国民投票でEU財政協定を承認

(アイルランド)

ロンドン発

2012年06月04日

EUの財政規律強化を目指す「財政協定」の批准について、国民投票が5月31日に実施され、賛成60.29%、反対39.71%の賛成多数で承認された。ギリシャやフランスの議会選挙や大統領選に続いて、国民が緊縮財政に反対を示すかどうかが注目されていた。アイルランドは2008年6月の国民投票で、欧州理事会常任議長創設を盛り込んだ「リスボン条約」の批准を否決し、同条約の発効を大幅に遅らせた。

<労働者層は反対、富裕層は賛成>
財政協定はEU加盟27ヵ国のうち、英国とチェコを除く25ヵ国が署名済みで、発効にはユーロ加盟17ヵ国のうち12ヵ国の批准が条件のため、アイルランド国民投票の与える影響は限定的とみられていた。しかし、アイルランドが批准しなかった場合は、将来的に欧州安定メカニズム(ESM)による支援が受けられなくなる可能性があり、ギリシャやフランスの選挙に続いて「反緊縮」の連鎖が広がるのかどうかが注目されていた。

選挙管理委員会が6月2日に公表した最終結果によると、有権者は314万4,828人(18歳以上)、有効票は158万4,179票(50.37%)で、批准賛成が95万5,091票(有効票の60.29%)、反対が62万9,088票(39.71%)だった。43投票区のうち、アイルランド北西部に位置する北東ドニゴール、南西ドニゴール、首都ダブリンのうち北西ダブリン、南央ダブリン、南西ダブリンの5つの投票区で、北東ドニゴールの反対55.63%を筆頭に反対が過半数を超えた。いずれも労働者層の割合が高い地域。

一方、最も賛成票が多かった投票区は南ダブリンで75.84%だった。次いで、ダブリンの南に位置するダン・レアリーが74.21%、南東ダブリンが72.30%。賛成票が7割を超えたのはいずれも富裕層が多く住む地域だった。

アイルランドの失業率(季節調整値)は、07年の4.5%から11年には14.4%へとリーマン・ショック以降に急増している。職を求め国外に移住するケースも増加しており、雇用環境は悪化している。

<首相が投票結果を歓迎>
ケニー首相は6月1日の声明で、「国民の明確かつ現実的な判断に敬意を表したい。今回の投票結果によって、投資に必要な安定と確実性がもたらされ、将来的なESMからの支援の可能性とともに、多くの雇用を創出する外国企業の投資につながるだろう」と述べた。

政府は、12.5%という低い法人税率の維持により、外資誘致による雇用創出を図る一方、社会保障費削減や労働市場改革、付加価値税(VAT)率の前倒し引き上げ(12年1月から21%→23%)など、国民の痛みを伴う政策を次々と実行に移している。

(村上久)

(アイルランド)

ビジネス短信 4fcc194457e40