互いの強みを融合したウィン・ウィンのビジネスモデル構築を−日台ビジネス・アライアンス・セミナー(2)−

(台湾、日本)

中国北アジア課

2012年02月09日

1月17日に開催された「日台ビジネス・アライアンス・セミナー〜グローバルビジネスにおける新たな連携のかたちを探る〜」では、セイコーエプソンの住田直樹主査が台湾の電子ペーパーディスプレーメーカー元太科技工業とのアライアンスの取り組みについて、首都圏産業活性化協会の岡崎英人事務局長が日台企業のマッチング支援について、それぞれ講演した。連載後編。

<相互の強みを融合、新たな付加価値つくる>

○セイコーエプソン マイクロデバイス事業本部デバイス営業部システムビジネス推進グループ主査・電子ペーパービジネスチームリーダー・住田直樹氏

セイコーエプソンは、台湾の電子ペーパーディスプレー(EPD)メーカー元太科技工業(E Ink)と相互の強みを生かしたアライアンスを展開している。

電子ペーパーは、いったん表示すると無電力でも表示が保持されるなど、低消費電力で環境にやさしく、また周辺光を利用しているため目が疲れにくいという優位性を持ち、最近は電子書籍端末などで需要が拡大している。電子書籍端末メーカーは米国のアマゾンをはじめ世界で20社ほどあり、2,000万〜2,500万台の市場規模がある。

E Inkは、この電子ペーパー材料の開発・モジュールの最大手で、同社のEPDはこれまでにアマゾンの「キンドル」やソニーの「リブリエ」などに採用されている。電子書籍以外にも、電子ペーパーは時計やUSBの残量表示などに使われており、将来はスマートフォンのアクセサリーケースなどへの活用も期待されている。

セイコーエプソンは07年、E InkとEPDコントローラーの共同開発を行うことで合意し、08年には電子ペーパー向けコントローラーICをリリースし、中小から大手まで電子書籍端末メーカー複数社に採用された。

両社のアライアンスは、E Inkの持つEPDの材料と駆動系技術に、エプソンの持つコントローラーを組み合わせることで、アプリケーションプロセッサーの負荷を軽減させながらシステム全体のパフォーマンス効率を上げることができるという、まさにそれぞれの強みを融合することで新たな付加価値を生み出す「ウィン・ウィン」のビジネスモデルだった。

<提携実現へ長期にわたり社内の説得続ける>
このアライアンスが実現するまでには、長い道のりがあった。1998年からボストンで新規ビジネスの開拓に携わり、その中で当時米国のベンチャー企業だったE Inkと出会った。そして、同社の持つ電子ペーパーに将来性を感じ、積極的にE inkとセイコーエプソンに対して両社の協業を働き掛けたが、賛同は得られなかった。

当時のセイコーエプソンは携帯電話向けなどのディスプレー事業が主体で、社内の関係者からは「カラーの時代に『白黒』には魅力が感じられない」という声もあった。しかし、電子ペーパーの将来性を信じ、粘り強くE Inkとの関係構築と社内の説得を続けた。その結果、少しずつ理解者が増え始め、ついに07年に共同開発についての合意が実現した。

その後、09年に台湾の電子ペーパー大手PVIがE Inkを買収した後も、PVIとの協業モデルを模索。11年5月には「高精細電子ペーパーデバイス」の共同開発を発表するなど、引き続き電子ペーパービジネスの拡大に向けて連携を進めている。

また両社は、協業を発展させるため、業界の枠などを超えて幅広い共存共栄を目指す「エコシステム」の形成を進めている。「エコシステム」では、アライアンス相手との関係だけでなく、EPDを量産するモジュールメーカーなどとも連携して商品が売れるための環境づくりを行うことで、より強固なアライアンス関係が構築される。

最後に、アライアンス成功には、a.両社の信頼関係、人と人との感情的なつながりがあること、b.互いの強みを持つ同士で補完関係を構築できること、c.実務レベルからトップレベルまで、共通のゴール(vision)を持つこと、の3点が重要だ。

<台湾企業を介して中国企業の経営スピードに合わせる>

○首都圏産業活性化協会・岡崎英人事務局長

首都圏産業活性化協会(TAMA協会)は、広域多摩地域(埼玉県南西部、東京都多摩地区、神奈川県中央部)での産学官金の連携推進、会員企業を中心とした中小企業の製品開発力強化や販路拡大などに取り組んでいる。

TAMA協会の中国市場開拓支援は、中国企業との連携支援から始まった。10年3月には現地パートナーの上海工商業聯合会の協力を得て、上海事務所を開設。中国企業から量産加工を受注するなど成功案件も生まれた。支援を進める中で、中国企業とのマッチングに成功した日本企業には、中国企業の経営のスピードに対応できるような「意思決定が速く、非常にチャレンジングな企業」という共通点があることが分かってきた。ところが、日本企業は慎重に経営戦略を練った上で方針を決定するところが大半で、中国企業の経営スピードについていくことが難しかった。

そこで浮上したのが台湾を介した中国市場開拓ルートだ。台湾企業との連携が候補に挙がった背景には、a.両岸経済協力枠組み協定(ECFA)が締結されたこと、b.日台企業は補完関係が成立すること、c.台湾当局が日台連携ビジネスを積極的に推進し始めたこと、などがあった。また、台湾には日本人に親しみを感じている人が多いことも、ともにビジネスを進めていく上でプラスの効果をもたらすと考えられた。交流協会が実施したアンケートによると、「最も好きな国・地域」で「日本」という回答が52%でトップになっている。

<日台企業をつなぐ架け橋役に>
TAMA協会はこれまで、台日商務交流協進会や台湾工業技術研究院、台湾区電機電子工業同業公会などと連携して、商談会や展示会をそれぞれ4回実施した。

商談会開催前には、海外企業との商談に不慣れな中小企業に対し、きめ細やかなアドバイスを行っている。たとえば、効率的な商談にするため、事前準備として自社の基本情報・製品概要・アライアンス展開ニーズなどの情報を、連携機関や通訳と共有しておくことを徹底させている。また、プレゼンテーション時にも、単なる企業紹介で終わるのではなく、「どのような技術を持ち、どのようなアライアンスを望んでいるか」について、相手企業にしっかり伝えられるよう指導している。

さらに、商談会後に契約までフォローできる体制の構築が必要だとの認識から、11年4月に台湾事務所を開設、現在、台湾人スタッフ1人が常駐しており、日台企業間をつなぐ役割を果たしている。同事務所は、企業訪問のアポイント、台湾企業との連絡代行、台湾出張時の各種手配のサポートのほか、製品展示コーナーを設け、展示状況や台湾企業からのニーズをフィードバックしている。

企業が実際にアライアンスを検討する際には、過去の事例を参考にしながら、企業自らアライアンスのシナリオを描くことが重要だ。アライアンスのモデルには、難易度の低い順に、台湾からの部材調達→テストマーケティング→日本からの製品・技術の提供→日本からの技術移転→台湾の海外展開ネットワーク活用→アジア国際分業、などがある。

最後に、中小企業の海外展開のポイントとして、a.日本で成功しているビジネスを海外につなぐこと、b.海外展開にはさまざまなリスクが伴うことを認識し、事前にビジネスシナリオを描いておくこと、c.支援機関をうまく活用すること、d.海外展開に優れた中小企業の支援を受けること、e.海外展開では契約に至るまでの「詰め」を欠かさないこと、の5点が肝要だ。

(小林伶)

(台湾・日本)

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