内需の牽引力弱まり急速な景気減速も−2012年の経済見通し−

(フランス)

パリ発

2012年01月06日

2012年の実質GDP成長率は1.0%に届かない見通しだ。欧州債務危機の影響でユーロ圏経済への不安が増大、企業設備投資など内需の牽引力が弱まる。緊縮財政の強化により、景気後退の可能性を指摘する声もある。12年は4〜6月にかけて大統領選挙、国民議会選挙が実施される。最大野党「社会党」が政権を握れば、年金制度などの改革路線が頓挫し、労働者寄りの政策への転換が予想される。

<企業の投資意欲減退、リストラも>
12年は内需の牽引力が弱まり、急激な景気減速が予想される。11年後半は欧州債務危機に直面したユーロ圏経済への不安が増大、株価下落などを受け、企業の投資意欲が減退した。12年初頭もこの動きが続くとみられる。自動車のPSAプジョー・シトロエン(6,000人)、大手銀行BNPバリバ(1,400人)などリストラを打ち出す企業も出ており、雇用情勢の悪化で個人消費の冷え込みも懸念される。既に、景気の調整弁となる派遣での就労者数は、11年第3四半期に前期からほぼ2万人縮小。リーマン・ショック後、回復に転じた09年第2四半期以降、初めての縮小となった。

国内大手銀行は、南欧ソブリン債へのエクスポージャーが欧州の中でも大きく、ギリシャ国債にかかわる特別損失の計上などから、11年第3四半期に業績が悪化した。12年は自己資本比率引き上げに向け、大幅な資産圧縮を余儀なくされる。これが貸し渋りにつながれば、内需鈍化が加速することで景気はさらに下振れすることになる。

政府は12年の実質GDP成長率を1.0%と予測しているが(2011年11月11日記事参照)、欧州委員会が11月に発表した秋季経済予測(2011年11月11日記事参照)では0.6%、OECDの経済予測では0.3%と政府見通しを大きく下回る。OECDは11月、フランスの景気後退リスクについて「12年の景気後退の可能性は、フランスと欧州の緊縮財政の加速に伴い日増しに強くなる」と予測した。

<12年は増税実施>
欧州債務危機の広がりを受け、政府は11年8月と11月に合わせて180億ユーロの財政赤字削減措置を発表した。12年は公務員削減を柱とする歳出抑制のほか、大企業向けの法人税増税、高額所得者層への特別税の課税、付加価値税引き上げなどを実施する。

具体的には、年間売り上げが2億5,000万ユーロを超える大企業に対し、法人税率33.33%に5ポイント上乗せ課税するほか、高額所得者には課税所得が50万ユーロを超える所得分に3%の特別税を課す。また外食サービスや既存住宅の改築工事費用など、付加価値税の軽減税率が適用されている一部の商品・サービスについて、税率を現行の5.5%から7.0%に引き上げる。

政府は12年の財政赤字をGDP比4.5%に設定。11年の5.7%から大幅に引き下げる方針だ。しかし、12年の景気減速が強まることで、財政赤字の目標達成にはもう一段の削減措置が必要との見方が大勢だ。バロワン経済・財務・産業相は実質GDP成長率が0.5%に減速しても、予備費の60億ユーロを充てることで目標達成は可能としているが、欧州委は、第3の追加措置がなければ12年の財政赤字は5%を超えると予測した。

<政権交代なら政策転換の可能性>
12年初頭から大統領選に向けた動きが強まる(第1回投票4月22日、決選投票5月6日)。現職のサルコジ大統領は再選を目指し立候補する公算が大きい。ただし、サルコジ氏の支持率は景気減速、構造改革の成果の遅れなどから低迷が続く。

最大野党の社会党は11年10月の党内選挙で、オランド前書記長を候補者に選出した(2011年10月20日記事参照)。11月のアンケート調査(調査会社Ipsos)では、回答者の6割が大統領選でサルコジ氏は敗北すると予測。調査会社TNS−Sofresの世論調査(11月)でも、大統領選の決選投票でオランド氏が60%の票を獲得し、サルコジ氏(40%)を破り大統領に選出されるという結果が出ている。

オランド氏は財政赤字削減に向け、12〜13年に50億ユーロの財政赤字削減策を実施する方針を示している。一方で、公立教育分野で6万人の雇用創出、25年までに原子力発電所施設の半減、残業手当にかかわる免税措置の撤廃、法定退職年齢の60歳への引き下げなどを提案しており、今後、財源の明確化が求められる。

大統領選に続き、12年6月には国民議会選挙が実施される。国民議会で環境派と連立を組む社会党が過半数を獲得すれば、これまで保守・中道が進めてきた規制緩和・構造改革路線から、保護色の強い政策に転換するとみられる。社会党は4月に公表した12年の政策プロジェクトの中で、収益を株主配当に充てる企業に対する法人税の引き上げ、収益を上げながら従業員数の削減を打ち出す企業への負担拡大など、産業界にとっては足かせともなる経済政策を打ち出している。

主要経済指標

(山崎あき)

(フランス)

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