適切なパートナーと組めば認可も円滑に−ニューデリーで医療機器セミナー−

(インド)

ニューデリー発

2012年03月27日

ジェトロは2月29日、ニューデリーで日本医療機器産業連合会(医機連)と共同でインド医療機器セミナーを開催した。インドの医療機器市場は、年率2ケタの成長が期待されている。政府は国際ルールに整合した新たな医療機器制度の導入を検討しているが、現状ではまだ規制品目が少なく、適切な現地パートナーと組めば他国に比べて速やかに認可を取得できる。欧米や日本など先進市場で売れた製品はインドの医師にも人気があり、長い目でみれば米国など先進国への製品の浸透が重要になる。

<規制対象品目数は14>
今回のセミナーには、ジェトロが2月29日〜3月5日に派遣したインド医療機器ミッション参加企業10社、医機連の幹部、内閣官房医療イノベーション推進室の八山幸次企画官のほか、現地進出日系企業関係者ら合計40人が参加した。

冒頭、医機連の荻野和郎会長が基調あいさつで、日本政府は新成長戦略の下、ライフイノベーションによる健康立国をうたい、医療機器が成長分野として注目を集めていると紹介した。

医療機器に関連した規制を所管する国家医薬品基準管理機構(CDSCO)の次席医薬品管理官シャンティ・グラセカラン氏は、医療機器に対する規制と今後の規制改革の展望を解説した。

規制対象になる医療機器は、市販前に当局の審査を経て登録しなければならない。これは他国と同様だが、インドの特徴は規制対象の品目数が、14とまだ少ない点にある(表参照)。例えば、日本企業が高い輸出競争力を持つ磁気共鳴画像診断装置(MRI)やX線CT、超音波診断装置などの画像診断装置は、CDSCOが指定する規制対象品目に含まれていない。

規制対象品目を販売する日系企業によると、製品登録には、完全な書類をそろえても提出してから登録完了まで1年弱はかかるという。また、製品登録には現地の代理店などの協力が必要になり、良い代理店はコストがかかるものの、申請手続きはその分円滑に進むようだ。CDSCOと人的なつながりの薄い代理店を使うと、何年待っても許可が下りないこともあるという。

医薬品として規制対象になる医療機器

<医療機器法の制定を準備中>
グラセカラン氏の現地規制に関する説明の概要は以下のとおり。

○インドの医薬品・化粧品法では、医薬品の一部として医療機器が位置付けられている。CDSCOは、医療機器の生産、販売、輸入にかかわる各種の申請を受け付けて審査している。医療機器の審査は十数人で担当している。

○現地製造する際には生産許可、販売する際には販売許可、個々の製品については市販前までにそれぞれの製品登録(有効期限3年間)が必要。さらに輸入の場合は、製品登録が終了した後に、代理店などの輸入者が輸入ライセンス(有効期限は製品登録に記載されているのと同期間)を取得しなければならない。

○製品登録にかかる期間は、申請してから4〜5ヵ月、長くとも9ヵ月以内に完了できる。輸入ライセンスは申請から2〜3ヵ月で取得できる。

○CDSCOは2010年11月、14品目を医薬品に該当する医療機器として指定している。また、これら14種類のほか、血液型判定血清、コンドーム、避妊リング、縫合糸・ステープラー、治療用包帯、血液バッグ、臍帯(さいたい)テープ、子宮内避妊用具(IUD)の8種類も医薬品として規制している(このため規制対象の医療機器は22品目と表現する場合もある)。
○輸入品の製品登録申請時には、提出書類の中に、原産国で認可を受けて市販されていることを示す自由販売証明を提出する必要がある。品質管理システムを構築している証明として、ISO13485(ISO9001の医療機器版)の写しの提出が求められる(CDSCOのガイドライン)

○海外の医薬品製造工場の査察は、件数はまだ少ないものの最近開始した。インドは中国から多くの殺虫剤を輸入しているが、安全の確保が課題になっており、中国での査察から始めた。医療設備を製造する外国工場への査察はまだ実施していない。

○今後、医薬品・化粧品法を改正して、医薬品・化粧品・医療機器法を制定し、医療機器を医薬品と区別して独自に規制することを検討している。医療機器の新規制は、医療機器規制国際整合化会議(GHTF、注1)の規則や、米国の食品医薬品局(FDA)規則、欧州の医療機器指令と整合させる予定だ。

例えば、審査の厳しさは、製品を使用する際に想定されるリスクの大きさに応じて変える予定だ(案ではリスクが低いものからA〜Dの4段階。リスクの低いものの審査は緩く、リスクが高い製品の審査は厳しい)。ただし、本件が実現するかどうかは議会の審議次第で、現時点で法案成立のめどは付いていない。

<中間層の増加が市場を牽引>
国内医療機器企業を加盟社とする医療機器産業協会のフォーラム・コーディネーターのラジブ・ナース氏は「国内医療機器市場の成長は、購買力のある中間層の拡大によって牽引されている」と述べた。また、a.病院や院内設備のインフラ整備が今後進むことへの期待、b.患者数が国内だけでなく医療ツーリズムで外国からも増えることへの期待(国内の医療ツーリズム市場は08年の3億ドルから15年には20億ドルに拡大すると予測)、c.現在15%に満たない医療保険加入率が、所得の向上とともに徐々に上昇していくことへの期待、なども追い風だと述べた。

インド国立応用経済研究所(NCAER)は、年収20万〜100万ルピー(1ルピー=約1.6円)の世帯を新中間層と定義する。この新中間層は05年時点で人口の5%(約6,000万人)だったが、15年には21%(約2億5,000万人)に拡大すると見込まれている。ナース氏は、これらの層が家電や小型自動車などを買うだけの購買力を持つようになれば、医療分野にも支出を拡大させるはずだとみる。英調査会社のエスピコムは、11〜16年の5年でインドの医療機器市場が年率13.4%のペースで拡大する、と予測している。

ナース氏は国内産業団体の立場から政府に対し、輸入製品を厚遇する政策に傾きすぎだと指摘した。例えば、a.医療機器にかかる関税率が原材料にかかる税率よりも低いため、完成品の輸入が促されている、b.輸入される2,000品目に上る医療機器のうち、医薬品の一部と認められて規制対象になっている機器の数は14品目にすぎない、c.CDSCOや州保健当局は国内メーカーの工場査察を行う一方、外国企業に対してはほとんど実施していない(注2)、などを理由に挙げた。また医療保険企業には、治療に使用する医薬品類についてFDAの承認を受けていることを前提とするものもあると述べた。

また、同氏は、日本を含む海外企業に対し、国内産業は注射器、針、カテーテル、手術用メス、医用手袋、眼内レンズ、縫合用針などに競争力があるため、価格競争力のある地場企業をパートナーにしてはどうかと呼び掛けた。さらに、インド市場に適した仕様と価格の製品を開発する際には、インド市場の需要をよく理解している地場企業にリエンジニアリングで協力してもらい、ともに製品開発することを促した。

CDSCOが検討している医薬品・化粧品・医療機器法の制定については、医薬品から医療機器を切り出して監督すべきだとの立場から、賛意を示した。ただし、「厳格な規制によって産業の振興が阻害されないようにしてほしい」とクギを刺した。

<欧米での高評価が購入につながる>
ナース氏が指摘するとおり、国内市場は所得の増加に伴う底上げで、日本企業の製品でも購入できる層が拡大しているようだ。ある企業は、販売可能な製品の数が年々大幅に増えているという。

また、複数の企業の話を総合すると、医療関連製品を販売する際、a.一般消費者が利用するような機器については、国内各地で実際に手に取ってもらうキャンペーンを実施するほか、一般消費者が出入りする小売店への説明を強化する、b.直接の利用者が医師や看護師などである装置系の機器の場合は、各地で発言力のある医師のところにこまめに訪問して売り込む、などさまざまな取り組みが行われている。ある日系企業の駐在員は、1週間のうち半分程度の時間をかけ、代理店と協力しながら、各地の小売店や医療機関、研究機関などに自社製品を紹介すべく飛び回っているという。

また、国内で上位に入る病院に勤める医師は米国か英国に留学、研修を積むことが多いため、多くの企業は「医師は売り込みに行く製品が欧米で売れているかどうかを気にしている」と語る。医療機器業界には、欧米や日本など先進国市場での評価の確立が、インドを含めた全世界展開につながることも忘れてはならない。

(注1)メンバーは米国、EU、日本、カナダ、オーストラリア。
(注2)海外企業はCDSCOなどインドの政府当局からの査察をほとんど受けていない。ただし、インドに輸出される製品をCDSCOに登録する際には、ISO13485の認証の証明書を提出する必要があるため、医療機器メーカーはいずれにしてもISO13485のための査察を欧州委員会が指定する民間認証機関に依頼して実施しなければならない。

(西澤知史、桜内政大)

(インド)

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