化学物質の管理はハザードベースからリスクベースへ−EU環境セミナー(2)−

(EU)

ブリュッセル発

2012年04月03日

EU環境セミナー報告の後編は、堀場製作所と住友化学ヨーロッパの環境対策について。堀場製作所は、主に特定有害物質使用制限(RoHS)改正指令の内容と発効後の動向について、住友化学ヨーロッパは、化学物質管理の動向と同社の対応について発表した。

<一部を除き電気・電子機器はRoHS指令の対象に>
堀場製作所の中井章仁マネジャーは、まず、電気・電子機器のRoHS指令への適合の責任は製造者にあり、製造者自ら自社製品がどのカテゴリーに属するかを把握し、対処方針を定めることが重要だと指摘した。

その上でRoHS改正前の指令(欧州議会・理事会指令2002/95/EC)とRoHS改正指令(欧州議会・理事会指令2011/65/EU)について比較概要を説明した(表1参照)。概要は以下のとおり。

表1RoHS改正前の指令とRoHS改正指令の比較

対象製品について、改正前RoHS指令ではカテゴリー8(医療用機器)とカテゴリー9(監視・制御機器)の適用日が決まっていなかった。改正により、カテゴリー8と9の適用日が決まり、またカテゴリー11として「10製品群以外の電気・電気機器」が新しく対象に追加された。これによって、一部の適用除外を除き、すべての電気・電子機器が対象になった。このため、企業はカテゴリー8、9、11についても適合性を担保しなくてはならない。

対象製品の適用開始時期は、カテゴリー1〜7、10は06年7月1日から実施されているが、そのほかは14年、16年、17年、19年とカテゴリー別に開始年が異なるため留意が必要だ(表2参照)。

表2対象製品と適用開始時期

<FAQ案作成での争点は2つ>
RoHS改正指令発効後の注目ポイントは、(1)質疑応答事例集(FAQ)案の作成、(2)対象製品の見直し、(3)CEマーキング整合規格の適用、(4)適用除外用途の追加申請、だ。

(1)FAQ案作成
RoHS改正指令(2011/65/EC)は11年7月21日に発効しているが、その内容で不明確な部分を解説するFAQ案の作成が非公開で行われている。FAQ案は12年5月をめどにパブリックコンサルテーションが行われる予定。FAQにどのように記載されるかによって企業の対応(リスクヘッジ)に影響する部分があるため、動向が注目されている。

FAQ案の作成で、現在争点になっていることを2つ挙げる。1つは、適用除外品目になっている大型据付産業用工具(LSSIT)と大型固定据付装置(LSFI)の「大きさ」の定義について。これまでグレーにしておこうという流れがあったが、明確化しようとする動きが出ている。最も有力なのはISO20規格の引用(コンテナサイズ6.1メートル×2.44メートル×2.59メートル)で、これを明確化されると、特定分野には影響が大きい。

もう1つは、電気機器と同梱(どうこん)された(または機器の一部として取り付けられて販売された)付属品や消耗品のRoHS適合の必要性についてだ。例えば、電気ドリルの場合、電気ドリルは電気製品なので適用製品だが、電気ドリルの歯だけが販売されている場合は適用外になる。これに対し、電気ドリルに同梱されている歯はRoHS指令に適合させなければならないといった運用の難しさが発生している。これ以外にも似たような状況で解釈が違うケースがあるので注意が必要だ。

<コンサルテーションを通じ対象製品の見直しを実施>
(2)対象製品の見直し
11年10月18日〜12年1月6日にステークホルダーの第1回コンサルテーションが実施された。ここでは、対象製品案の影響評価を進める上での情報収集と、対象製品の修正の必要性が検討された。ポイントは、影響評価の主な対象は19年から対象となる電気・電子機器(EEE)製品で、RoHS改定指令の定義明確化はFAQの範囲で行うこと、医療・計測・分析器にかかわる機器(前処理装置や洗浄機など)はカテゴリー8、9と解釈されることだった。

第2回のコンサルテーションは12年1月〜12年4月13日までの予定で、表面処理詳細規定のためのヒアリングと、対象製品の影響評価(主に19年から対象となる製品の見極め方法とカテゴリー11の製品に対するスペアパーツについて)が主な議題だ。

<RoHS指令対象品目にもCEマークの貼付義務などが追加>
(3)CEマーキングの整合規格
これまで、RoHS指令の対象製品は、CEマーキングの対象になっていなかったが、RoHS改正指令により、製造者(輸入者)に対して、CEマーキングの適合宣言書作成、CEマークの貼付義務、技術文書の保管義務が追加された。これを受け、欧州電気標準化委員会(CENELEC)のワーキンググループ(TC111X WG5)が整合規格の作成を行っているが、12年1月時点の技術文書保管に関する案は次のとおり。

製造者は、製品に禁止物質が含有されている可能性がないことを担保し、またサプライヤーの信頼を確保する必要がある。製造者は、a.サプライヤーによる適合宣言書と契約上の合意文書(あるいはいずれか1つ)、b.含有物質宣言書、c.分析、のいずれか(あるいは複数)を選択し、これら収集した技術情報が十分であれば保管をする。収集した技術情報が十分でなければ1つ前の情報収集プロセスに戻り、より厳しい調査を実施する。

(4)適用除外用途
改正前のRoHS指令では、定期的に見直しが実施されていたが、改正後は企業自らが追加、延長申請を実施しなければならない。企業が追加、延長申請を怠ると、適用除外用途が自然消滅してしまうことを企業が十分認識する必要がある。現在の適用除外用途の動きをみると、12年1月に欧州委員会が追加申請18種類の審査(コンサルテーションは3月20日までが期限)の補助業務を外注しており、継続的に審査が進められている。

<ハザードとばく露を考慮したリスクに基づく管理へ>
続いて、住友化学ヨーロッパの木村雅晴シニア・マネジャーは、化学物質管理の動向と住友化学の対応について以下のように紹介した。

まず、大前提となる化学物質の定義について、身の回りのものはすべて、ほぼ化学物質で構成されており、現代の生活に必要不可欠なものだ。

国際的な化学物質管理の動きをみると、世界的に化学物質の安全・安心に対する関心が広がり、02年の持続可能な開発に関する世界首脳会議で国際的な安全性点検目標が設けられた。各国でそれに対応した法の整備が課題になり、EUでは07年に新化学物質規則(REACH)が施行され、日本では09年5 月に化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の改正法が公布され、10年4 月と11年4月の2段階に分けて施行された。

改正の主なポイントは、物質固有の性質であるハザード(有害性などの化学物質固有の特性)を基にした管理から、人や動植物にどれだけ影響を与える可能性があるか、ばく露量(人や動植物が化学物質にさらされる量)を加味した「リスクベース」管理体系への変更だ。

従来は有害性の強さだけが着目されていたが、改正により、化学物質が人の健康や動植物に悪影響を及ぼす可能性の程度について考慮されることになった。リスクベース管理は、ばく露が考慮されたリスクの大きさに基づき、製造、輸入、使用(加工)・消費、廃棄の段階での管理措置を必要とする。このため、どういう状況で化学物質が用いられるのかという点も考慮するために、従来の法規制の枠組みを超えた、サプライチェーンを通じた情報交換が求められる。

<製品の全ライフサイクルにおける自主管理を促すレスポンシブル・ケア>
国際化学工業協会協議会(ICCA) は、化学物質管理のための戦略的行動計画(SAICM)目標の達成と化学物質の適切な管理の改善に貢献するための自主的なプログラム(レスポンシブル・ケア世界憲章、グローバルプロダクト戦略)を遂行している。

レスポンシブル・ケアとは、化学物質を扱うそれぞれの企業が化学物質の開発から製造、物流、使用、最終消費を経て廃棄・リサイクルにいたるすべての過程で、自主的に環境・安全・健康を確保し、活動の成果を公表して社会との対話・コミュニケーションを行う活動を指す。

グローバルプロダクト戦略(GPS)は、レスポンシブル・ケア活動の背景にある化学物質の総合安全管理の考え方を化学産業だけでなく顧客やサプライチェーン全体に拡大、強化していこうというフレームワークで、製品の安全性の立証と情報の開示・共有を推進する。

最近の化学物質管理の動向をまとめると、a.ハザードベース規制からリスクベースの管理へ、b.蛇口規制(危険な物質そのものが市場に出ることを規制)からサプライチェーン管理へ、c.規制主導から規制と自主管理へ、が傾向としてみられる。

<REACHなどの規制への対応に役立つ化学品総合管理システム>
住友化学の化学物質管理の取り組みとして、社内にレスポンシブル・ケア室を設置し、組織の隅々までケアがいきわたるようにしている。さらに、化学物質の安全性を研究するための生物環境科学研究所、防災物性の研究を実施するための生産技術センターをそれぞれ設置している。

また、日本の環境省と約束した「エコ・ファーストの約束」を掲げ、環境先進企業として、化学物質管理とリスクコミュニケーションを適正かつ積極的に推進、地球温暖化の防止、循環型社会の形成に向けた取り組みなどを具体的に挙げている。

欧州のREACH規則の施行に伴い、企業はEU域内の川上の物質供給者から一般消費者に至る製品のライフステージ上のリスク評価と管理の厳格化が求められており、サプライチェーン(供給者から消費者までを結ぶ、開発・調達・製造・配送・販売の一連の業務連鎖)の川上から川下までの製品の使用状況の把握を行い、リスクを解析する必要がある。

住友化学は、EU域内で製造・輸入される化学物質について、規制当局への予備登録を08年11月末までに完了し、10年11月末が登録期限の物質については12物質の登録が完了した。

また、化学品の安全管理に関する情報を統合・管理する社内データベースとして、化学品総合管理システム(SuCCESS)の運用を09年から開始した。SuCCESSを通じて、当社が取り扱うすべての化学品に関する組成や有害性、適用法規、化学物質等安全データシート(MSDS) などに関する情報を一元管理し、社員がイントラネットを通じて必要な情報を閲覧してリスク管理に活用することが可能だ。SuCCESSは、REACHなどの規制への対応にも役立っている。

(小林華鶴)

(EU)

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