ラゴスでキャッシュレス政策が本格始動
ラゴス発
2012年05月08日
最大の商業都市ラゴスで4月1日、現金の利用制限を狙った「キャッシュレス政策」が本格的に始動した。しかし、中央銀行の政策に対する銀行担当者の解釈にズレが生じるなど、一部で混乱が起きている。
<現金引き出し制限は緩和>
中銀は2011年4月、銀行口座から無料で引き出せる現金に上限を設ける方針を発表した(2011年7月11日記事参照)。全国に先駆けてラゴスでの先行導入時期は、当初11年12月末が予定されていたが、準備期間が延長され、実質的には12年4月1日から始まった。中銀はこの「キャッシュレス政策」を、13年1月から全国的に展開するとしている。
ラゴスへの本格的な導入を前にした3月16日、中銀は現金引き出しの上限額の変更を発表した。上限額は、個人口座の場合は1日に50万ナイラ(4月発表時は15万ナイラ、1ナイラ=約0.5円)、法人名義の場合は300万ナイラ(100万ナイラ)としている。また、上限を超える現金を引き出す場合、上限を超える金額に対して課す手数料を、個人に対しては3%(10%)、法人に対しては5%(20%)とした。
このほか、第三者が発行する小切手については、現金化が可能な上限を15万ナイラと設定している。それ以上の金額の小切手の場合、別の銀行口座への振り込みだけが認められる。
中銀は「キャッシュレス政策」の必要性について、従来どおり、金融政策の効果を向上させるためとしている一方、現金の発行や流通にかかるコストを削減する狙いもあると説明している。また、口座間取引や電子決済が浸透すれば、賄賂の受け渡しやテロ資金の流通など、不正な取引を抑制することにもつながると強調している。
<銀行の対応に混乱も>
「キャッシュレス政策」の導入は当初よりも約3ヵ月間遅れたにもかかわらず、その間に十分な周知がなされなかった。このため、中銀の政策に対する銀行担当者の解釈にズレが生じ、一部で混乱が起きている。
その事例として、小切手の取り扱いでの「第三者」の定義がある。一部の銀行では、法人口座の小切手の場合でも、署名権者以外は「第三者」とみなされると解釈したため、署名権者でない自社社員による小切手の現金化を、拒否する事例が相次いだ。このため、法人側は「同社員は署名権者ではないが、自社社員だから第三者ではない」とする内容の公式文書を銀行宛てに発行したり、社員個人の口座にいったん振り込んだ上で現金化したりするなどの対処方法を取らざるを得なくなっているようだ。
なお、ある法律事務所は、「第三者」は異なる企業・団体などを意味しており、自社社員は含まれないはずだとの見解を示している。
銀行担当者が施行内容を把握しておらず、古い情報に基づいた上限額までしか現金の引き出しを認めない事例も報じられている。これは、導入直前に施行内容が変更されたのにもかかわらず、十分に広報がなされなかったことが原因と考えられる。
なお、中銀が意図している現金取引の代替手段としての電子決済の浸透には、まだ時間がかかりそうだ。一部の小売店ではクレジットカードの利用が可能になっているものの、少数派にとどまっている。また、ネットワークの故障などで、実際にはカードが使えない場合も多い。
さらに、さまざまな詐欺被害が報じられているナイジェリアでは、カード決済はリスクが高いとして、消費者が避けたがる傾向もある。スキミングによって、自分の口座から勝手に引き出されていたという被害例も多く、消費者情報の保護も電子決済の普及には不可欠だ。
(広木拓)
(ナイジェリア)
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