食品・飼料の輸出証明書に関する詳細が判明

(日本、中東、エジプト)

カイロ発・中東アフリカ課

2012年05月31日

エジプト向けの食品と飼料の輸出には、2011年10月以降、日本政府の産地証明書などの提出が義務付けられている。ただ、エジプト側が提示する証明書の発行条件や手続き、基準になる放射線の値などがあいまいだったため、日本からの輸出の妨げになっていた。両国政府が協議を重ねた結果、その詳細が5月7日、日本の農林水産省のウェブサイトで公開された。これにより、事実上停止していた日本からの輸出が再開される見込みだ。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<証明書に関するあいまいさが輸出の妨げに>
エジプト政府は東日本大震災を受け、11年3月10日以降に日本を出港した食品、植物、原材料、くず鉄、中古車部品・スペアパーツなどの輸入を禁止する措置を講じた(11年3月31日付首相令458号)。

輸入禁止措置はその後、11年10月20日付首相令1348号で緩和され、輸入禁止品目は地上および陸生の原材料と金属くずに限られた。食品と飼料については、日本の政府機関発行の輸出証明書(産地証明書)を添付した上で、エジプトでの放射線検査で問題がなければ、輸入が認められることになった。このように、制度上は食品と飼料の輸入再開が許可されたが、実態としては以下の点が輸出の妨げになっていた。

○産地にかかわらず、日本全国一律で、放射線検査の結果提示を義務付け。
○証明書の様式指定はなく、どのような証明書を発行すべきか不明瞭。
○放射線基準値は欧州基準を考慮するとの記載はあるものの、明確な基準値の提示はなし。

これにより、多くの企業が実際の取引を断念せざるを得ず、日本からの食品と飼料の輸出は事実上停止状態が続いていた。

<セシウム134、137の基準値はEUに準拠>
しかし、両国が協議した結果、証明書を必要とする対象地域・品目や発行要件、放射性物質の基準値などについて、明確な指針が明らかになった。日本の農林水産省が5月7日、その内容をウェブサイト上で明らかにしている。それによると、証明書を必要とする対象地域・品目についての細かい規定は以下のとおり。

(1)11都県(福島、群馬、茨城、栃木、宮城、山梨、埼玉、東京、千葉、神奈川、静岡)産の食品・飼料(依然として協議中の水産物は除く)は、放射性セシウム134と137について、エジプトの基準値(EUの基準値に準拠、注1)に適合していることを示す証明書および検査結果の添付が必要。

(2)産地が11都県以外の食品・飼料(水産物を除く)には、産地に関する証明書の添付が必要。

(3)産地が11都県以外の水産物には、産地に関する証明書(水産庁が発行、注2)に加え、放射性セシウム134と137の検査結果の添付が必要(放射性物質検査結果についての証明書は不要)。

これを受けて農林水産省は、次のどちらかの要件を満たす場合、証明書を発行するとしている。
○11都県以外の道府県で生産・加工された食品・飼料
○11都県で生産・加工された水産物以外のもので、エジプトの求める放射性物質基準(EUに準拠)に適合しているもの

手続き面での不透明性が払拭(ふっしょく)されたことから、日本の食品・飼料の対エジプト輸出の再開が見込まれる。

なお、規制適用当初は食品を含む個人消費用の荷物にも放射線検査結果の証明書の添付が義務付けられていたが、11年11月24日付のエジプト通産省から税関に対する通達により、証明書の添付がない場合も通関できるようになり、輸入時の放射線検査も不要になった。これにより、エジプト在留邦人の個人用荷物の受け取りは改善され、現在まで特段の問題は起きていない。

<日本の食品と飼料の輸出は大幅に減少>
エジプトで11年3月に日本からの輸入禁止措置が発表されると、4月以降、日本からエジプト向け食料品・動植物性産品の輸出は停止し、統計からも輸出実績が消えた。その後、同年10月に食品・飼料は、制度上は条件付きで輸出が再開されたが、11年の日本のエジプト向け食料品・動植物性産品の輸出額は全品目で激減し、前年比84.2%減の5億2,957万円に落ち込んだ(添付資料の表参照)。

日本の主要輸出品目で、10年までは増加傾向にあった冷凍サバの輸出額も、83.9%減に落ち込んだ。10年までエジプトは、日本の冷凍サバの輸出総額の34.4%を占め、最大の輸出相手国だった。冷凍技術が高く、解凍しても高い品質を維持できる日本産の冷凍サバは、エジプトでも人気食材の1つだ。

エジプトの消費者には、日頃から食べているサバが日本産だと認識している人は少ないようだが、日本産サバの輸入が止まっている現在、これまで取引を手掛けていたエジプト企業関係者からは、早急に輸入を再開してほしいとの声が上がっている。

エジプト市場のサバの消費需要に変化はなく、日本からの冷凍サバの輸出停止が長期化すればするほど、その間に競合各国にその市場シェアが奪われ、今後、日本の取引関係者は厳しい状況に直面することが予想される。

(注1)EUの放射性セシウム134および137の最大許容量〔単位:ベクレル(1キログラムまたは1リットル当たり)〕
○食品:乳児用食品:50、飲料水:10、牛乳・乳製品:50、その他の食品:100、乾燥状態の茶葉およびキノコ:500、大豆および大豆加工品:500、12年9月30日までに製造および加工されたコメおよびコメ加工品:500
○飼料:牛および馬:100、豚:80、家きん:160、魚類:40
(注2)水産物に関する証明書の申請先は水産庁(漁政部 加工流通課 水産物貿易対策室)エジプトに輸出される水産物に関する証明書の発行について

(高宮純一、長谷川梢)

(エジプト・中東・日本)

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