家庭料理への浸透に力点を−宮城県産食材の魅力紹介−
サンフランシスコ発
2012年01月05日
震災に襲われた宮城県を「食」を通じて支援する復興イベントが2011年11月17日、サンフランシスコのレストラン「Yoshi’s」で行われ、事前に同県を訪れた3人のシェフが、食の安全性確保に取り組む現場の印象や宮城産食材の魅力などを紹介した。来場者たちは、3人が披露した米国でのメニューに強い関心を示していた。日本産食材の普及には、家庭料理への浸透という視点も今後のポイントになりそうだ。
<被災地訪問の経験生かし創作料理を提案>
イベントは「東北スピリット――おいしくてヘルシーな宮城」と題され、宮城県、在サンフランシスコ日本総領事館、ジェトロが共催した。流通業者、ジャーナリスト、レストランオーナー、シェフ、料理学校関係者ら約100人が集まった。冒頭、宮城県の河端章好・経済商工観光部長が復興支援に感謝するとともに、「宮城県には素晴らしい自然と、おいしい食べ物が豊富にある。ぜひ来てほしい」とあいさつした。
試食会では、日本料理「Yoshi’s」のエグゼクティブ・シェフで宮城県出身の神尾正太郎氏、イタリア料理店「Perbacco」オーナーシェフのスタファン・テリエ氏、カリフォルニア料理店「Boulevard」の元シェフでコンサルティング・シェフのラビ・カプール氏が、宮城産の食材を使った料理を披露した。
3人のシェフは、11年10月30日〜11月2日にジェトロの招きで宮城県を訪れ、安全性の確保に取り組む現場や被災地企業の生産現場を見学した。神尾氏はイクラとサケを使った「はらこ飯」などの郷土料理を、テリエ氏は仙台みそとバターを使った牛タンのラビオリを、カプール氏は仙台みそで味付けした鴨肉のソーセージなどの創作料理を披露し、同県産品の米国でのメニュー例を提案した。また、サンフランシスコにある日本酒専門販売店「True Sake」のオーナーで酒ソムリエのボー・ティムケン氏による、宮城県産の日本酒3種類の試飲会も行われた。
<日本食以外への活用に期待>
トークセッションでは、シェフ3人が震災後の宮城県訪問を振り返った。神尾氏は同県の食材について、「家族経営で少量生産が多いので、細かい部分まで目の届いた繊細な食材が多い」と説明し、「味に質の高さが出ている」と評した。テリエ氏も「品質の高さに感心」と語るとともに、米国での展開については「手間と時間をかけた質の高い食材があることを消費者に知ってもらいたい。日本食以外の料理でも利用できることを知ってもらうことも必要だ」と述べ、幅広いジャンルの料理で活用できる可能性があると強調した。
またカプール氏は「宮城県は震災が起きる前も、質の高い食材を生産することに細心の注意を払っていた」と、食に対する意識の高さが品質の高さにもつながっているとの見方を示した。
一方で神尾氏は、「日本産食材の使い方を多くのシェフに知ってもらうことが必要だ」と述べるとともに、「日本から輸入される食材は全般的に高価。消費者が気軽に買える範囲内の価格設定が実現できないか」と、今後の普及に向けた課題も指摘した。
<毎日の食事に手軽に使えるとアピールしよう>
来場者からは、日本産食材の一層の普及のためには、レストランだけでなく「家庭への浸透」がカギになるとの声が多く聞かれた。レストラン、料理分野のフリーライターは、試食したメニューについて「宮城県とローカルの食材の見事なコラボレーション」と評価する一方で、「日本の食材がレストランだけでなく、毎日の家庭料理に簡単に取り入れられることを、こうしたイベントで消費者にアピールできればいい。食に関心のある米国人なら食材だけでなく、日本の料理の技術にも関心を持つだろう」と述べた。
サステナブル(持続可能な)をコンセプトに、食分野でのブランド化支援を行っているコンサルタントは、日本産の食材について「米国の毎日の食事に使えるものがたくさんある。消費者に日本食以外でも幅広く利用できることを伝えることが大事だ。米国の主婦には、日本の食材は謎めいたものだと思っている人もまだいる。簡単に使えることが分かれば、家庭料理にも利用してもらえるはず」と、消費者向けPRに一層力を入れる必要がある、と指摘した。
日本の食材は日本食レストラン以外でも、カリフォルニア料理をはじめ、さまざまな料理のレストランで使われている。レストランだけではなく、一般の消費者への働き掛けを通じて、慣れ親しんでもらい、家庭でも気軽に食べてもらうことが、米国市場に宮城県産を含めた日本食材を深く根付かせることにつながるだろう。
(大和田貴子、斉藤学)
(米国)
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