日本の医療機器の薬事登録を円滑化−日墨EPAビジネス環境整備活動の具体的成果−

(メキシコ)

メキシコ発

2012年01月26日

保健省は1月25日、医療機器について日本とメキシコの薬事登録制度の同等性を認める省令を官報公示した。発効は2月24日。これにより、日本で薬事法に基づき認可を得た医療機器については、メキシコでの薬事登録手続きの際に求められる提出書類が削減され、審査期間が短縮される。この同等性認定は米国、カナダに次ぐもので、日本の優れた最新医療機器導入の円滑化が期待される。

<米国とカナダに次ぐ同等性認定>
カルデロン政権は規制緩和を政権の重点政策と位置付けており、医療機器の販売規制もその対象になっている。政府は2010年9月3日付官報公示保健省令(2010年9月15日記事参照)で保健省が外国の医療機器の薬事登録制度をメキシコの制度と同等と認定するための基準を定め、同年10月26日付官報で公示された保健省令で、まず米国とカナダとの同等性を認定し、両国で認可された医療機器の薬事登録手続きを簡素化している(2010年11月10日記事参照)

今回公示された保健省令は、日本の厚生労働省が所管する医療機器の薬事登録制度をメキシコの「衛生登録(Registro Sanitario)」と呼ばれる薬事登録制度と同等なものと認定する内容で、日本で認可を得た医療機器については登録手続きを簡素化する。

<通常必要な提出書類は膨大>
本省令の対象になるのは、日本の医療機器のうち、「管理医療機器」(クラスII)、「高度管理医療機器」(クラスIII、IV)に分類される医療機器。「一般医療機器」(クラスI)に分類される機器は日本では届け出制で、当局の技術的な審査がないため、今回の同等性認定の対象からは除外される。

通常、連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)に対する医療機器の薬事登録に際しては、申請フォーマットに記載する情報のほかに、以下の書類の提出が求められる。

(1)製品の安全性・有効性を示す科学的・技術的データ
(2)製品表示案(スペイン語)
(3)取扱説明書、マニュアル(スペイン語)
(4)製造プロセスを説明する資料
(5)製品の構造、原材料、部品や機能を説明する資料
(6)製品仕様・性能を証明する外部機関検査証明書
(7)参考文献(存在する場合)
(8)メキシコ公式規格(NOM)が存在する特定品目についてはNOMが要求する資料
(9)製品原産国の当局が発行する「販売証明書(Certificate of Free Sale)」、または同等の証明書
(10)当該製品の輸入販売者がメキシコで外国の製造者を代表することを、製品原産国の法的手続きに基づいて公認した書状。メキシコの輸入業者が外国製造者の子会社の場合、輸入業者の在外工場で製造された製品を輸入する場合は必要ない。
(11)品質管理基準(GMP/QMS)証明書
(12)製品製造者により発行された製品試験成績書のコピー(会社のレターヘッドを使い、品質管理責任者のサインが入っていなければならない)
(13)保健関連製品を取扱う事業所(輸入販売者)としての営業通知のコピー
(14)衛生管理(薬事管理)責任者の登録書コピー

<必要提出書類を簡素化>
COFEPRISは今回公示された保健省令の第3条に基づき、日本で認可された機器について、以下の書類だけを要求すると定めている。なお、日本ではクラスIIの管理医療機器のうち、認証基準が設定された機器については製造販売「認証」制度を導入している。クラスIIの管理医療機器のうち認証基準が設定されていない機器とクラスIIIおよびIVの高度管理医療機器については、製造販売「承認」制度の対象になる。「認証」制度の対象か、「承認」制度の対象かの違いにより必要書類の(3)が異なるが、そのほかは同じである。

(1)09年6月19日付官報で公示された申請フォーマット(必要事項を記入し、連邦行政手数料の支払い証明書を添付する必要がある)
(2)保健関連製品を取り扱う事業所(輸入販売者)としての営業通知(または最新の改定)
(3)登録認証機関が発行した認証書(「認証」対象機器の場合)、または厚生労働省が発行した承認書(「承認」対象機器の場合)(ただし、認証書や承認書だけでなく、申請の際に提出した申請書の中から以下の情報が分かる書類を合わせて提出する必要がある)
a.製品名称、b.使用目的、c.原材料および部品構成(該当する場合)、d.安定性(該当する場合)、e.滅菌時間(該当する場合)、f.包装(一次、二次)に関する情報(該当する場合)
(4)輸出用医療機器製造届書(上記のa〜fの項目とメキシコで販売される製品コードがアクセサリーなどのコードも含め、明記されていなければならない)
(5)販売証明書(原本、日本で当該製品が製造販売承認・認証されていることを示す厚生労働省発行の証明書、製品名称と製品コードの記載が必須)
(6)当該製品の輸入販売者がメキシコで外国の製造者を代表することを、製品原産国の法的手続きに基づいて公認した書状(原本、メキシコの輸入業者が外国製造者の子会社の場合、輸入業者の在外工場の製品を輸入する場合は必要ない)
(7)メキシコ市場で販売するための商品ラベル・表示案
(8)メキシコ市場で販売するための取扱説明書、マニュアル

上記必要書類のうちスペイン語以外の言語で書かれたすべての文書は、公認翻訳者によりスペイン語に翻訳される必要があり、公文書についてはアポスティーユ認証(注)が必要になる。

なお、衛生(薬事)登録の5年ごとの「更新」手続きを今回の省令に基づき行う場合は、原則として新規登録の際の提出資料〔上記(1)〜(8)〕に加え、a.現行の衛生登録証のコピー、b.市販後安全性監視報告書、c.メキシコに住所がある申請企業の法的代表者の身分証明書、の3つを提出する必要がある(省令第4条)。更新は現行衛生登録の有効期限が切れる45日前までに申請する必要がある(第5条)。

省令第8条は、放射線を利用する機器(国家原子力安全保護委員会が発効する許可証が必要)や診断用キット、コンドームなどの特殊品を除き、省令第3条が規定する必要書類以外の書類をCOFEPRISは一切求めないと定めている。前述の本制度に基づく登録必要提出書類は、通常の衛生(薬事)登録申請時に要求される書類やデータよりも大幅に簡素化されており、企業の負担が大きく軽減される。

省令の対象機器は日本で薬事法に基づき日本で認可された機器で、原産国は問わない(省令第8条1項)。従って、日本以外の国で製造された医療機器でも日本で認可された機器であれば対象になる。

<審査期間は30営業日に>
法定審査期間については省令第9条に基づき、リスク分類にかかわらず30営業日と規定されている。通常の医療機器の衛生(薬事)登録手続きにおける法定審査期間は、「保健関連製品素材に関する規則」の第179条に基づき、医療機器のリスク分類に応じて異なっており、リスク分類がIの医療機器の審査期間は30営業日、IIは35営業日、IIIは60営業日となっているが、実際には1年以上の審査期間がかかっている。

一方、米国・カナダとの同等性認定に基づく制度では、リスクIIIの医療機器でも2ヵ月以内で審査が終わるなど審査機関の短縮効果が実際にみられており、同等性認定制度を活用した日本製医療機器の大幅な審査期間の短縮が期待される。

法定審査期間は申請者から不備のない完全な書類が提出された日の翌日からカウントされ、書類に不備があった場合は、不足する情報が行政的な情報(企業の住所や薬事責任者の情報など)の場合には10営業日以内、技術的な情報の場合には20営業日以内にCOFEPRISから申請者に不備があった旨を通知することになる(第9条2項)。書類に不備があった場合は、書類不備の通知日から申請者が新たな追加情報をそろえて提出するまでの日数が、法定審査期間のカウントから除かれることになる(第10条)。

なお、医療機器のメキシコでの薬事登録に際し、本省令が定める簡素化された手続きに基づいて行うか、または従来の「保健関連製品素材に関する規則」第179〜180条が定める通常の手続きに基づいて行うかは申請者の選択であり、義務ではない。本省令の発効日前にCOFEPRISに対し、既に提出されていた医療機器の衛生(薬事)登録(更新・変更)申請は、(申請自体を取り下げない限り)従来の手続きに基づいて行われる。

<1年を超える日本側の働き掛けが奏功>
保健省による日本の薬事登録制度の同等性認定は、日本・メキシコ経済連携協定(日墨EPA)に基づくビジネス環境整備活動の大きな成果だ。メキシコ日本商工会議所・知財基準認証委員会は09年以降、在メキシコ日本大使館と協力し、日墨EPAのビジネス環境整備の枠組みを活用し、医療機器や農薬などの登録手続きの簡素化をメキシコ政府に対して求めてきた。

10年10月に米国、カナダの薬事登録制度に対する同等性認定が行われたのを受け、同委員会はCOFEPRISの担当官との会合を重ね、米国やカナダの制度と同様に、日本の薬事法に基づく医療機器の薬事登録制度をメキシコと同等なものとして認定するよう求めてきた。

COFEPRISは同等性認定に先立ち、同等性を判断するための情報の提供と説明を日本側に対して要請したが、情報提供とCOFEPRIS担当官への内容説明に際しては、日本の厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)や在メキシコ日本大使館に加え、メキシコで医療機器を販売する日本企業も日本本社の実務担当者をメキシコに派遣して説明を行うなど積極的に関与し、COFEPRIS担当官・責任者の日本の薬事制度に対する理解促進に大きく貢献した。

1月24日に行われた省令署名式典に参加したサロモン・チェルトリブスキ保健相は、日本から最新医療機器をメキシコ市場に輸入しようと思っても、今までは約2年のCOFEPRISによる技術審査期間が必要だったが、今後は(日本の)高度な医療機器を速やかに導入できるようになる、と同等性認定の効果を強調した。

COFEPRISのミケル・アリオラ委員長は、医療機器薬事登録制度の同等性認定はカルデロン政権が積極的に進めている規制緩和措置の一環であることに触れ、米国、カナダの医療機器薬事登録制度の同等性認定により、両国で登録された医療機器の審査期間が約3分の1に短縮した、と効果を紹介している。現在、米国・カナダとの同等性認定に基づく医療機器の衛生(薬事)登録申請は、医療機器に関する全体の申請数の25%に達しており、日本との同等性認定によりこの割合はさらに高まるだろうとしている。

目賀田周一郎大使は、今回の同等性認定が実現したのは、今までの長い友好関係で築き上げられた日墨間の相互信頼があったからだ、と両国の良好な関係を強調した。メキシコ日本商工会議所知財・基準認証委員会の委員長を務めるテルモ・メディカル・デ・メキシコの藤田社長は、「優れた医療は優れた医師と優れた医療機器によりもたらされる。その点で、今回の同等性認定はメキシコの医療技術の発展にとって大きな意味を持つ」と語った。

日本の医療機器薬事登録制度の同等性認定は、両国政府と日本企業の官民一体となった活動が結実したといえ、日本の医療機器の今後の対メキシコビジネスの拡大に向け追い風になることが期待できる。

なお、医療機器の薬事登録制度の同等性認定は、メキシコ政府による相手国の制度に対する一方的な認定で、日本政府がメキシコの衛生(薬事)登録制度の同等性を相互に認定する義務はない。

(注)「外国公文書の認証を不要とする条約」に基づく証明書。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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