内需減退が鮮明に−企業はアフリカ市場に活路求める−

(ポルトガル)

マドリード発

2011年12月21日

債務危機により内需の減退が鮮明になっている。エネルギーなど内需関連企業の業績は軒並み不調で、金融機関の収益も圧迫されている。銀行を含む多くの企業がアンゴラ、モザンビークなどアフリカの旧植民地での事業強化に乗り出し、国民がかつての植民地に職を求める「逆移民」の動きも活発だ。公務員を中心にボーナス削減の動きが進む中、厳しいクリスマス商戦を迎えており、内需低迷は進出日系企業の業績にも暗い影を落としている。

<収益安定にアフリカ事業は不可欠>
国立統計局(INE)は12月9日、2011年第3四半期の実質GDP成長率が前年同期比でマイナス1.7%だったと発表した。同期の純輸出は3.3%の増加で、債務危機に揺れる国内需要(5.0%減)の減退が景気全体の足を引っ張っている状況が鮮明になった。

国内銀行最大手のバンコ・エスピリト・サント(BES)は10月27日、11年1〜9月の最終利益が1億3,780万ユーロ(前年同期は4億540万ユーロ)と約66%の減益になることを明らかにした。銀行収入自体は17億4,960万ユーロから17億9,710万ユーロへ約3%増加し、国内の店舗網を縮小するなど経営合理化も進めているが、貸倒引当金計上の負担が利益を圧迫している。

同行は収益性の高い国外事業の中でも、「戦略トライアングル」と呼ぶアフリカ・ブラジル・スペインの3地域での事業を重視している。11年1〜9月の最終利益のほとんどが国外事業の利益で賄われ、中でも旧植民地のアンゴラ、モザンビーク、カボベルデなどアフリカでの純利益が最終利益全体の約55%を占める。

国内行第2位のミレニアムBCP(ポルトガル商業銀行)は11月2日、11年1〜9月は減収減益になると発表した。銀行収入は18億4,440万ユーロと前年同期の20億9,920万ユーロから約12%減少、最終利益も前年同期の2億5,990万ユーロから1億2,320万ユーロに半減(約53%)した。

同行は、国外ではポーランド、ギリシャ、ルーマニアのほか、アンゴラやモザンビークなどアフリカの旧植民地にも店舗網をもつ。筆頭株主は株式の11.6%(11年6月末時点)を保有するアンゴラ石油公社(ソナンゴル)で、アフリカとの関係は深い。同社は発表の中で、金利収入以外で収益を伸ばしたのはポーランド(前年同期比60%増)、モザンビーク(45%増)、アンゴラ(41%増)としており、収益安定化のためにもアフリカ事業は不可欠になりつつある。

リスボン工科大学の経済・経営学研究所のジョゼ・ポンテス教授は「金融機関に勤めていた私の知人もアンゴラに渡った。もちろん、アフリカに人材が少ない金融システムや税務の専門家として働くのだが、要するに国内には十分な仕事がないということだ」と語っている。

<厳しい事業環境でも優良企業は健在>
石油精製・元売り・国内最大手のガルプ(GALP)・エネルジアは10月28日、11年1〜9月の売上高が124億2,900万ユーロと、前年同期(104億6,000万ユーロ)から約19%伸びたにもかかわらず、純利益は1億7,200万ユーロと前年同期比で約35%も減少したと発表した。同社によると、「北アフリカ、特にリビアでの政情不安に伴い、ブレント原油価格が平均で1バレル当たり111.9ドルと、前年同期比で約45%上昇した」影響が大きいという。

また、同社にとって最大の市場スペインでの石油商品販売量は4,250万トンと前年同期から約3%縮小している。特にディーゼル油販売は約5%減少して2,220万トンに、ガソリン販売は約7%減少して400万トンになった。国内市場でも、ディーゼル油販売は380万トン(約7%減)に、ガソリン販売は100万トン(約10%減)に縮小している。ポルトガルでは原油価格高騰により、発電事業者を中心に天然ガス需要が拡大、同社も販売量を約4%増の38億100万立方メートルとしたが、欧州債務危機で主力の石油消費は停滞しており、減益は避けられなかった。

なお、ガルプ・エネルジアは11月11日、同社のブラジル事業(ペトロガル・ブラジル)に対し、中国石油化工集団(シノペック)が48億ドル相当の増資に応じると発表している。

他方、ポルトガルに本社を置くコルク世界最大手のコルティセイラ・アモリンは11月2日、売上高が前年同期比約10%増の3億8,010万ユーロになったと発表した。売上高増加の要因には「ワインなど飲料用のコルク栓の需要拡大」があり、伝統的な主力市場のフランス、イタリア、ドイツ、スペイン、国内に加えて、米国、オーストラリア、チリ、南アフリカ共和国などの需要にも支えられているという。

株主帰属最終利益は2,140万ユーロと、前年同期(1,770万ユーロ)に比べ約21%増加した。欧州債務危機に伴う需要減退にもかかわらず増収増益を実現した背景として、高級ワイン向けコルク栓に加えて「プラスチック栓やアルミ・キャップとの低価格競争」に対抗できるコルク栓を販売できたことを挙げている。

<一般消費に忍び寄るボーナス削減の影>
政府は財政赤字削減のため、10月17日に財政緊縮策を打ち出した。この中で、例年8月と12月に支給してきた公務員に対する2ヵ月相当のボーナスを12〜13年の2年間、凍結するほか、既に実施している給与の5%削減を12年も続ける方針を示している。BPI(ポルトガル投資銀行)チーフ・エコノミストのクリスティーナ・カザリーニョ氏によると、こうした賃金水準引き下げの動きは民間を含めて進行しており、「今後の国内消費市場の低迷に大きく影響する」という。

ポルトガル自動車工業会(ACAP)は12月5日、11月の二輪車の国内販売台数(速報値)を発表したが、ホンダ、ヤマハ、スズキ、川崎重工業などの日系企業が主戦場としてきた125ccクラスを含む50cc超の二輪車販売が11年に入って初めて1,000台の大台を割り込むことが明らかになった。50cc超の販売台数は7月の2,232台をピークに急速に落ち込んでいたが、これまで余裕のある愛好者のこだわりに支えられ、1,000台を割り込むことはなかった。

ヤマハ・モーター・ポルトガルによると、「クリスマス商戦が盛り上がろうという時期に消費者は『冬のボーナス(給与の1ヵ月分に相当)の半分がない』ことを実感し始めている。これが11月の販売減速の要因とも考えられる」とコメントしている。また、11年の累計で10月までは辛うじて前年同期比プラスを維持してきたが、同社は「通年で前年割れもあり得る」と厳しい見方をしている。

カザリーニョ氏は11月22日時点で、ポルトガルの実質GDP成長率は11年がマイナス1.6%、12年はさらに悪化してマイナス3.1%と、「決して楽観できない状況だ」と分析している。欧州委員会やIMFは13年にはプラス成長に回帰すると予測しているが、BPIは13年もマイナス1.0%で、完全な底打ちはプラス0.5%成長が見込まれる14年になってから、と厳しい見方だ。GDPの落ち込みもあり、政府債務残高のGDP比も13年(109.31%)までは上昇を続け、その後も減少速度は遅い(14年:108.81%、15年:108.4%)としている。

輸出は勢いを取り戻し始めているが、内需の低迷の長期化が足かせになると考えられる。国内では緊縮財政が消費市場にも影を落とし始めており、消費市場に取り組む日系企業にとっても難しい状況になっている。

(小野恵美、前田篤穂)

(ポルトガル)

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