債務危機を尻目に飛躍する経済−ドイツの日系企業に聞く−

(EU、ドイツ)

欧州ロシアCIS課

2012年04月09日

欧州債務危機の影響で南欧を中心に各国の経済情勢が悪化している中、ドイツ自動車メーカーは記録的な売上高を達成するなどドイツ経済は独り勝ちの様相を呈している。ドイツ進出日系企業へのヒアリング(3月19日)を踏まえ、現状を報告する。

<景況感は5ヵ月連続で上昇>
連邦統計局が2月24日に発表した2011年第4四半期の実質GDP成長率は、前年同期比1.5%、前期比マイナス0.2%となったものの、11年通年では3.0%と堅調だった。

ドイツ経済の堅調さは、そのほかの経済指標にも表れている。日系銀行のアナリストは「ドイツ商工会議所の景気アンケート(11年12月〜12年1月)によると、今後12ヵ月の見通しは『好転』と『現状維持』を合わせると8割以上。製造業受注も11年12月に再び回復に転じた。同月は特に海外受注が増加し、非ユーロ圏からの受注の伸びが顕著だ。ユーロ圏の低迷によりドイツ経済は短期的には低成長を余儀なくされるだろうが、景況感や受注動向では総じて明るい見通しが出ており、景気は底堅いだろう」とみている。

ifo経済研究所が3月26日に発表した景況感調査でも、11年11月から5ヵ月連続で景況感は上昇しており、3月は109.8ポイント(前月比1ポイント増)だった。さらに産業別では、小売りの景況感が10.6ポイントと、前月より6.9ポイント改善している。消費者が購買意欲を維持しているのは、ドイツがこれまで進めてきた労働市場改革のたまものだとの見方もある。先のアナリストは「ドイツの産業はもともと競争力がある。それに加え、ワークシェアリングの導入など、柔軟な労働市場によって失業者増加に歯止めをかけており、失業の不安が少ないことが購買意欲につながっている」とみる。

にぎわうデュッセルドルフ市内

<業績上向く自動車業界>
ドイツ経済を牽引しているのはユーロ安を背景にした輸出だとよくいわれる。同アナリストは「11年12月のユーロ圏向け輸出は前年同月比3.3%減だったが、EU内の非ユーロ圏向けは2.2%増。また、EU外向けは14.7%増となっている。このことからも、ドイツ経済はEU外で稼いでいることが分かる。例えば、ドイツの自動車業界はユーロ安の恩恵もあり、高い業績を挙げている。その波及効果から、ドイツの日系自動車部品業界も業績は上向きだ」という。

フォルクスワーゲングループは3月12日、11年の業績を「記録的な好業績」と発表した。売上高は1,539億ユーロで前年比25.6%増、当期純利益も158億ユーロで同2.2倍、車両販売数は初めて800万台以上と記録づくめの年だった。

ドイツ進出日系企業(製造業の情報収集拠点)にドイツの現状を聞いても、「ドイツにいると、欧州債務危機や欧州景気低迷に対する危機感はあまり感じられない」と、楽観的だった。

<経済と政治のスピード感が違う>
欧州債務危機の原因、顕在化している傾向や今後のリスクについても聞いた。先のアナリストは「欧州経済が危機にひんしている、と再三いわれ、ドイツ国民の心理状態も一時悪化した。だが、産業競争力があり、かつ大規模な財政引き締めを行う必要もないため、ドイツ経済は安定的に推移しており、国民の不安は幾分和らいでいる」とみている。心理的にも準備ができていたために、ギリシャ国債の債務元本の削減(ヘアカット)についても冷静に対応ができ、結果、リーマン・ショックのときのような大きな衝撃はなかったのではないかと思われる。

また、同アナリストは「欧州債務危機の混乱は、『経済(市場)』での決定のスピード感と、『EUの政治』の場での決定のスピード感の差異に起因する部分もある。すなわち経済がスピード感ある対応を求めていたにもかかわらず、政治は小出しの対応でスピード感が欠如していた。その結果、市場が疑心暗鬼になり、信用不安が増大した」と欧州債務危機の一因を分析する。

今後のリスクとしては、a.イタリアやスペインといった欧州中核国への本格的な債務危機の波及や債務危機対応策の成否、b.原油価格の上昇とそれに伴うインフレ懸念の高まり、c.北米や中国市場の回復の見通し、を挙げた。

<外国企業による買収案件も>
同アナリストは「ユーロ安もあり、外国企業がドイツ企業を買収する例が出ている」という。一般的に欧州は成熟市場なので、ゼロベースから参入するよりも既存の企業を買収する参入方法が適しており、「投資ファンドがリーマン・ショック前に買収した案件を売却するなど、大型案件は少ないものの、市場は活発化している。日本企業だけでなく、中国企業も買収に積極的だ」とした。

投資ファンドが絡む案件ではないが、中国の建設機械大手の三一重工は1月27日、ドイツ同業のプツマイスターの買収(金額非公開)を発表した。この買収は、中国大手企業がドイツの有名企業を買収した例として、ドイツ国内で話題を集めた。プツマイスターは三一重工の資金力を、三一重工はプツマイスターの技術力を見込んでの買収案件だ。同アナリストは「欧州企業の中には、中国資本の傘下に入ることで中国市場獲得を試みるケースも今後増える可能性がある」とみる。

前述の進出日系企業は、他国企業の進出に脅威を感じており、「家電分野などでは欧州債務危機や欧州経済低迷よりも韓国企業の台頭のほうが懸念される」という。同分野では商品宣伝力、価格面でも日本勢は劣勢気味で、それに韓国・EU自由貿易協定(FTA)の暫定発効による競争条件向上が拍車を掛けている。日系企業の間では、現在スコーピング作業中の日EUの経済連携協定(EPA)/経済統合協定(EIA)の早期締結を強く希望する声も強い。

しかし、日系企業も当面の激しい競争をしのぐため、なりふり構っていられず、先の日系企業によると「中・東欧の生産拠点で、ライバルの韓国企業から部品提供を受けるなど、連携を模索する日系企業もあるようだ」という。

(植原行洋)

(ドイツ・EU)

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