ようやく輸入関税免税措置を告示−洪水被害救済策−

(タイ)

バンコク発

2012年01月13日

財務省は洪水の被害を受けた事業者の救済を目的に、機械の置き替えや修理のための機械部品や工具、完成自動車、自動車部品などについて輸入関税を免税するとの告示を出した。これら措置の利用には、工業省の許可取得などが条件になっている。ところが、工業省の関連通達策定作業が終わっておらず、依然として関税が課されている状況だ。タイを訪問していた枝野幸男経済産業相は、ジェトロが1月11日に開催したセミナーで本件について、インラック首相らとの会談で「強い調子で早期実施を要請した」と語った。

<輸入関税免税措置は一歩前進>
財務省は1月5日、洪水の影響を受けた事業者の救済を目的に、(1)機械の置き替えや修理のための機械部品・構成品および工具、(2)完成自動車、(3)自動車生産や組み立てに使われる物品・部品・構成品、について輸入関税を免税するとの告示(PDF、タイ語)を出した。2011年11月29日の閣議決定がようやく告示化されたものだ。既に12月8日には冠水した7つの工業団地すべてで排水作業が終了、目下、復旧作業が本格化している中、関連する告示が出ていなかったために、実際に輸入通関の現場では関税支払いを余儀なくされている。

同告示で輸入関税免税対象となっている物品は、下記の3つに分けられている。中には、閣議決定時点と比べ条件が異なっている箇所もあり、注意が必要だ。

(1)機械装置置き替えや修理のために持ち込む機械・部品
財務省は、対象品目はHSコードに関係なく適用されるとしているものの、以下の4つの条件を付している。

[条件]
○適用対象になる事業者は、内務省災害防止軽減局長または県知事のいずれかが「洪水被災地区」に指定している場所に工場があり、かつ工業省に(被災企業として)認定されていること。
○事業者はそれら物品を自身または代理人によって輸入することができる。輸入者が代理人の場合、代理人は税関に対し輸入時に証明書を提示すること。
○輸入される機械や部品および工具を含めた構成品は新品でなければならない。
○工業省または同省が指定する機関はこれら機械輸入の認可権限を持つ。輸入者は輸入時に許可書を提示すること。

(2)完成自動車
完成自動車の輸入関税免除は、排気量3000cc未満の乗用車(HS8703)とピックアップトラック(HS8704)が対象になっている。告示ではさまざまな条件を付しており、事実上、アユタヤ県のロジャナ工業団地で被災したホンダを救済するために策定された措置だ。ホンダは工業団地堤防決壊前に、可能な限り完成車在庫を洪水の懸念がない場所に移送したものの、「シティ」やエコカー「ブリオ」などの小型車を中心に、移送が間に合わなかった1,055台が水没した。11年12月27日には、それらのスクラップ作業を開始している。

[条件]
○適用対象になる事業者は、完全に統合された自動車生産を行う工場を持っている自動車メーカーで、少なくとも車体製造や車体塗装から組み立てまでを行っていること。さらに、内務省災害防止軽減局長または県知事のいずれかが「洪水被災地区」に指定している場所に工場があり、かつ工業省に認定されていること。中古部品を使った自動車組み立て事業者や中古車輸入は適用対象外。
○対象になる自動車は新車で、洪水で被災した工場で生産されていた車種と同一または類似していること。また、それら車種はタイ国内のほかの工場で製造したことがないこと。また、事業者は工業省工業経済局による基準や条件などに従うこと。
○物品の輸入は、適用対象事業者に限られる。
○工業省工業経済局が輸入認可の付与および許可証の発行権限を持つ。輸入者は輸入時に認可証書を提示する。

(3)自動車生産や組み立てに使われる物品・部品・構成品
HS87類の自動車の生産や組み立てに使われる物品、部品、構成品については、HSコードに関係なく、また形状が完成品かどうかを問わず輸入関税を免除するとしている。

[条件]
○適用対象になる事業者は、内務省災害防止軽減局長または県知事のいずれかが「洪水被災地区」に指定している場所に工場がある部品製造企業。
○適用対象事業者は、それら物品を自身で輸入できるだけでなく、国内の自動車組み立て企業や自動車組み立てに使われる部品製造企業への権利移管ができる。権利移管については、輸入時に税関に対して通知することが求められる。この措置は、中古部品を使う事業者は適用対象外。
○対象になる自動車部品は新品で、被災した対象事業者の工場で生産されていた部品と同じタイプのもの。かつ完成車組み立てのため、またはさらに自動車組み立てのための自動車部品製造に使われるもの。
○対象になる自動車部品は工業省産業経済局が認可する。輸入通関時に許可証を提示すること。

<枝野経済産業相がインラック首相に早期実施を直談判>
今回の通達により、税関ではこれらの条件を満たした物品に対して輸入関税を免除できる環境が整った。しかし問題は、これら措置を利用するに際して、全項目で工業省の許可証や認可が必要になることだ。工業省内ではそれら許可証の発給などに関する通達の策定作業を行っている。そのため今のところ、工業省から許可証などが入手できない状況で、税関でもこれまでと同様、関税が課されている。

日系企業の間では、これらの措置が復旧真っただ中のこの時期に利用できないことに対し不満が募っている。それに対し、洪水後に日本の閣僚として初めてタイを訪問した枝野経済産業相は、1月11日にジェトロが開催した「法務・労務・税務・会計セミナー」で、直接的または間接的に洪水の被害を被った日系企業192人の参加者を前に、早期復旧に向け被災企業が懸命に取り組んでいる中、これら措置が現場で依然として使えないことに言及、インラック首相との会談や経済・工業・生活面に関する洪水復旧復興委員会の委員長も務めるキティラット副首相兼商務相との会談の場で、「強い調子で早期実施を要請した」ことを紹介した。

また、本措置は11年10月25日にさかのぼって適用され、12年6月30日まで有効だ。ジェトロが税関局に確認したところ、既に関税を支払って輸入してしまった場合の還付については、現在、税関局が還付に関するガイドラインを作成しており、その通達を待つ必要があるという。今後、輸入者は本措置に該当する物品の輸入について、いったんは関税を支払わねばならないものの、税関に対し念のため「関税還付の権利を留保する」ことを申し出ることが望ましい。

ジェトロセミナーに駆け付け、タイ政府との会談結果を報告した枝野経済産業省

(助川成也、シリンポーン・パックピンペット)

(タイ)

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