11年の対内直接投資はともに大幅減−投資環境の立ち遅れが響く−
欧州ロシアCIS課
2012年04月19日
ルーマニアとブルガリアの中央銀行が3月に発表した暫定数値によると、2011年の対内直接投資(FDI)は、ともに前年比で大幅に減少した。減少の原因は欧州債務危機のほか、投資環境の改善の遅れが大きい。注目される投資分野は風力発電で、日系企業にとっても商機だ。
<ルーマニアは3年連続、ブルガリアは4年連続で減少>
両国の中央銀行によると、11年のFDIは、ルーマニアが前年比14.3%減の19億1,700万ユーロ、ブルガリアが40.4%減の10億645万ユーロと大きく減少した(図参照)。
ルーマニアはFDIが過去最高だった08年の約93億ユーロから3年連続で減少し、11年は08年の約5分の1に落ち込んだ。ブルガリアは、ルーマニアより1年早い07年に約90億ユーロと最高を記録し、その後4年連続の減少で、11年には07年の約9分の1になった。まさにジェットコースターのような下落で、経済減速の一因となった。
12年のFDIの見通しは、欧州債務危機の影響で両国とも暗い。ルーマニアでは携帯端末製造のノキア(フィンランド)が11年末に撤退(08年進出、投資総額約1億5,000万ユーロ)した。また、米国フォードが買収したクライオバ自動車工場の民営化契約(11年末までに25万台生産)が達成困難で契約が見直し(11年9月)になり、投資家や産業界に衝撃が残っている。ブルガリアでは、E.ON(ドイツのエネルギー最大手)が、過剰な市場規制と政府不信のため、配電事業の持株66%(残りは政府保有)をチェコのエネルゴ・プロに売却し、撤退した(11年12月)。
<両国の投資環境にも問題>
長引く世界的な不況で欧米諸国の投資意欲が減退しているとはいえ、両国の投資環境そのものも以下のような問題を抱えている。
(1)EUの監視下にある汚職や司法制度改革
両国とも、民主革命(1989年)から22年、EU加盟(2007年)から5年も経っているが、政府高官の汚職対策、司法制度改革、組織犯罪対策は、さらなる実行と成果が必要だとして、欧州委員会が定期的な監視を継続している。これがFDI減少の大きな要因の1つになっている。
(2)官僚的対応や透明性の欠如
次に、政府の許認可などを受ける際、窓口の官僚的対応が指摘される。また、入札の際は、透明性の欠如により公正な競争が阻害されている。ハリス在ルーマニア英国大使は「外資に評判が悪い理由は、官僚的な対応と汚職だ。ルーマニアは真剣に取り組む必要がある」と発言している(11年11月4日)。ワーリック在ブルガリア米国大使も「景気が良くなってきた米国企業は投資先を探している。重要なことは法の支配の確立と、官僚的な対応の一掃だ」と提言した(11年5月28日)。
(3)高速道路建設の遅れ
物流の要になる道路インフラ、特に高速道路の建設の遅れも指摘される。ルーマニアは中・東欧で第2の国土面積(23万平方キロ、英国より約1万平方キロ少ない)があるが、高速道路はわずか370キロしかない。
西欧と中東を結ぶ汎欧州運輸回廊の1つ、コリドー4は、ドイツ〜チェコ〜ハンガリー〜ルーマニア〜ブルガリア〜トルコ(ギリシャ)をつなぐ。ルーマニアを通るコリドー4の本線ルートは全長516キロだが、現在開通しているのはアラド〜ティミショアラ間の32キロだけで、高速道路化率はわずかに6.2%だ。
ブルガリアは、国土面積11万平方キロ(ルーマニアの半分以下)で、高速道路は549キロ。コリドー4の本線ルートはドナウ国境の町ビディンからトルコ国境の町カピタン・アンドレエボに至る全長555キロで、うち高速道路は242キロ。その高速道路化率は43.6%だ。
また、両国の国境になっているドナウ川は610キロに及ぶが、橋はルーマニアのジュルジュとブルガリアのルセ間に、旧ソ連時代に建設した「友好の橋」が1本あるだけだ。橋の通行は片側1車線のため渋滞が頻発する。そこで、コリドー4の重要な一部としてルーマニアのカラファトとブルガリアのビディンを結ぶ片側2車線の第2架橋(全長1,971メートル、総工費2億3,600万ユーロ)が07年5月に着工された。しかし、完成は当初予定の10年4月から大幅に遅れており、12年末までには完成させたい、とルーマニアのアウレスク外務副大臣とブルガリアのニコロバ地域開発公共事業副大臣が12年1月19日に合意した。
(4)財務制度の不備で長期的な一貫した戦略が立てにくい、会計法の頻繁な改正、地場パートナーの長期見通しの欠如、などを挙げる進出企業もある。
<投資が活発なのは風力発電分野>
両国とも、FDIが減少する中、風力発電への投資は活発だ。ドイツ、スペイン、チェコなどが優遇策の削減や廃止を決めたため、エネル(イタリア)、イベルドローラ(スペイン)など風力発電開発業者は高い収益が見込まれる両国への進出を進めている。
ルーマニアでは、優遇策としてグリーン証書(注1)を導入し、10年に448メガワット(MW)、11年に520MW分の風力発電が設置され、11年末時点で累計982MWが稼働している(欧州風力エネルギー協会のデータ)。既に、風力発電は、同国のチェルノボダ原子力発電所(2基)の1基分700MWを大幅に上回る。
ブルガリアでは、優遇策として固定価格買い取り制度(FIT、注2)を導入し、10年に322MW、11年に112MW(暫定数値)分の風力発電が設置され、11年末時点で累計612MW(三菱重工による33MWを含む)が稼働している。
両国とも、風力発電への投資は爆発的に活況で、ルーマニアは既に送電網への接続契約が8,415MW分あり、ブルガリアは20年までに3,000MW以上の設置を見込んでいる。業界筋では、今後は風力発電から太陽光発電に投資が移行すると予測している。
この1〜2年で、風力発電のタービンを納入する企業の中に、韓国のSTXグループ、中国の明陽風電集団、インドのスズロン・エナジーなどが目立っており、日系企業の参入も期待される。
(注1)風力は1メガワット時(MWh)当たり2017年まではグリーン証書2枚発行、その後は1枚。取引価格は1枚約55ユーロ。
(注2)風力は買い取り期間12年間。発電800キロワット以上の場合、年間稼働時間が2,250時間以下は1MWh当たり56ユーロ、2,250時間以上は同89.5ユーロ。
(豊田昇)
(ルーマニア・ブルガリア)
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