11年のGDP成長率は8.5%−リーマン・ショック後から9四半期連続の高成長−

(トルコ)

イスタンブール発

2012年04月24日

トルコ統計機構(TUIK)の発表(4月2日)によると、2011年第4四半期の実質GDP成長率は前年同期比5.2%、11年通年で8.5%と、政府目標の7.5%を大きく上回った。1人当たりのGDPは1万444ドルだった。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<民間消費、投資はともに鈍化>
経済は、08年第4四半期以降、4期にわたってマイナス成長が続いたが、09年の第4四半期には前年同期比で早くもプラスに転じ、11年の第4四半期まで9四半期連続のプラス成長を実現、リーマン・ショック前の08年の水準を上回る回復ぶりとなった。しかし、一方で景気の過熱が懸念されるようになり、経常赤字拡大を抑えるためにも政府や中央銀行はリラ安の誘導などの抑制策をとっている。このため、11年第4四半期の成長率は5.2%と、市場予測をやや下回り、前期(8.4%)から大きく減速した。日数調整後では、前年同期比4.7%、季節・日数調整後の成長率(前期比、年率換算)では0.6%のプラスと前期に比べ弱いが、前期比では11四半期連続成長となった。

11年第4四半期の成長を支出項目別にみると、前期に続き、最大の構成比(67.9%)を占める民間消費、民間投資(構成比22.0%)が牽引しているものの、過熱気味が懸念された前期からはともに大きく減速した。民間消費(寄与度2.4ポイント)は前年同期比3.4%増で、前期の7.8%増から大きく鈍化した(表1参照)。民間消費の内訳をみると、家庭用品(耐久消費財を含む)が12.1%増となお力強いが、民間消費で最大のシェア(27.8%)を占める食品・飲料が3.2%増と減速、運輸・通信は0.6%のマイナスとなった。

総固定資本形成の民間部門(民間投資)は、四半期ごとに減速し、5.2%増にとどまった。特に機械・設備は、リラ安が進んだこともあり2.2%増、建設も12.3%増と好調ながらも減速している。一方、政府部門では政府消費が4.3%減、政府投資は9.4%減と成長にマイナス寄与となった。

財・サービスの輸出(構成比24.9%)は、前期の10.2%には及ばないまでも6.7%のプラスとなったが、輸入(27.2%)はリラ安の進行もあり5.1%減だった。このため、輸出から輸入を差し引いた外需(純輸出)の成長への寄与は、3.2ポイントとなり、外需も成長に大きく寄与した。

第4四半期を生産部門別にみると、構成比最大(24.2%)の製造業が5.2%増で最も寄与した。寄与度の高い順に伸びをみると、金融サービスが12.2%増、運輸・通信、金融がともに6.8%増と、なお金融が力強い(表2参照)。また、農業が6.7%増、エネルギーが伸び率では最大の10.5%増と、ともに前期の伸びを上回った。

表111年支出項目別実質GDP
表2  11年部門別実質GDPの内訳

<政府目標を上回る成長>
11年通年の名目GDPは、7,722億9,800万ドル(前年比5.6%増)、1人当たりのGDPは前年の1万22ドルから1万444ドルに拡大、08年の1万438ドルを超える過去最高を記録した。実質成長率は、政府目標の7.5%を1ポイント上回る8.5%の高率だった。

支出項目別にみると、最大の構成比を占める民間消費が7.7%増と伸び、寄与度も最も大きかった。内訳をみると、最大のシェア(26.7%)を占める食品・飲料が6.3%増、家庭用品(耐久消費財を含む)が14.0%増、運輸・通信が8.2%増、衣料品が7.9%増、レストラン・ホテルが7.7%増と、一般の消費活動が力強いが、第4四半期の減速により、構成比は第1四半期の72.2%から68.6%に縮小した。

民間投資の伸びも著しく、金利が低く抑えられている(政策金利:1週間物レポ金利5.75%)こともあり、22.8%増と大きく伸びた。機械・設備、建設ともに2ケタの伸びで、生産活動が活発だったことを示している。一方、政府部門では政府消費が4.5%増、政府投資は3.2%減少した。

財・サービスの輸出(構成比23.6%)は、リラ安の影響などで主要マーケットのEU向けが回復をし始めたが、通年では6.5%増にとどまった。輸入(28.6%)は過熱気味の内需の影響を受け、10.6%増となった。このため、輸出から輸入を差し引いた外需(純輸出)の成長への寄与は、1.4ポイントのマイナスだった。

<金融サービスが最大の伸び>
11年通年のGDPを生産部門別にみると、構成比最大(24.4%)の製造業が9.4%増、運輸・通信が10.8%増、卸・小売業が11.4%増、建設が11.2%増と、主要産業は軒並み2ケタ成長だった。また、今やトルコ経済の強みともされる金融サービスが13.4%増と最大の伸びをみせ、金融(9.6%増)とともに好調だった。

製造業の業種別の状況を11年の鉱工業生産指数の増減率でみると、製造業全体では09年12月から11年3月までおおむね連続で前年同月比2ケタのプラス成長が続いており、11年は通年で9.2%増。用途別でも、資本財(前年比18.6%増)、中間財(8.2%増)、耐久消費財(12.7%)ともに好調だった。鉱工業全体でも8.9%増だったが、第4四半期、特に12月に大きく減速した。

産業部門別では、主要輸出産業の自動車が16.0%増と前年同様好調。そのほか、機械機器(22.1%増)、電気機器(17.7%増)は好調だが、衣料品(0.6%減)、繊維(0.0%増)は減速した(添付資料参照)。

<個人消費の鈍化でソフトランディングに向かう>
エルドアン首相は、11年の経済成長が主要国では中国に次ぐもので、経済回復の要因は信頼と安定にあると主張している。ババジャン経済調整担当副首相も、欧州の多くの国が1%の成長さえ成し遂げるのに苦心している中、トルコの8.5%の成長は非常にポジティブな結果だとし、この成長は民間部門の活動に起因すると述べた。同相は、今の時代には、公共支出の増大を通して成長を確実にすることはできないとし、欧州はこの点で失敗したと述べ、09年来の危機管理に対する政府の方針が正しかったことが確認されたと主張した。

チャーラヤン経済相は、11年の成長はほぼ政府の予想(8.3〜8.5%)どおりで、驚くには当たらないとし、雇用も他国に先んじて回復していると評価した。また世界経済でのシェアも0.1ポイント拡大し3.8%になったとし、トルコはもはやEUの重荷ではなく、欧州経済に活力を提供する国になっていると指摘した。また第4四半期の減速は消費財に対する需要の鈍化を示しており、巨額の経常赤字の主因の個人消費の伸びが抑えられることで、「トルコ経済はソフトランディングに向けて進んでいる」と述べた。

また、同相は、成長ベースの抑制は進んでいるが、12年の経済成長が政府目標の4%を上回って5%近くに達する可能性があると、楽観的な見通しを示した。

しかし、「エコノミスト」誌などは、11年の高成長がインフレ上昇とGDP比で10%に拡大した経常赤字の急増という副作用をもたらしているとし、極端に高い外国からの投資資金への依存が、ホットマネーによるリスクを高めているとしている。国際機関による12年の成長予測は政府の期待に比べて厳しい。IMFは2.3%、世銀は2.9%、OECD、EUが3.0%などと予想しており、トルコの市場予測も平均3.7%にとどまっている。

(中島敏博)

(トルコ)

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