11年の新車登録台数は17.7%減、過去20年間で最低の水準に

(スペイン)

マドリード発

2012年02月08日

2011年の新車登録台数は前年比17.7%減の80万8,059台と、過去約20年間で最低の水準に低迷した。主力の小型車が苦戦する中、日韓メーカーがスポーツ用多目的車(SUV)人気でシェアを拡大した。生産台数は、欧州向けを中心とする堅調な輸出に支えられ、235万台と前年比1.4%減にとどまった。スペインは世界第8位、欧州第2位の自動車生産国。

<93年の水準に後退>
スペイン自動車工業会(ANFAC)の1月2日の発表によると、11年の新車登録台数は前年比17.7%減の80万8,059台だった。欧州債務危機の影響で高失業や信用収縮が長引く中、5年前の好況期に比べると半減しており、1993年並みに後退した。ANFACは、12年の新車登録台数はさらに減少し、80万台を割り込むと予想している。

車格別では、前年を上回ったのはラグジュアリーカー(83.1%増)や大型ワゴン(11.3%増)など、顧客層の購買力が高く不況の影響を受けにくい高級・高価格帯と、各社がモデル投入し、女性にも人気の小型SUV(22.2%増)だけだ。主力の小型から中型車クラスでは、前年半ばまでの新車買い替え補助金制度による購入前倒しの反動減もあり、軒並み15〜30%減少した。

なお、12年以降に導入される自動車二酸化炭素(CO2)排出規制に先立ち、08年から走行1キロ当たりのCO2排出量が120グラム未満の車種に車両登録税を免除するグリーン税制(注)が導入されているが、この区分に該当する車種の販売台数は前年比7.1%減と、比較的小幅な減少にとどまっている。

電気自動車(EV)の販売は374台で前年から5倍程度に伸びたが、政府が目標としていた7万台には程遠い。EV導入は不況と財政難、インフラ投資の遅れ、車両の供給不足で、あまり進んでいない。

<日産と韓国勢がシェア拡大>
ブランド別では、フォルクスワーゲン(VW)傘下の地場ブランド、セアトが最大のシェア(9.1%)を占め、これに「ゴルフ」や「ポロ」で根強い人気のVW、セカンドカーやレンタカーによく見られる「フォーカス」や「フィエスタ」のフォードが続く(表1参照)。

この上位3ブランドがシェアを維持または拡大した一方で、これに続くプジョー、ルノー、シトロエンは0.4〜0.9ポイントとシェアを最も減らした。このシェア低下の一因として新車買い替え購入補助金制度の終了が挙げられる。ルノーとPSAプジョー・シトロエンは、国内では最大の小型車生産メーカーで、09年後半から10年前半の同補助金制度の恩恵を最も強く受けており、今回のシェア低下はその反動減ともいえる。

表1主要自動車ブランドの販売台数・シェア(11年)

市場が収縮する中で最もシェアを拡大したのは、日産(4.9%)と韓国の起亜(2.4%)で、いずれも前年から0.7ポイント増やしている。同じ韓国勢では現代(3.5%)も0.4ポイント増加した。

日産は小型クロスオーバーSUV「キャシュカイ(日本名:デュアリス)」がモデル別で4位の人気車となっており、同社のスペインでの販売台数の6割を占める。上位3位を占めるルノー「メガーヌ」、セアト「イビザ」、シトロエン「C4」よりも価格帯が上にもかかわらず健闘している。日産イベリア(販社)のデ・ラ・グアルディア社長によると、「スペインのユーザーの好みにぴったり対応しており、普通の小型車より少し高くても欲しがる人が多い。値下げ競争の必要もない」という。

小型車の競争が激しい欧州市場で真正面からの競争を避け、同じ小型ながら角度の異なるSUVで勝負する戦略が奏功したとみられている。なお、11年に投入された小型クロスオーバーSUV「ジューク」の出だしも好調で、「マイクラ(日本名:マーチ)」の3倍の売れ行きになっている。

韓国勢も、現代の「ix35」や起亜の「スポーテージ」などの小型SUVが伸びている。現代は、EUとの自由貿易協定(FTA)発効前後からスペイン国内の販売代理店網を買収し、積極的なシェア拡大を図っている。11年11月には、購入後2年以内に子どもが生まれた場合、上位車種と交換するというユニークなキャンペーンで顧客の取り込みを図っている。

<12年は生産・輸出も減少の見通し>
生産台数は欧州各国の需要に牽引され、小幅の減少にとどまった。ANFACの1月25日の発表によると、11年の自動車生産台数は235万3,682台と、前年から1.4%の微減となった(表2参照)。

表2スペイン国内の車種別自動車生産台数(11年)

スペインは世界第8位、欧州ではドイツに次いで2位の自動車生産国。産業用車両だけでみれば、欧州第1位の生産国で、小型車、四輪駆動、産業用車両の生産に特化している。生産車の9割がEUを中心とする約130ヵ国・地域に輸出されており、11年の輸出台数は212万489台と、前年比2.0%増えた。

12年は欧州債務危機の影響で主要輸出先の西欧諸国向けが減少すると予想されることから、生産台数は6.3%減の220万台程度に落ち着くとみられている。既に国内の12社17工場中、12工場が生産調整のための一時帰休を年内に予定している。

他方、ルノーは3月初旬からバリャドリード県の工場でEV「トゥイジー(2人乗りシティーコミューター)」の生産を開始することを明らかにした。生産規模も当初予定どおり年間2万台としており、不況の中でも現地メーカーが本腰を入れることでEVの普及促進に弾みがつくことが期待される。

(注)08年1月から、新車購入時に課せられる自動車登録税が、従来の排気量に応じた税率(7%または12%)から、走行距離1キロ当たりのCO2排出量に応じた税率(0〜14.75%)に変更された。税率は4つ(0、4.75、9.75、14.75%)に分類され、排出量120グラム未満の自動車は税が免除される。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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