次期財務相に経済学者のストゥルナラス氏−企業撤退の動きなど難題山積−
ミラノ発・欧州ロシアCIS課
2012年06月28日
首相府は6月26日、健康問題を理由に辞任したラパノス財務相の後任として、経済産業研究財団(IOBE)のストゥルナラス理事長を指名したと発表した。ギリシャ・ナショナル銀行会長を務めるラパノス氏と同様、ストゥルナラス次期財務相もエンポリキ銀行で経営者を務めた経験を持つ。だが、ギリシャでは景気低迷の長期化から消費市場の冷え込みが深刻で、フランス流通最大手のカルフールが事業撤退を発表したばかり。資金繰りに課題を抱えるギリシャ資本の国外事業からの撤退も進んでおり、課題は山積している。
<中央銀行や財務省にも勤務>
サマラス首相が次期財務相にストゥルナラス氏を起用したのは、ラパノス財務相が健康上の理由から辞任したため。
ストゥルナラス氏はアテネ大学経済学部教授で、ギリシャ経済を研究する非営利財団の経済産業研究財団(IOBE)の理事長を務める経済通だ。1956年12月生まれで、78年にアテネ大学経済学部を卒業後、82年に英国オックスフォード大学で経済理論・政策の博士号を取得した。ギリシャ銀行(中央銀行)や財務省に勤務した経験を持つ。また、2000〜04年までエンポリキ銀行で会長兼最高経営責任者(CEO)を務め、ギリシャ銀行協会・副会長も経験した。
<欧州流通最大手もギリシャに見切り>
政局が混迷を深める中、ギリシャの消費市場は冷え込んでいる。国家統計局が5月31日に発表した12年3月の小売売上高指数(自動車燃料を除く)は、前年同月比で14.4%減少した。国内消費市場の低迷は長期化しており、11年3月時点で前年同月と比べ15.6%の大幅減少に陥っていた。
こうした中、欧州流通最大手のカルフールは6月15日、ギリシャ流通市場からの事実上の撤退を発表した。同社はギリシャおよびキプロス市場で、ギリシャ資本のマリノプロス・グループとの合弁で展開してきた事業(「カルフール・マリノプロス」ブランド)に見切りをつけ、合弁事業での保有株式の全てをマリノプロスに売却する。マリノプロスは、ギリシャおよびキプロスのほか、アルバニアなど一部バルカン諸国での事業もカルフールの独占的フランチャイズとして継承するため、消費者に大きな混乱はないと考えられる。
マリノプロス・グループの発表によると、「(カルフールの判断は)現在のギリシャの厳しい経済情勢に対応するもの」で、合弁解消は避けられなかったという。また、グループのレオニダス・マリノプロス会長のコメントを引用し、「ギリシャ・キプロス小売流通市場でのリーダーとしての地位確立に貢献した従業員、取引先とともに『カルフール・マリノプロス』ブランドを維持していく」と表明した。
ただし、現地英字紙「アテネ・ニュース」(6月15日)によると、カルフールは11年にギリシャ国内で22億ユーロの売り上げがあったが、約4,000万ユーロの最終損失を計上したという。また、12年第1四半期に前年同期比で15.9%の売り上げ減に直面していた、と現地紙「イ・カシメリニ」(6月15日)は報じた。また、カルフール・グループが12年第1四半期決算で、売上高が前年同期比で0.9%増と辛うじてプラス成長を維持できたのは、ブラジルなど新興市場での好調な販売に支えられたためだと指摘している。特に欧州は、本国フランスの売上高が前年同期比で0.5%減に転落し、フランス以外の欧州地域にいたっては2.7%減に落ち込み、その要因として「ギリシャ消費市場の悪化、非食品分野の販売低迷」を挙げた。
<ギリシャ企業は急速に資金繰り悪化>
他方、ギリシャの主要銀行の1つ、エンポリキ銀行は6月14日、ルーマニア、ブルガリア、アルバニアの現地法人株式を親会社のフランス金融大手クレディ・アグリコル・グループに売却する方針を発表した。外国資本のギリシャ撤退とは逆の動きだが、同社は「現在の厳しい事業環境を乗り越えるための事業再編に向けた弾みとなる」とコメントしている。同グループは2000年にエンポリキ銀行の株式の6.7%を取得して資本参加を始め、10年にはその持ち株を91.0%に引き上げている。
このほか、「イ・カシメリニ」紙(6月25日)は、ギリシャ通信サービス最大手のヘレニック・テレコミュニケーションズ(OTE)が、ブルガリアで移動体通信サービス事業を展開する子会社グローブルを売却する可能性があると報じた。この事業売却で約8億ユーロを捻出できると指摘している。
ギリシャ企業の資金繰りは急速に悪化しているとみられ、大手企業も財務体質の強化を急いでいる。ギリシャに進出している日系企業のほとんどが、ギリシャを本拠とする海運事業者(船主)を相手とする事業に携わっているとされるが、基幹産業の海運分野でも「一部に財務的に厳しい企業も出始めている」と在ギリシャ日系企業はいう。欧州債務危機の影響としては「ユーロ安」が深刻だが、ギリシャの海運事業者の場合、通貨安は燃料費負担の拡大に直結しており、内航船舶や旅客船舶を運航する中小企業は倒産リスクが高まっているとの指摘もある。ある在ギリシャ日系企業は「売掛金回収が困難なため、内航船舶事業者との取引が停止状態にある」と話している。
(三宅悠有、前田篤穂)
(ギリシャ)
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