オランド大統領、首相にエロー国民議会社会党代表を指名−新内閣は男女同数−
パリ発
2012年05月22日
第5共和制7代目の大統領に就任したフランソワ・オランド氏は5月15日、現ナント市長で国民議会社会党代表のジョン=マルク・エロー氏を首相に任命した。5月16日には、男女比を1対1にするとの公約どおり、34人で構成される内閣のちょうど半数が女性閣僚になる組閣を行った。若手の入閣も多く、社会党の世代交代を強調するとともに、実務型のベテラン議員を中核に据え、バランスを重視した内閣になった。
添付ファイル:
資料
( B)
<大統領の堅実な人選>
首相に任命されたエロー氏は1950年西部ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏、メンヌ・エ・ロワール県のモレブリエ市生まれ(62歳)。人口30万人のナントの市長を89年から務め、同地域選出の国会議員を86年から務めてきた。97年以降は国民議会の社会党グループ代表。工場労働者の父と裁縫師だった母を持つ。ナント大学文学部卒。
中学校のドイツ語教師としてスタートし、72年に社会党に入党して以来、着実に地位を固め、76年以来、出馬した選挙で全て当選している。閣僚経験はない。ドイツ通として知られ、ドイツの野党・社会民主党(SPD)とも緊密な関係といわれる。「普通」の大統領を目指すオランド氏の堅実な人選と評されている。
<内閣は男女比1対1>
5月16日に、閣僚名簿が大統領府事務総長ピエール=ルネ・ルマス氏から発表された(添付資料参照)。オランド大統領が選挙戦中に「新内閣は男女比を1対1にする」と公約していたとおり、34閣僚中17人が女性となった。ほとんどを社会党出身者で固めたエロー内閣だが、選挙戦での欧州エコロジー・緑の党との連携の見返りとして、地域間平等・住宅相に緑の党書記長のセシル・デュフロ氏や外務省付開発担当相に同党出身のパスカル・カンファン氏の両若手を任命し、左派急進党から国璽尚書(こくじしょうしょ)、司法相という重要ポストにフランス領ギアナ選出国民議会議員のクリスチャーヌ・トビラ氏を含め2人を任命した。
そのほかは、閣僚経験のある実務型ベテラン議員も交えながら、社会党の世代交代を強調する人選となった。34閣僚中7人が30代という若手の起用も注目される。また、海外県・海外領土出身者や同地域選出議員が3人、移民家庭の出身者が5人と多様性を重んじた内閣構成ともなっている。
省の命名には同政府の政策重点がうかがえるものが多い。選挙戦で教育問題、若者の失業問題を中心課題としてきたオランド大統領は、国民教育省に「教育成功担当省」を設け、落第者への対策を強化する。「地域間平等・住宅省」は都市部の格差拡大が大きな懸念となっている住宅問題を所管する。また、産業省を「生産再建省」と改名し、生産拠点の国外移転に歯止めをかけ、フランス国内での生産再建を目指す。また、「女性権利省」を24年ぶりに再建し、モロッコ出身のナジャット・バロー=ベルカセム氏(34歳で同内閣最年少)を任命した。女性の権利問題を特別に扱う政府の部署が空席になっていただけに、エロー内閣があらゆる分野での男女平等の実現に向けた取り組みを重視する姿勢がうかがえる。
なお、社会党リヨネル・ジョスパン政権の時代に雇用連帯相を務め、政府のナンバー2として週35時間労働制度を導入した現社会党書記長のマルチーヌ・オブリー氏は、首相の座がささやかれていたが、新大統領が側近のエロー氏を任命したことで、入閣を拒否したようだ。現職の北部リール市の市長の座にとどまるとみられる。また社会党書記長の役務は継続し、6月10日と17日に行われる国民議会選挙に向けて、左派の過半数獲得を目指して指揮を執る意向だ。
<閣僚としての職業倫理憲章に調印>
国民になるべく近い、「普通」で堅実な内閣を全面に押し出すオランド大統領は、5月17日初めて招集した閣僚会議の場で、各閣僚に「職業倫理憲章」を配り、それに各自が調印した。その中で、閣僚の任務を全面的に遂行するため、a.地域圏・県議会・市町村など地域レベルの選挙で得た役職を兼任しない、b.利権に絡む行為を行わない(150ユーロ以上の贈答品は受け取らない、ほかの国や企業、個人からの旅行・リゾートへの招待を受け入れない、など)、c.職務遂行上に必要な経費だけが国家負担になる、d.移動の際、3時間以内の場合は列車を利用するなど、前政権が批判を受けた倫理面の失点がないように徹底する狙いだ。
また、エロー新首相は6月10日と17日に予定される国民議会選挙に立候補する閣僚に対して、落選した場合は閣僚の座から退くよう指示している。
(渡辺智子)
(フランス)
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