欧州株式市場、オランド氏の決選投票進出に警戒感
パリ発
2012年04月25日
4月22日の大統領選第1回投票で、欧州の新財政協定の見直しを求める社会党のフランソワ・オランド氏が、現職のニコラ・サルコジ氏を抑え、首位で決選投票に進んだ。オランド氏当選の可能性が高いとの観測で、市場は欧州債務危機をめぐる政治的混乱を警戒し、投票日翌日の4月23日の欧州株式市場の株価は軒並み下落した。オランド氏は2017年に財政均衡の達成を公約しているが、財源については詳細を明らかにしておらず、財政運営にも不透明感が残る。
<新財政協定めぐり、ドイツと不協和音>
4月23日の欧州主要国の株式市場では、フランスのユーロネクストパリ上場時価総額上位40社のCAC40種指数が2.83%安、英国のFT100種平均株価指数は1.85%安、ドイツ株式指数DAXも3.36%安となった。欧州株価の下落は、ユーロ中核国のオランダの連立政権が緊縮財政案で合意できず、政局不安に陥ったことが北欧に悪影響を与えるとの懸念もあり、フランス大統領選の結果(2012年4月24日記事参照)だけが要因ではないものの、今回の選挙結果を市場が不安材料として受け止めていることは確かだ。
市場が最も警戒するのは、新財政協定の見直しを求めるオランド氏と、これに不快感を示すドイツのメルケル首相との衝突だろう。オランド氏は新財政協定を「成長戦略で補填(ほてん)する」ため、ドイツと再交渉することを公約。この方向で改正が行われない場合、フランスは批准しないことを明言している。フランスが批准しなくても協定は発効する可能性は残されるものの、欧州債務危機をめぐる政治的混乱が増す危険性もある。
<オランド氏はECBの役割拡大を支持>
オランド氏はもう1つ、欧州中央銀行(ECB)の役割について、物価安定だけではなく、経済成長や雇用創出を目指すべきだとしており、ECBにさらなる金融緩和のほか、銀行だけではなく、加盟国政府への資金供与を求めている。ユーロ共同債の発行、欧州レベルでの大型産業プロジェクト(環境技術、インフラ事業など)の策定にも前向きで、ECBが直接こうしたプロジェクトに資金を供給し、経済成長を促すことが望ましいとの考えだ。ユーロ共同債の発行やECBの役割に対する考え方も、メルケル首相とは異なっている。
新財政協定やECBの役割について、メルケル首相とオランド氏との不協和音が高まれば、ユーロ圏の将来について共通のビジョンを設定するのが難しくなる。ただ、実際のところ、ドイツとの関係を悪化させてまで、オランド氏が自説を押し通すとは考えにくいようだ。新財政協定の見直しについて、成長に関する議定書を付け加える程度の修正に収まるのではないかとの見方も出ている。
オランド氏は「これまでに会談した欧州首脳のうち、経済の現状に満足している人はほとんどいない。私が孤立しているわけではない」と成長戦略の策定を正当化する一方、「当選後、最初に訪問するのはドイツだ。メルケル首相と会談する。欧州が危機のときこそ両国の協力が必要だ」と語り、ドイツとの協調関係の重要性も強調した。
<17年に財政均衡、と公約>
オランド氏は経済政策として、高額所得者への増税(所得税最高税率41%→45%、年収100万ユーロを超える所得に75%課税)や、大企業向け(法人税率33.33%→35%)の増税などを財源に、公務員数の増加(教職員6万人、司法・治安関連職員5,000人増員)、優遇税制を付与した若者向け雇用契約の導入による15万人の雇用創出、などを打ち出している。公的退職年齢の62歳から60歳への引き下げなど財政負担の重い政策も含めると、政策経費は17年までの5年間に、200億ユーロが必要、と試算される。
他方、財政赤字削減については、13年に財政赤字のGDP比を3.0%に引き下げるとともに、17年での財政均衡を目指す。この目標達成にはさらに1,000億ユーロの財源確保が求められる。オランド氏は、このうち5割を経費削減、残り5割を増税により確保するとしているが、詳しい内容については明らかにしていない。
経済政策プログラムの前提となる経済成長見通しについては、14年以降、実質GDP成長率を2.0〜2.5%と高めに設定(12年は0.5%、13年は1.7%)。経済成長率が予想を下回る場合は、財政赤字削減の目標を達成できない見通しが強まる。当選後は、市場からの圧力を受け、オランド氏が緊縮財政にかじを切る可能性も否定できない。
(山崎あき)
(フランス)
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