環境変化に応じ独自戦略でアプローチ−ロシアCISビジネス・セミナー(2)−

(CIS、ベラルーシ、カザフスタン、ロシア)

欧州ロシアCIS課

2012年02月20日

ロシアCIS地域では近年、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3ヵ国関税同盟の発足や政府による優遇措置の実施によって、ビジネス環境に変化が生じている。2011年は製造業分野で外国企業の現地生産の動きが活発化した。各企業は同地域の市場特性に合わせて、独自のアプローチを展開している。シリーズの2回目は、外国企業の対ロシアCISビジネス戦略について。

<ロシアへの製造業投資が活発化>
ジェトロ・海外調査部欧州ロシアCIS課の齋藤寛職員が、外国企業の対ロシアCISビジネス戦略について、以下のように説明した。

ロシアの対内直接投資は近年、縮小傾向にある。鉱業分野ではサハリンプロジェクトへの投資が一服し、リーマン・ショック前まで好調だった不動産投資、金融部門は低調だった。他方、輸送用機器分野を中心に製造業への投資は安定的に推移している。ロシア政府の自動車・同部品生産に対する優遇措置によって、外国企業が現地生産を活発化させているからだ。

また、最近では、国家発展戦略の重要分野に指定されている鉄道分野、機械・設備や医療機器分野で、今後の需要を取り込むために、現地生産を行う動きがみられる。食品分野では競争が激化しており、ペプシコ(米国)、ユニリーバ(英国・オランダ)、ダノン(フランス)といった企業がシェア拡大のためM&A攻勢に出ている。

カザフスタンの対内直接投資は、そのほとんどが石油・天然ガスをはじめとする資源エネルギー分野の案件だ。日系企業では、ウラン採掘に対する投資が目立っている。このほか鉄道分野では、「2020年までのカザフ鉄道発展戦略」に基づく近代化需要を見越して、外国企業の参入が活発化している。

<顧客サービスに注力する企業も>
今後も成長が見込まれるCIS地域を重点市場と位置付けて取り組む企業がある一方、市場の成熟化や競争激化、ビジネスカルチャーの違いなどの問題から、あえてロシアCIS市場に取り組まないという企業もある。インドの製薬企業JBケミカルズは「選択と集中」の観点から、より成長潜在性の高いインド市場に専念するため、ロシアから撤退するという選択をした。

販売・サービス分野では、金融危機を経て環境が変化したことから、顧客に対して新しいアプローチを展開する企業がある。地場家電量販店エリドラドは、消費者が価格・商品そのものの良し悪しだけでなく、購買時の快適さを求める傾向にあることを受け、スムーズに購入できる新しいスタイルの店舗を導入した。地場薬局チェーンのリグラは、多様化するニーズに応えるため、12種類の店舗ブランドを展開している。

企業間取引(B to B)分野では、顧客サービスに注力する企業がみられる。オランダのフィリップス・エレクトロニクスは、同社の医療機器ユーザーを対象にセミナーを開催している。ロシア政府は近年、最新の医療機器導入に注力しているが、現地の医療関係者のレベルが追い付いていないため、情報提供と技術指導を通してロシアの医療全体の質を向上させ、機器の販促につなげる戦略だ。

<現地生産加速の一方、現地調達には課題山積>
生産面についてみると、政府の政策や3ヵ国関税同盟の発足という状況が外国企業による現地生産の動きを後押ししているようだ。米国のゼネラル・エレクトリック(GE)は、カザフスタンの鉄道インフラ発展プロジェクトに参画するかたちで機関車の現地生産を始めた。その際、現地生産の採算を確保するため、カザフスタン鉄道の機関車を15年にわたり改修するサービス契約を結んだ。ロシア極東では、韓国の現代重工業がウラジオストク近郊でガス絶縁開閉装置工場を起工するとともに、連邦送電会社(FSK)が13〜17年の5年間に調達する機器の半分を供給する契約を締結した。

外国企業の現地生産が進む一方、現地調達はそう簡単ではない。地場サプライヤーが供給する部材の品質や量産体制には課題が多く、外国企業は自社での原材料部材生産、進出外国企業からの調達、外国企業の進出誘致、地場サプライヤーの積極的育成など、各社さまざまな対策を取っている。

ロシアでスナック菓子を製造するペプシコは、ジャガイモやヒマワリ油の現地調達を安定確保するため、地場サプライヤーの育成に力を入れている。8つの連邦構成体の農家を対象に無利子ローンを供与し、優遇条件で農機や高品質の種苗の提供、ジャガイモの育成・収穫・長期保存に関する技術移転を行った。この結果、現在では85%のジャガイモを現地調達している。

<関税同盟発足で相互参入の可能性が拡大>
最後に関税同盟の発足による企業活動への影響や今後の予測について。自動車分野では、関税同盟の発足によってカザフスタンの自動車輸入関税が引き上げられ、現地生産のメリットが拡大した。現代や双龍は関税引き上げを機に、現地で委託生産を始めた。

また、関税同盟域外からの輸入関税が上昇したことで、カザフスタンでは、関税同盟加盟国と自由貿易協定(FTA)を締結しているウズベキスタンをはじめとするCIS諸国産品の輸入が拡大している。

今後の予測として、同盟国域内で技術規則が統一化されることにより、今までそれほど活発でなかったカザフスタンの食品メーカーがロシアへ進出する例や、カザフスタンの地場小売店がロシア産品の調達を拡大するなど、相互参入が活発化するという新しい傾向がみられるのではないか。

(菱川奈津子)

(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・CIS)

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