ムーディーズ、イタリア国債を2段階格下げ−今後の見通しも「ネガティブ」−
ミラノ発
2012年07月17日
格付け会社ムーディーズは7月13日、イタリア国債の格付けを「A3(中級の上位で信用リスクが低い)」から「Baa2(信用リスクが中程度で、一定の投機的な要素を含む)」に2段階引き下げた。格下げを受けて国内では反発の声が広がったが、ムーディーズは今後の格付け見通しについても「ネガティブ」としており、経済の低迷が続く中、さらなる格下げも否定できない状態が続いている。
<流動性リスクの高まりも要因>
ムーディーズは今回の格下げの要因として、イタリアが突発的なイベントリスクの影響を受けやすくなっていることや、経済がさらに悪化していることを挙げている。具体的には(1)不安定な政治状況や依然として国債がデフォルトするリスクが高いことにより、欧州債務危機の正常化には長い期間が必要、(2)ギリシャの経済悪化やユーロ圏離脱の可能性の高まり、スペインによるさらなる追加支援要求の可能性が高まっていること、(3)イタリア経済が引き続き高債務体質で巨額の資金調達の必要性に迫られていることも相まって、流動性リスクが高まっていること、(4)イタリア経済の悪化によって財政債権目標を達成できないリスクが生じていることなどだ。
<政府の改革努力には一定の評価>
一方でムーディーズは、現政権による構造改革や財政健全化への強いコミットメントが、イタリア国債の格付け押し下げ圧力を和らげたことも指摘。イタリア政府が法制化している改革プログラムが、イタリアの中長期的な経済成長や財政に具体的な改善をもたらす可能性があることも認識しており、政府の改革努力を無視した格下げではないことを指摘した。
ムーディーズは、今後の格付け見通しを「ネガティブ」とし、政府が打ち上げている改革が、実際に実行されていくかという点にリスクが残っていることを反映した結果だとした。特に2013年春に予定されている議会選挙を中心として、政治状況が改革実行へのリスク要因になっている。また、経済環境の悪化が国民の間に質素な生活や改革疲れを生んでいることも「ネガティブ」とした要因になっていると指摘しており、経済構造改革の着実な実行と景気の浮揚が今後の格付けに大きく影響することになる。
<改革の評価に首相反論>
ムーディーズによる国債の格下げを受け、地元各紙は国内で反発の声が広まっていることを報じている。
マリオ・モンティ首相は訪問先の米国で「われわれは評価されるべきであるにもかかわらず罰せられている」(「イルソーレ24オーレ」紙7月14日)と述べ、現在行っている政府の改革が正当に評価されていないと反論した。またコッラード・パッセラ経済開発相もモンティ首相と同様に、改革が正当に評価されていないと批判した上で、今後時間をかけて市場が改革を評価することになるとの見方を示した(「コリエーレ・デッラ・セーラ」紙7月14日)。また、ジョルジオ・スクィンツィ産業連盟会長は「製造立国のイタリアはムーディーズが評価するよりもさらに強固である」との見解を示し、その他の業界団体も総じて同様の見解を示し、格下げに反発している。
<経済低迷で失業率は10%突破>
しかし、足元の経済は、ムーディーズが格下げの要因として挙げたように、低迷状態が続いている。6月に発表されたイタリア国家統計局(ISTA)の統計によると、2012年第1四半期のGDP成長率(確報値)は前期比マイナス0.8%で、11年第3四半期にマイナス0.2%を記録して以降、3期連続でマイナスとなり、さらにマイナス幅も拡大している。特に総固定資本形成が、輸送機器分野で12.5%減となったことが影響し、全体で3.6%減となった。また、牽引役の輸出も0.6%減となり、11年第4四半期の0.1%減に続き2期連続でマイナスを記録した。輸入が3.6%減と減少した影響で、純輸出は前期比でプラスを維持しているが、輸出自体の伸びが減少し始めており、今後に懸念が残る。
また経済成長が低迷する中、消費者物価指数は11年9月に前年同月比3%を上回って以降、3%台の前半で推移し、最新の12年6月(確報値)も3.3%と横ばいが続いている。また失業率についても高止まりが続いており、12年3月には10%台を突破、5月(速報値)も10.1%と10%台を維持するなど、モンティ政権は引き続き難しい局面に直面している。
なおモンティ首相は、11年11月の政権発足以来、経済・財務相を兼務してきたが、7月11日に経済・財務省副大臣のビットリオ・グリッリ氏を後任に指名した。グリッリ氏は副大臣に就任する前の05〜11年に経済・財務省国庫局の局長を務め、以前は同省の経済財政および民営化分析部門にも在籍するなど、国家財政に精通している。また首相は同日、経済や財政政策を調整するための委員会を設立することを発表した。同委員会はモンティ首相が議長となり、経済・財政相、経済開発相などによって構成される予定で、会議にはイタリア銀行総裁も招集され、経済や財政政策が議論される。
(三宅悠有)
(イタリア)
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