詳細は地元の区に確認が必要−蘇州市で外国人社会保険加入に関するセミナー−
上海発
2012年03月02日
蘇州市人力資源・社会保障局が「蘇州市で就業する外国人の社会保険加入業務の遂行に関する通知」を公表したことを受け、ジェトロは2月20日、蘇州日商倶楽部と共同で、その内容に関するセミナーを開催した。行政区によって細部の扱いが異なる事例が発生しているため、手続きの詳細や範囲については地元の社会保険当局に確認する必要がある。
<蘇州市区(高新区を含む)所在の企業が対象>
「蘇州市で就業する外国人の社会保険加入業務の遂行に関する通知」(蘇人保規[2012]1号、以下「1号令」、2012年2月17日記事参照)により、蘇州市区〔金●(門がまえの中に昌)区・平江区・滄浪区・蘇州国家高新技術産業区〕に所在する企業に就業する外国人は、2月中に社会保険加入手続きを行うことを求められた。ただし、呉中区、相城区、中国・シンガポール蘇州工業園区、昆山市、張家港市などは対象に含まれていない。
セミナーでは上海クイックマイツの小園英昭総経理が、中国の社会保険制度の基礎情報について説明した〔講演資料(PDF)参照〕。
中国の社会保険には「養老」「医療」「失業」「生育」「工傷」の5つの保険(通称「五険」/「五金」)があり、蘇州市の1号令は11年10月以降の五険加入を求めている。外国人が社会保険に加入する際に、平均賃金の3倍を超える給与を得ている場合は、平均賃金の3倍という上限の算定基数に基づき、毎月5,017元(会社負担3,759元+個人負担1,258元、1元=約13円)の保険料が発生する。
また同氏は、日本がほかの国と結んでいる社会保障協定の概要、同社が日系企業に聞いた各社の対応方針の動向なども紹介した。
次に蘇州市社会保険基金管理センターの朱敏峰副主任が次のように講演した〔講演資料(PDF)参照〕。
外国人の社会保険加入は、非内国民の内国民待遇を義務付けるILO条約第118号の精神に基づき、外国人の社会保険加入を求める中央政府の方針に沿ったもので、加入手続きや待遇などの運用は中国人と同じだ。蘇州市に登記した企業が外国人を雇用する場合は、関連規定に基づいて2月末までに就業証、労働契約書などの必要な書類を提出の上、手続きをしなければならない。手続きの詳細は社会保険基金管理センターのウェブサイトに専用のコーナーを設けており、不明な点は各窓口に問い合わせる。
<最長で11年10月にさかのぼって手続き>
セミナーには、約140人が参加した。講演後の質疑応答では、以下のようなやりとりがあった。
【朱講師に対する質疑応答】
問:10月にさかのぼってとのことだが、既に帰国している人の扱いは。
答:11年10月15日時点で在職していても、2月末時点で会社に就業していない人は、さかのぼって手続きする必要はない。なお、3月に在職している場合は、11年10月までさかのぼって手続きする必要がある。
問:別の説明会で、就業証を最近更新した人の遡及(そきゅう)は更新日からでよいと聞いたというが事実か。
答:就業証が新しいものに更新されている場合は、更新した就業証で手続きを行う。仮に2月に新しい就業証に切り替わっている場合は、就業証の記載日からの加入になる。
(注:複数の参加者から就業証の更新日ではなく、10月からの加入を求められたとの指摘があったため、それについて蘇州市社会保険基金管理センターに確認したところ、新しい就業証に書き換え後、その新しい就業証に更新日以前の就業記録がない場合は遡及扱いができず上記の扱いになるが、更新日以前の就業記録が確認できる場合は、最長で11年10月までさかのぼって納付する必要があるという補足説明があった。)
問:63歳の外国人労働者の場合、養老保険などにも加入しなくてはならないのか。
答:中国人と同じ定めになっている。(定年延長の取り扱いがされていない場合は)男性60歳、女性一般職50歳、管理職55歳を超える場合は加入しなくてよい。
問:工場が会社と別の行政区にあり、そちらの工場で働いている場合、代理業者などを通じて納付することになるのか。
答:外国人は中国人と異なり、会社が直接社会保険口座を開き、手続きする必要がある。手続きだけ代行を依頼することは可能だが、納付する社会保険口座は他社のものではなく、自社の口座でなければならない。
<区によって細目が異なる可能性も>
問:蘇州市内の社会保険基数の上限は1万1,392元と聞いたが、市全体がそうなのか。
答: 蘇州市傘下の区は基本的には一致しているはずだが、区によって違う可能性もあり得る。
問:1号令は蘇州市全体のものか。大倉市をはじめとするほかの地域は別途通達が出るのか。
答:蘇州市区だけを対象としている。ほかの地区で別途細則が出る可能性はあるが、社会保険加入の大きな方向性はほかの地域でも変わらないはずだ。
問:中国の給与と日本の給与が別の場合は、両方を合算する必要があるのか。
答:中国国内と国外の給与を合計したものを基数として計算する。
<証明があれば帰国前の還付手続きも可能>
問:帰任する際、5つの保険合計でどのくらいの還付があるのか。
答:具体的な金額は言いにくいが、還付されるのは、養老金個人口座の金額と利息、および医療保険で個人納付分から使用額を引いた医療保険カードの残額になる。
問:会社負担分は還付されるか。
答:会社負担分は統括管理されているので還付されない。これは中国人も同様の扱いだ。
問:養老保険、医療保険について、2月末に加入して3月末に帰国する人が還付手続きをする場合、帰国前に手続きできるか。
答:社会保険個人口座分の還付手続きは、原則として、中国を離れる証明を提出すれば帰国前に行える。就業証の取り消しを行った証明書などがそれに該当する。
問:公用パスポートで入国する人も対象になるか。また海外本社が給与すべてを支払っている場合、何をもって収入を証明するか。
答:今回の社会保険加入の通達は就業証、専門家証、記者証を持っている外国人が対象で、外交旅券の人は対象外だ。海外の収入すべてを確認することは難しく、基本的には会社の申告により、額を決定することになると考えている。
問:生育(出産)保険は1人っ子だけ対象だが、外国人はどのように適用されるのか。
答:外国人が生育保険を享受できるかについては、江蘇省で現在検討中だ。
<手続きは就業証の発行地で>
問:就業証を蘇州以外で取得した場合、取得地で申告するのか、それとも現住所でするのか。
答:現在の就業証の発行地で社会保険の手続きをする。上海に法人があり、そこで就業証を取得している場合は、上海で手続きすることになる。
問:地元の呉中区に聞いたが、要領を得なかったので質問する。2月中に手続きできなかったら罰則などが生じるのか。
答:呉中区は1号令の対象外。呉中区の規定によるので、そちらの内容を確認する必要がある。蘇州の1号通知は、蘇州が管轄する9つの区・市すべてに適用するのではなく、蘇州市区(高新区を含む)だけに適用する通知だ。現在細則が出ていない地区でも、基本的な方針は同じものになるはずだ。
(注:呉中区に所在する企業が、同区の担当者から1号令は呉中区も対象に含まれると聞いたと問い合わせてきたため、ジェトロが蘇州市人社局社保中心基金決算課に確認したところ「1号令の発布時点での対象範囲は、金●区・平江区・滄浪区・高新区だけ。呉中区は含まれていないが、呉中区人社局から1号令に従うよう後追いで通達が出ると考えられる」との回答だった。当初対象外だった地区でも、1号令を準用するかたちで加入を求める可能性があるため、最新の運用については各区の社保局に確認する必要がある。)
問:蘇州市区で2月末までに手続きできなかった場合は。
答:3月までは罰則、滞納金は発生しない。ただし3月になってしまった場合、平均賃金以下の人は平均賃金で手続きをし、平均賃金より高い人は本人の基数により手続きすることになる。加入状況の監督は社会保険の監察機関が法律に従って行う。
【小園講師に対する質疑応答】
<医療保険は社会保障協定の内容次第>
問:個人負担分を会社負担とする場合、仮払いの扱いとしている会社はあるか。
答:社会保険の個人負担分は給与所得。原則としては給料になるものをどう処理するか、監査事務所、会計士に確認してほしい。
問:日本で雇った中国人は、日本人と同様に日本の社会保険に継続的に加入することになるのか。
答:日本の保険加入の継続の有無は、日本国内の本社がどうするかの判断だ。出向ではなく転籍の場合は、日本の保険に加入できない。
問:仮に日中社会保障協定が発効した場合、就業期間が5年超える人はどのような扱いになるか。
答:社会保障協定の内容によって異なり、現段階では日中協定の内容は分からないが、これまでの社会保障協定の例では猶予期間が決められていることが多く、それを基に手続きすることになると思う。
問:現時点で5年を超える場合は日本の保険に入れない可能性があるか。
答:基本は現時点での就労期間ではなく、協定発効日から5年経過したら対象外になる。
問:会社で入っている海外旅行保険などの扱いはどうなるか。
答:薬代などは中国の保険から出るが、外国製の薬などは中国の医療保険の適用外になっていることが多い。商業保険のサービスは高額な医療をカバーしているが、中国の医療保険のカバー範囲は狭いので注意が必要だ。
問:5年を超える場合、扶養家族はどうなるか、現状のほかの国の例は。
答:医療保険は各地方自治体・健康保険組合によって対応が異なる。社会保障協定に医療保険の細かな内容が含まれる場合や対象外の場合もあり、協定の内容次第だ。
(草場歩)
(中国)
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