自動車輸入にかかる物品税を引き上げ

(スリランカ)

コロンボ発

2012年05月10日

政府は3月31日、自動車輸入に課す物品税(Excise Duty)の引き上げと、輸入可能な中古車の車齢変更を発表した。急増した輸入車の抑制を目的としているが、通達は猶予期間のない即日発効だったため、発表時点で既に船積みされていた自動車には新税率が適用されるなど、関係者は対応に追われた。車種によっては課税額が6割以上増えるものもあり、自動車輸入ビジネスへの影響は必至だ。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<輸入車数急増が背景に>
政府は3月31日に発表したプレスリリース(添付資料参照)で、2009年以来急増した輸入自動車数を抑制するため、自動車輸入にかかる輸入税の1つ、物品税(Excise Duty)を引き上げることを明らかにした。具体的な発表内容は以下のとおり。

09年以来の輸入自動車の急増、それによって生じる交通渋滞や燃料への高い需要を考慮し、政府はもろもろの歳出削減につながる自動車輸入抑制を目的に、自動車、三輪車、二輪車にかかる物品税を見直す措置を講じた。改定は12年3月31日から適用する。ただし、農業用トラクター、バス、大型トラック、トラックにかかる輸入税は変更しない。

また、今回の改定では、輸入税引き上げの理由として、09〜11年の自動車輸入台数を公開している(表1参照)。自動車輸入台数の総計は、09〜10年で2.2倍、09〜11年では2.5倍になっていることが分かる。特に普通乗用車や小型トラック・タクシーは09〜10年ですさまじい伸びを示しており、これは10年6月に行われた物品税の引き下げが原因と考えられる。

表1スリランカへの自動車輸入台数

具体的な変更の内容は添付のプレスリリースと官報参照。そのうちガソリン車の場合は表2のとおり。

表2ガソリン車の物品税率

<複雑な輸入税の計算>
財が輸入される際には、関税に加えてさまざまな輸入税が課される。自動車の場合は、関税に加えて、a.港湾・空港開発税(PAL)、b.物品税、c.付加価値税(VAT)、d.国家建設税(NBT)が課されるが、一部の輸入税の計算が非常に複雑になっており、税率表示だけでは内訳が分かりにくい。そこで、表2の補足として、1000cc以下のガソリン車(物品税:38%→85%)の場合の見直し前後の税金の内訳を表3に示した。

物品税の税率が替わると、(税率は変わらないにもかかわらず)VAT、NBTの課税額も増加しており、結果として課税額の合計は(CIFの)見直し前の120%から見直し後には200%に増える。

表3輸入税の計算

なお、上記の計算はあくまで個人輸入を想定している。輸入者がスリランカ国内での再販を目的とする輸入販売代理店の場合は、最終消費者ではないので輸入時点のVATは還付され、あくまで「CIF+関税+物品税+国家建設税」が原価となる。これに利益や現地コストなどを含めた金額が販売価格となり、最終消費者は、この販売価格に12%のVATを加えた額で自動車を購入することになる。

<中古車の車齢制限は二転>
今回の発表では、輸入規制を受ける中古車の車齢変更も含まれており、「HSコード87.02の自動車(バスを除く)」と「HSコード87.03の自動車」は2年から1年に、「HSコード87.04の自動車〔ダンプカー、タンカー、給水(給油)タンク車、平均重量5トン以上の車を除く〕」は5年から3年半に、それぞれ短縮された(注1)。

しかし、その後スリランカの自動車輸入者協会がラージャパクサ大統領と面談し、輸入中古車の車齢制限強化の撤回を求めた結果、再度見直しが行われ、4月18日から「HSコード87.02の自動車(バスを除く)」と「HSコード87.03の自動車」は車齢制限が1年から2年に戻り、「HSコード87.04の自動車〔ダンプカー、タンカー、給水(給油)タンク車、平均重量5トン以上の車を除く〕」は3年半から4年に緩和された

<対日輸入額にも影響必至>
今回の物品税引き上げは発表当日の3月31日から適用開始となり、猶予期間が設定されていない。ジェトロが税関に確認したところ、3月31日時点で既にコロンボ港に到着し、かつ税関に必要書類が提出されている輸入車は旧税率が適用される。しかし、同日時点でコロンボ港に未着の自動車、到着済みでも税関への書類が未提出の自動車は、新税率の対象になるという。このため、たとえ従来の税率を前提に取引が成立していても、3月31日時点でまだ輸送途上にある自動車には新税率が適用される。

また、結果的に再見直しが行われたものの、中古車の車齢制限変更が発表と同時に実施されれば、既に従来条件の前提で輸出された中古車が輸入できないという事態も起こり得る。今回の措置により、スリランカへの自動車輸出ビジネスに携わる関係者の多くが混乱に直面したと推察される。

また、今回の措置は、中古車が主要な対日輸入品目になっている両国の貿易にも大きな影響を及ぼすことは避けられない。10年6月の物品税引き下げ以降、日本からスリランカへの自動車輸出の急増に伴い、対日輸入額も急拡大してきた〔2億400万ドル(09年)→6億3,700万ドル(10年)→9億3,900万ドル(11年)〕(注2)。しかし、スリランカへの自動車輸入台数の抑制を目的に、今回の物品税引き上げが行われたとすれば、日本からの自動車輸入台数も減少し、結果として対日輸入額も大幅に減ると予想される。

(注1)日本財務省の「実行関税率表」によると、HSコード87.03は「乗用自動車その他の自動車(ステーションワゴン及びレーシングカーを含み、主として人員の輸送用に設計したものに限るものとし、第87.02項のものを除く)」、HSコード87.02は「10人以上の人員(運転手を含む)の輸送用自動車」、HSコード87.04は「貨物自動車」となっている。
(注2)日本貿易統計データベース(財務省)。

(崎重雅英)

(スリランカ)

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