パキスタンが対インド輸入ネガティブリストを公表

(インド、パキスタン)

ニューデリー発・カラチ発

2012年04月23日

パキスタン政府は3月20日、インドからの輸入に対するネガティブリスト導入の政令を発令した。同リストに記載されていない品目は、原則としてインドからの輸入が認められるが、インド側が輸出を狙う繊維製品、自動車部品、化学製品や医薬品などはリストに入っており、インド側の期待は低い。ネガティブリストの導入は、パキスタンのインドに対する最恵国待遇(MFN)供与に向けた動きの一環で、同リストは2012年12月末までに撤廃される予定だ。しかし、既にパキスタン国内では反発の声も出ており、先行きは不透明だ。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<インド側の関心品目は輸入禁止のまま>
パキスタン政府は2月29日、インドへのMFN供与に向けて、ネガティブリストを決定した(2012年3月13日記事参照)。これまでパキスタンは、インドからの輸入について、ポジティブリスト方式で合計1,964品目の輸入を認めていた。今回の決定を受け、パキスタン政府は3月20日、インドからの輸入を禁止する1,209品目を記載した政令(添付資料参照)を発令し、同日付で施行した。ネガティブリストの導入により、インドから輸出可能な品目は約5,500品目増加し、約7,500品目となった。

10年度(10年4月〜11年3月)のインドとパキスタンの貿易をみると、インドの対パキスタン輸出が23億ドル、対パキスタン輸入は3億ドルと、インドの圧倒的な貿易黒字になっている。インドからの主要輸出品目は砂糖製品、綿花、化学繊維、有機化合物などで、輸出額の7割弱を占める。従来のポジティブリスト方式の下では、輸出不可能な製品の多くがアラブ首長国連邦のドバイを経由、あるいはイランやアフガニスタンを通じてパキスタンに輸出されるという、非正規の貿易ルートが利用されてきた。こうした間接貿易も加えると、前述の金額以上の取引が両国間で行われていると想像できる。

今回のネガティブリストの導入により、インドにとってパキスタンとの正規の貿易ルートがより充実し、インドに生産拠点を置く日系企業もビジネスチャンスの拡大を期待したいところだが、現実は厳しい。インドがパキスタンへの輸出に強い関心を寄せる繊維製品、自動車部品、化学製品や医薬品などは、おおむねリストに含まれているからだ。こうした品目をインドからパキスタン向けに輸出することは、依然として禁止されている。

<12年末のネガティブリスト撤廃は不透明>
インドはパキスタンに対し1996年にMFNを供与済みだが、パキスタンは第2次インド・パキスタン戦争(65〜66年)を契機に、73年までインドとの貿易を中止、その後も、ポジティブリストを導入してインドからの輸入品目を制限し、MFNを供与していなかった。

両国の状況が変化したのは、2010年4月に開催された南アジア地域協力連合(SAARC)サミットで、両国の首脳会談が実現してからだ。その後、11年2月の外務次官級協議で、すべての分野で両国間の対話再開に合意した。この合意を受け11年4月、イスラマバードで開催された両国の商務次官級会議の場で、インドがMFNの供与を(あらためて)要求。同年11月、パキスタン政府はインドに対するMFN地位供与の準備を進めることを決定した。

一方インドは、10年にパキスタンを襲った大洪水の復興支援策としてパキスタンに対してEUが供与しようとしている繊維製品など75品目に対する特恵関税付与に対し、WTOの場での反対を取り下げる、と表明した。

パキスタン政府は、インドに対するMFNの供与に向けて、今回のネガティブリストを12年末までに撤廃する意向を発表している。しかし、今回の政令は撤廃の期限に触れておらず、実際に撤廃されるかどうかには含みを残している。

両国が加盟する南アジア自由貿易地域(SAFTA)協定では、13年からインド、パキスタン、スリランカの3ヵ国は、SAFTAに登録したセンシティブ品目以外の品目について、関税を0〜5%に削減することになっている。このこともあり、今後、スリランカを含めたインド・パキスタン間の関税削減スケジュールに関心が集まっている。

<パキスタンはインド製品の急激な流入を懸念>
パキスタン産業界はインドに対するネガティブリスト導入に対し、「総論賛成、各論反対」の立場だ。2月にパキスタン商務省が提示したネガティブリストは636品目とされるが、産業界の反対の声に押された生産産業省と繊維省などの間で再調整され、最終的に1,209品目となった経緯もある。

パキスタン商工会議所連合会のタワーブ副会頭は「両国間の貿易の正常化には賛成するが、ネガティブリストの12年12月末までの廃止は早すぎる」と、最低3年間の猶予期間が必要だと主張している。パキスタン・アパレルフォーラムのビルワン会長は、12年末までのネガティブリストの廃止は業界の同意を得ていないとした上で、インド側に対し非関税障壁の完全撤廃を求めている。

パキスタン商業省も、インド製品のパキスタンへの急激な流入を懸念していることは事実で、対インドの貿易赤字を減らしたいという意向がある。同省のモハムード次官は、3月22日に行われた日パ官民合同会議の場で、インド・パキスタン両国間の貿易正常化に、両国に進出している日本の自動車メーカーが果たせる役割は大きいとし、パキスタンからインドへの完成車輸出などを提案した。

インド・パキスタン商工会議所のムニール総裁は、パキスタン産業界のこうした懸念に対し、「われわれ(パキスタン)の自動車業界や繊維業界、医薬業界は、ネガティブリストの撤廃や、インドへのMFNの供与に対していくつかの不安要素を抱えているのは事実だ。しかし、欧州や日本のようなパキスタンの主要貿易相手国との間にはネガティブリストなどの仕組みは存在しない。すべてが順調に進めば、国内産業が抱える懸念も徐々に取り除かれていくと実感するようになった」と応じて、産業界から噴出する懸念を牽制したが、12月末の撤廃は依然として不透明な状況だ。

インドに生産拠点を持つ日系の自動車部品メーカーは「インドからパキスタン向けに輸出をすること自体には関心を持っている」という。しかし、ネガティブリストの撤廃が予定どおりのスケジュールで進まない事態に発展すれば、インドから自動車部品を輸出できず、将来的なビジネス戦略に影響が出ることは間違いない。

(西澤知史、白石薫)

(インド・パキスタン)

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