11年第4四半期の成長率、2.8%と緩やかに回復−通年では前年から減速し1.7%−

(米国)

北米課

2012年01月30日

商務省は1月27日、2011年第4四半期(10〜12月)の実質成長率を前期比年率2.8%と発表した。在庫投資の増加が大きく寄与した。11年に入ってからは最大の伸びとなったが、市場予想を下回った。政府支出の拡大が見込めない中、民需の回復に期待がかかる。

<在庫の積み増しなければわずか0.8%>
ブルームバーグは第4四半期の成長率を3.0%と予想しており、報道各社は1月27日付で「予想に届かず」(「ロサンゼルス・タイムズ」紙)、「期待に比べ緩やかな伸び」(FOXニュース)、「経済回復は11年の終わりに緩やかに進んだ」(「ニューヨーク・タイムズ」紙)などと報じた。ダウ工業株30種平均は27日、前日比74.17ドル安の1万2,660ドル46セントとなった。

第4四半期の経済は、民間が主導した(図参照)。民間最終需要(個人消費、民間設備投資、住宅投資の合計)は10年第1四半期以降、経済成長にプラスの寄与をし続けている(第4四半期は1.9ポイントのプラス寄与)。

このうち、GDPの7割を占める個人消費は、第4四半期に前期比年率2.0%増(以下前期比はすべて年率)と前期の1.7%増よりわずかながら回復幅を広げた。個人消費は09年第3四半期以降、寄与度はプラスで経済を支えている。ただし、過去の景気回復局面では、個人消費は各四半期に総じて2ポイント、ときに3〜4ポイント分プラスに寄与していたが、第4四半期は1.5ポイントにとどまった。

米国の実質GDP成長率の推移

在庫投資は1.9ポイントと大幅なプラス寄与となった。ただし、これは第3四半期の在庫減少の反動で、12年第1四半期には再び在庫の積み増しが弱まり、成長率を下押しするとの見方もある。トムソン・ロイターのエコノミスト、デービット・スローン氏は「第4四半期の在庫投資は12年第1四半期のさらなる在庫の積み増しの必要性を減らす。在庫投資を除けば成長率はわずか0.8%で、需要は以前考えられていたよりも弱いかもしれない」と指摘している(ロイター1月27日)。

民間設備投資は1.7%増にとどまった(寄与度はプラス0.2ポイント)。11年第1四半期から2.1%増→10.3%増→15.7%増と回復してきたが、勢いに陰りがでた。「欧州債務危機が悪影響をもたらし始めた兆候」(同)とみられている。

一方、成長の足を引っ張ったのは政府支出だった。連邦と州・地方政府支出の合計は4.7%減(寄与度はマイナス0.9ポイント)で、10年第4四半期以降、5四半期連続で前期比減が続いている。政府支出の4.7%減は、94年第1四半期の5.0%減に次ぐ減少幅だ(注)。連邦政府支出は7.3%減となり、このうち特に国防支出は12.5%と大幅に減少した。一方、州・地方政府支出は2.6%減だった。PNCファイナンシャル・サービスの上級エコノミストのガス・フォーチャー氏は「政府部門は12年も引き続き成長のマイナス要因になるだろう」と述べている(同)。

全体への寄与(プラス0.2ポイント)は小さいものの、住宅投資は10.9%増と大幅に拡大し、3四半期連続での前期比増となった。前期比で2ケタ増の増加は、10年第2四半期の22.8%増(同四半期の成長率は3.8%)以来。

<政府支出の減少が足かせに>
11年通年の成長率は1.7%と、前年の3.0%から減速、2%半ばとされる潜在成長率に届かなかった。項目ごとのプラス・マイナスの寄与は以下のとおり。民需の勢いが十分ではない上、政府支出のマイナス寄与が響いた。

○成長を牽引した項目(プラスの寄与度)
(1)個人消費:1.54ポイント(前年1.44。年末に景気後退入りした07年の1.6に次ぐ寄与)
(2)住宅を除く民間設備投資:0.82ポイント(前年0.42。06年0.86に次ぐ寄与)
(3)純輸出:0.05ポイント(前年マイナス0.51。オバマ政権が推進する輸出倍増計画は順調に進展)

○成長の足かせとなった項目(マイナスの寄与度)
(1)政府支出:マイナス0.45ポイント(前年0.14。クリントン政権が財政再建を進めた93年以来のマイナス寄与)
(2)在庫投資:マイナス0.2ポイント(前年1.64。10年の在庫の積み増しは1947年以降で4番目に大きな寄与で、その反動と考えられる)
(3)住宅投資:マイナス0.03ポイント〔前年マイナス0.11。05年(0.36)を最後に毎年マイナス寄与が続くが、11年は最も小幅にとどまった〕

政府支出の伸びは今後も期待できない。累積債務は15兆ドルを超え、09年度(08年10月〜09年9月)以降、1兆ドルを超える財政赤字が続く中、財政の健全化は喫緊の課題になっている。共和党は、オバマ政権が大きな政府を志向する政権だと批判しており、大統領選挙で再選を目指すオバマ大統領は、政府支出の節約に向けた対策を早急に打ち出す必要に迫られている。

オバマ大統領は既に、裁量的経費の伸びの停止、イラク戦争の終結による戦費の抑制を進め、1月25日の一般教書演説で政府機関の整理統合による節約などを打ち出している(2012年1月26日記事参照)。さらにパネッタ国防長官は26日、米軍の10万人削減による5年で2,600億ドルの予算圧縮案を発表した。選挙の年だから大型の財政出動に期待できないということではなく、長い目でみても、政府支出には期待できないとみられる。

米国経済は金融危機後、09年2月に成立した米国再生・再投資法の下で手当てされた政府支出と、徐々に回復する中で活力を得てきた民間支出の双発エンジンで、緩やかに回復をしてきた。ただし、景気刺激策の効果が剥落し、10年第4四半期以降、政府支出は経済成長にマイナスに寄与し続けている。とりわけ州・地方政府の成長への寄与は、オバマ大統領が就任した09年以降、3年連続でマイナスとなっている。財政逼迫の折、今後も政府支出に期待することは難しく、力強さに欠ける民需に頼り続けなければならないのが現状だ。ただし、民需の柱である個人消費を支える雇用情勢は依然、厳しい。失業率は09年10月に記録した10.1%から緩やかに減少しているものの、11年12月時点で8.5%と依然高止まりしている。

<FRBは12年の成長率を2.2〜2.7%と予測>
連邦準備制度理事会(FRB)は1月25日、連邦公開市場委員会(FOMC)の声明で、少なくとも14年末まで政策金利を現行の0〜0.25%に据え置く方針を発表した。声明では金融政策の前提となる景気の状況について、a.経済指標には全般的な労働市場にさらなる改善がみられるものの、失業率は高止まり、b.家計支出は増え続けている、c.企業の設備投資の勢いは鈍化、d.住宅市場は低迷したまま、e.インフレは最近数ヵ月抑制され、長期的なインフレ見通しも安定している――とまだら模様の分析を示した。14年末まで低金利で経済を下支えする意思を示していることはつまり、経済回復を全治3年と見立てているということだ。

好調な企業部門での投資の拡大が雇用の拡大につながり、GDPの7割を構成する個人消費の拡大にもつながるのかが、引き続き注目される。FRBは1月25日、12年の成長率は2.2〜2.7%になるとの予測を発表し、11年11月時点の予測2.5〜2.9%を下方修正した。

(注)94年第1四半期の政府支出の大幅な減少は、個人消費が前期比4.5%、民間設備投資が18.4%と経済が拡大している中で、クリントン政権が財政再建を進めた結果だった。民需が力強さに欠ける中、政策的支援が続かず政府支出が大幅に減少した今回とは状況が異なる。

(桜内政大)

(米国)

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