政策金利据え置き、回復は堅調と判断−復興過程の経済動向(1)−
バンコク発
2012年04月02日
タイ中央銀行は3月21日、定例の金融政策決定会合を開催し、政策金利の1日物レポレートを3.00%のまま据え置くとした。米国、欧州でのリスクが前回会合時から弱まったほか、タイ経済は堅調な回復をみせており、インフレ圧力が増している状況で、適切な水準と判断した。しかし今後は、最低賃金上昇や原油価格高騰などによってインフレ圧力が増す懸念がある。洪水被害から復興過程にあるタイ経済の動向について、2回に分けて報告する。
<1月に引き下げた3.00%を維持>
中銀は2011年11月に政策金利を3.50%から3.25%に、12年に入って1月25日に3.25%から3.00%に再度引き下げていた(図参照)。今回3月21日の据え置きは市場の予想どおりだった。
中銀は据え置きの理由として、海外経済の減速リスクの低下、タイ経済の堅調な回復、インフレ圧力上昇といった状況の下で、現在の政策金利は経済回復をサポートするのに適切な水準であること、コアインフレ率(生鮮食品・エネルギーを除いた消費者物価上昇率)がインフレターゲットの0.5〜3.0%の範囲にあることを挙げた。
中銀は世界経済の動向について、回復は遅いものの、1月の金融政策決定会合時に比べ、下降リスクは弱まったと判断した。米国経済は雇用、民間分野で持続的に回復しており、ギリシャなど財政問題に揺れる欧州は、IMFによるギリシャ財政支援が決定したとみている。しかし、中東の原油問題(米国、英国のイランへの経済制裁による原油輸出減少の懸念)で原油高傾向にあることは、インフレリスクを高めていると懸念している。
<最低賃金と原油価格の上昇がインフレの懸念材料>
消費者物価上昇率をみると、中銀が金融政策運営目標として採用しているコアインフレ率は1月と2月はともに2.7%と、インフレターゲット0.5〜3.0%の範囲内で推移した。
しかし、順調にタイ経済が回復していけば、政府消費、民間消費や投資が物価上昇を後押しする可能性があるほか、最低賃金の引き上げと原油価格上昇の影響も懸念される。
最低賃金が4月1日からバンコクと首都圏およびプーケットの7都県で300バーツ(1バーツ=約2.66円)に引き上げられ(現在、バンコク215バーツ)、そのほかの70県でも一律40%上昇する。労働コストが上昇し、そのコストが製品などの販売価格に転嫁されることで物価上昇を招く恐れがある。また、原油については、輸入に頼っているため、原油の国際価格動向の影響を受けやすい。
中銀はこれらインフレ要因による物価上昇率について、最低賃金引き上げは総合インフレ率を0.2%、コアインフレ率を0.3%上昇させ、原油価格上昇(12年中は1バレル103ドルから115ドルに上昇するとした場合)は、総合インフレ率を0.4%、コアインフレ率を0.1%上昇させるとみている。
また、プラサーン中銀総裁は「ネーション」紙(3月26日)で、原油価格が1バレル140ドルに達したとしても、12年内はインフレターゲットとして導入を検討している総合インフレ率(1.5〜4.5%)、および現在のインフレターゲットのコアインフレ率(0.5〜3.0%)の範囲内で推移する、との判断を示している。
タイ経済について中銀は、最近の各種指標で改善がみられること、製造業の生産は12年第3四半期(7〜9月)までに通常のレベルに回復する過程にあり、回復に力強さがあること、特に所得、雇用、消費者信頼感の改善や政府の景気刺激策などの寄与により、内需が成長を牽引しているとしている。
(橋本逸人)
(タイ)
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