財務省短期証券の入札順調−国債格下げの市場への影響は限定的−

＜格下げは市場の現状を追認しただけ＞
政府は1月16日、総額86億ユーロ分の財務省短期証券の入札を実施した。S＆Pが1月13日にフランスの長期信用格付けを最高のトリプルAからAA＋に1段階引き下げてから初めての資金調達で、需要の動向が注目された。その結果、落札利回りは1年物が0.406％、6ヵ月物が0.281％、3ヵ月物が0.165％と、前回1月9日の入札から0.2〜1.8ポイント下げた。

S＆Pのエコノミストによると、フランス国債は格下げ前から既にBBB格付けの国債として取引されており、今回の格下げは市場の現状を追認したにすぎないという。トリプルAを維持しているドイツ国債との利回り格差（スプレッド）は、欧州債務危機が深刻化した2011年第4四半期以降120ポイントを超えた。S＆Pは11年12月にフランス国債の2段階格下げを予測していた。

今回、1段階の格下げにとどまったことで、市場には「どちらかというとグッドニュース」と受け取る向きもある。欧州系格付け会社フィッチは1月10日、12年中にフランスの長期信用を格下げしないとの見解を発表。米ムーディーズが1月16日、フランス国債のトリプルAを維持したことも好感しているようだ。

格下げの影響は短期的には大きくないとの見方が大勢だが、中長期的に資金調達コストの上昇は避けられない見通しだ。フィリップ・ミル・フランス国債庁（AFT）長官は11年11月、格下げの影響について「国債がトリプルAからAA＋に格下げになれば、利率は120〜150ポイント上昇する。年間およそ25億〜30億ユーロの追加利払いが派生する」と述べていた。

1月16日のフランス国債10年物の利回りは3.1％と13日から90ポイント上昇した。AFTは1月19日に中長期債の入札を実施する。

＜さらに格下げの可能性も＞
S＆Pはフランス国債の格付けの見通しについて、「12年または13年にさらなる格下げの可能性が、少なくとも3分の1の確率で存在する」と評価、見通しを「ネガティブ」とした。12年と13年の実質GDP成長率が政府見通し（12年1.0％、13年2.0％）を下回ることになれば、これまでの財政赤字削減策では13年までに財政赤字をGDP比3.0％に抑制するという目標達成には不十分との見方だ。

政府は11年8月と11月に財政赤字削減策を発表したが、バロワン経済・財務・産業相は12年1月13日、「フランスの経済政策を決めるのは格付け会社ではない」として、さらなる緊縮財政の実施を否定した。フィヨン首相も1月15日、12年予算法には60億ユーロの予備費を計上しているため、たとえGDP成長率が実質で0.5％に減速しても、追加の削減措置なしに財政赤字の目標を達成できると語った。

しかし、市場関係者の間では、格下げの動きに歯止めをかけるには公務員給与や年金受給額の引き下げを含む抜本的な改革が必要だ、との声もささやかれ始めている。ただ、大統領選挙を4〜5月に控えており、こうした抜本的な財政赤字削減策の実施は政治的には難しい状況だ。

＜サルコジ大統領の支持率が低下＞
フランス国債のトリプルA格を「国の宝」ととらえ、最高格の格付け維持に最善を尽くすと公約していたサルコジ大統領にとって、S＆Pによる今回の格下げは大きな痛手になっている。最大野党「社会党」の公認候補オランド氏は国債格下げについて「フランスが格下げになったのではない。サルコジ大統領が格下げされたのだ」と批判。格下げを「サルコジ大統領の政策失敗を象徴したもの」としたほか、極右「国民戦線（FN）」のマリーヌ・ルペン党首も「国を守護する大統領という神話の終わり」と大統領非難を強めた。

格下げ直後、1月13〜14日に実施されたアンケート調査（LH2−Yahoo！）によると、オランド氏の支持率が30％でトップを確保。サルコジ大統領は前月の調査から2.5ポイント落ちて23.5％になった。これに対し、ルペン氏は3.5ポイント上昇し17％と躍進。ユーロからの離脱、保護主義による国内産業振興など鎖国的な政策を掲げるルペン氏にとって、長期信用格下げが追い風になっている。

（山崎あき）

（フランス）