メルケル首相、訪中で経済協力の深化を確認

(中国、EU、ドイツ)

デュッセルドルフ発・欧州ロシアCIS課

2012年02月28日

2012年はドイツと中国の国交正常化から40年の節目に当たる。メルケル首相は2月2〜4日、中国を訪問した。温家宝首相との会談では、中国のユーロ圏支援のほか、両国の経済関係、中国での人権の動向、イランとシリアの情勢などが中心となった。2月14日には欧州理事会のファンロンパウ欧州理事会常任議長、欧州委員会のバローゾ委員長が訪中し、温首相との会談で、投資協定締結交渉の早期開始に努めることを確認した。

<危機脱却にユーロ圏各国の努力を求める>
2月2日の両国首脳会談後の記者会見で温家宝首相は、欧州債務危機から脱却するために、ユーロ圏諸国の独自の対策が必要不可欠で、ギリシャ、イタリア、ポルトガルなど財政赤字に陥った国は「苦しい決意をしなければならない」と述べた。また、ユーロ圏諸国の財政管理と失業対策のほか、欧州の持続性あるダイナミックな経済成長も危機を乗り越えるための前提条件になるとした。欧州金融安定ファシリティー(EFSF)と12年半ばに設立される予定の欧州安定メカニズム(ESM)への中国の支援については、「現在検討中」と明確なコメントを避けた。

メルケル首相の訪中に続き、2月14日には北京で第14回EU・中国首脳会談が行われた。この会談後の双方の首脳の記者会見でも、世界経済のガバナンス、金融の安定などについて協力することが表明されたが、EFSFやESMへの中国の具体的な支援には言及がなかった(2012年2月27日記事参照)

ドイツと中国の首脳会談では知的財産権保護の問題が、EU・中国首脳会談では投資協定についてが議論された。

両国首脳会談後の記者会見でメルケル首相は、多くのドイツ企業が懸念する中国での知的財産権流出問題について、「競争が正当で、知的財産が保護されており、確実な法的枠組みに即しているものであれば、競争相手全員が強くなるだろう」と指摘した。また、企業レベルでの両国関係を深めるため、両国企業への市場開放の必要性を強調し、「中国企業によるドイツへの投資活動は、雇用創出にもつながるため歓迎している。中国市場で、ドイツ企業に対する同じようなアクセス条件を期待している」と述べた。

温首相はEU・中国経済関係のさらなる改善に向け、保護貿易の排除、投資活動の強化と先端技術分野での協力などに関して、ドイツに、より積極的な役割を果たしてほしいと述べた。両国は具体的に電気自動車分野の規格や基準の共通化、両国間の輸出融資に対する協力を深める予定だとメルケル首相は示唆した。

また、EU・中国首脳会談後の記者会見でEU・中国間投資協定について、EUと中国の両首脳は「投資協定締結の交渉は、最終的な帰結に対する予見を排除したかたちで双方の関心事項をすべて含むものとする。可能な限り早期に交渉を開始できるよう取り組むことで合意した」と表明した。投資協定については、10年にEUと中国が「EU・中国投資共同タスクフォース」を設置し、事前協議を進めている。EU側は中国に対して投資自由化、投資保護双方を含む内容の協定を希望しているが、中国が過去締結した投資協定では、投資自由化について盛り込まれた事例はない。

<対イランでは見解に相違>
イランについて、ドイツ・中国首脳会談後の記者会見で温首相は「中東でイランやそのほかの国が核兵器を開発することには反対だ。ただ、制裁は問題の解決につながらないだろう」と中国の立場を明らかにした。メルケル首相はその発言に対し、「イランがEUとの対話に非協力的な姿勢をとっているため、さらなる制裁を導入すべきだ」と異なる立場を示した。ただ、両首相はイラン政府との対話が必要という点では一致した。イランに対しては、EU外相理事会が1月23日、イランからの原油輸入禁止などを内容とする制裁を決定。これに対し、イラン政府は2月19日に英国とフランスに対する対抗措置を講じるなど、両国・地域の溝が深まっている。

ドイツ政府はメルケル首相の訪中を成功としているが、国内主要メディアの論評は厳しかった。特に中国の人権問題に関し、メルケル首相が成果を得られなかったことが各紙に取り上げられた。「フランクフルター・アルゲマイネ」紙(2月5日)は、メルケル首相と中国の人権擁護派弁護士との夕食会が、中国当局に認められなかったことに対し、「メルケル首相は両国の関係を悪化させたくなかったため、それに言及しなかった」と報じた。「ハンデルスブラット」紙(2月3日、4日)は、「鉄血宰相は北京を説得できず」と、中国のユーロ圏支援に関し温首相が慎重な姿勢をとったと伝えた。

<中国との経済的な相互依存高まる>
ドイツ・中国間、EU・中国間の経済関係は近年、ますます密接になりつつある。ドイツ連邦統計局のデータによると、ドイツの対中輸出額は11年に約650億ユーロと前年比20%増となった。全輸出額に占める割合は6.1%で5位だった。中国からの輸入額は2.5%増の792億ユーロだった。全輸入額に占める割合は8.8%とオランダに次ぎ2位。また、EU統計局(ユーロスタット)によると、11年1〜11月期のEU27ヵ国の対中輸出額は1,240億ユーロで前年比21%増。また、同期のEU27ヵ国の中国からの輸入額は4.5%増の2,694億ユーロ。中国はEUにとって米国に次ぐ輸出相手国で、最大の輸入相手国だ。このため、欧州債務危機が収束しない限り、当地域との貿易関係が強い中国経済への影響も大きいと予想される。

(ゼバスティアン・シュミット、木場亮)

(ドイツ・中国・EU)

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