担分を2〜10年にわたって、財務庁が代わって負担する(添付資料の表2参照)。
○地域I−2年(2014年以降は0年)、適用総額は投資額の3%以下
○地域II−3年(2014年以降は0年)、適用総額は投資額の5%以下
○地域III−5年(2014年以降は3年)、適用総額は投資額の8%以下
○地域IV−6年(2014年以降は5年)、適用総額は投資額の10%以下
○地域V−7年(2014年以降は6年)、適用総額は投資額の11%以下
○地域VI−10年(2014年以降は7年)、適用総額は投資額の15%以下

<戦略投資インセンティブ>
対象となる戦略投資とは、トルコが50%以上を輸入に依存している中間財あるいは最終製品の生産投資で、経済省の「インプット・サプライ戦略」をもとに貿易バランスの改善と高付加価値生産での競争力増大を目的としている。条件として、上記のほか、最低5,000万リラ以上の投資であること、40%以上の付加価値を創出すること、生産する製品が過去1年間で少なくとも5,000万ドルの輸入が行われているか、国内で生産が全く行われていないこととなっている(添付資料の表3参照)。

その他のインセンティブとしてトルコには、フリーゾーン、技術開発ゾーン、R&D、工業テーゼ・プログラム、技術開発案件に対する貸付、中小企業支援、訓練支援、再生可能エネルギーに対する助成制度があるが、今回の改正の対象とはなっていない。また、農業及び農産業(一部条件下での畜産業を除く)、エネルギーおよび鉱業、サービス業に関しては、基本的に新インセンティブの対象とはならない。

<産業界の評価は良好>
政府の新しい投資インセンティブに対して業界からは、おおむね好意的な評価がなされている。トルコ工業・企業家協会(TUSIAD)は、新投資インセンティブがトルコ経済の発展への追い風になるとし、新制度が全ての経済セクター、企業家精神、経済規模での生産性増大といった必要性を満たすものであるとした。独立工業・企業家協会(MUSIAD)は、新制度が経常赤字の要因である中間財の輸入依存を抑え、生産投資を促進させる包括的なものであるとし、政府による国内生産に対する積極的な支援表明であると評価した。また、トルコ輸出業者会議(TIM)は、新制度がトルコ産業の技術力上昇を加速化させるものであり、また地方との社会・経済格差を縮めるものであるとしているように、トルコの産業界も国内産業の弱点であるハイテクノロジーの欠如とトルコの西高東低という地域格差という問題点の改善に大きな期待を抱いている。

チャーラヤン経済相は、新投資インセンティブが、一般機械、鉄鋼、自動車、食品・農業、化学品、繊維・衣料品分野での生産能力と競争力を増大させることが期待されていると強調した。政府はこれら6部門がトルコの経常赤字拡大の主因につながっているとみている。同相はまた、トルコがサービスと生産における地域の戦略的なハブになることを予想するとし、コカ・コーラはイスタンブール社を、地域本部から90ヵ国を統括するユーラシア・アフリカ事業のハブとし、ユニリーバも35ヵ国を統括する本部に格上げしたと述べた。トルコ投資促進機構(ISPAT)によると、その他の外資系企業を含め26社がトルコに周辺地域の統括本部を置いているという。

(中島敏博)

(トルコ)

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