中国企業、ブラジルでインフラを積極買収−欧州企業の資産売却に呼応−

(中国、ブラジル、スペイン)

中南米課

2012年06月06日

中国の国家電網は、スペイン企業が保有していたブラジルの送電会社を新たに買収する見込みだ。国家電網は2010年にもブラジルの送電会社を買収しており、今回の案件を含めると、総延長約6,000キロの送電線網の運営権を得ることになる。中国企業は、スペイン、ポルトガル企業がブラジルに保有している電力、エネルギー資産の積極的な買い手となっているようだ。

<国家電網、ブラジルの主要送電事業者に>
5月30日付の現地紙報道によると、中国の国家電網がスペインの建設会社ACSから、ブラジルの高圧送電網を運営するACS子会社資産を買収することで合意した。買収額はブラジル法人の負債を合わせて18億6,000万レアル(約9億3,000万ドル)に及ぶ模様。ACS子会社が運営する送電網はブラジル国内8州、送電線の延長距離2,792キロ。今後、ブラジル、中国両国の政策当局による許可を得て取引が成立するとみられる。

国家電網は10年にもブラジルの7つの送電会社と送電施設の30年間の運営権を9億8,900万ドルで取得したが、これも電力会社エレクノール(Elecnor)やエンジニアリング会社イソルクス(Isolux)などスペイン企業から買収したものだ。これらを合わせると、国家電網が運営権を保有する送電線の総延長距離は6,000キロに及ぶとみられる。なお、ブラジル送電大企業協会(ABRATE)によると、主要送電会社が保有する送電線の総距離は9万5,741キロ(2010年5月時点)で、各社が個別に保有する送電線の距離と比較すると、国家電網はブラジルで主要送電会社の一角を成すことになる。

<欧州企業の動きをブラジル政府は警戒>
中国企業はブラジルで豊富なインフラ資産を有する欧州企業に出資、関与を強めることで着実に足場を築いている。例えば中国長江三峡集団は11年12月、ポルトガルの電力会社EDPの株式の21%を26億9,000万ユーロで取得すると発表。EDPのブラジル子会社は、国内の民間企業としては、発電で5位、配電で4位の主要な発電・配電事業者だ。また、中国石油化工集団(シノペック)は10年10月、ブラジル南東部サントス堆積盆地を中心に油田採掘権益を持つスペイン系石油会社レプソルのブラジル法人株式の40%を 71 億ドルで取得、さらに同社は12年4月、ポルトガルの石油大手ガルプ(Galp)の子会社ペトロガル・ブラジルの30%の株式を総額51億5,600万ドルで取得したと発表している。

このように大規模なインフラ、エネルギー事業を展開する欧州企業が、ブラジル資産を売却する動きについて、政府は警戒の色を強めているようだ。「バロール」紙(5月12日)は、スペインのエネルギー会社イベルドローラが、39%を出資するブラジルの電力会社ネオエネルジーアの出資分を、国家電網に売却する可能性を報じているが、この中でブラジル政府が売却に反対する姿勢を伝えている。ネオエネルジーアは、所有設備の発電能力は1,553メガワット(MW)だが、現在建設中のベロモンテ水力発電所(1万1,223MW)、テレス・ピレス水力発電所(1,820MW)など大規模な発電プロジェクトに参画し、主要な民間電力事業者に位置付けられる企業だ。

特にスペイン企業はブラジルで電力、通信、道路などインフラ事業に幅広く関与しており、彼らが経営立て直しのためにブラジル資産を売却する場合、中国企業が主な買い手として名乗りを上げることは容易に想定される。欧州経済の混乱は、ブラジルのインフラビジネスの勢力図にも影響を与えそうだ。

(二宮康史)

(ブラジル・スペイン・中国)

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