法人税率12.5%維持の一方、社会保障費削減へ−12年度予算案を発表−

(アイルランド)

ロンドン発

2011年12月19日

ヌーナン財務相は12月6日、12年度(暦年と同じ)予算案を発表した。雇用創出を最優先に、先進国の中で最低水準の法人税率12.5%の維持や10万ユーロまでの研究開発税制を導入する一方、付加価値税(VAT)率引き上げ(21%→23%)や児童手当、障害者手当の見直しなどの財政再建策を盛り込んでいる。同相は、財政赤字のGDP比10.6%という11年度目標の達成見通しと、12年度の目標を8.6%に設定することを明らかにした。ケニー首相は12月5日、厳しい予算案公表を前に異例のテレビ会見を行い、国民負担増大への理解を求めた。

<VAT率引き上げ前倒し、児童手当カットなどで財政再建図る>
12年度予算案の発表に際し、ヌーナン財務相は「この予算案の最大の目的は、短期的にも中期的にも長期的にも雇用創出にある」と述べた。予算案には法人税率12.5%や観光業に対するVAT低減税率9%の維持、10万ユーロまでの研究開発税制の導入、起業後3年間の税免除優遇措置の延長、AIBとバンク・オブ・アイルランドの両銀行に対する中小企業への融資目標をそれぞれ12年度35億ユーロ、13年度40億ユーロに設定することなどが盛り込まれた。

一方、16億ユーロの歳入増を達成するため、13年度から14年度にかけて段階的に2ポイント引き上げる予定だったVAT率改定を前倒しして、12年度から現行の21%を23%へと引き上げる。また、22億ユーロの歳出削減を果たすため、3人目以降の子どもに対する児童手当カット、障害者手当の受給開始年齢の16歳から18歳への引き上げなどで、保健省予算を5億4,300万ユーロ削減し、社会保護省予算を4億7,500万ユーロ、教育・職業技能省予算を1億3,200万ユーロ削減と、国民の痛みを伴う社会保障費の大幅削減を予定している。

そのほかの12年度予算案の主な内容は、以下のとおり。

○炭素税率の引き上げ〔1トン当たり15ユーロ→20ユーロ。ただし、固形燃料(ピート、石炭など)を除く〕
○たばこ1箱(20本入り)に対する物品税を25セント引き上げ
○統一社会費(特別所得・健康税など)免除要件の引き上げ(年収4,004ユーロ以下→1万36ユーロ以下)
○12〜16年度の5年間で170億ユーロ規模の社会インフラ投資プログラムの実施
○企業振興、研究開発分野に5億1,400万ユーロ投資
○2,000万ユーロを労働市場活性化ファンドに投じ、長期失業者を対象に6,500人分の雇用を創出
○雇用創出と対内投資促進のため、エンタープライズ・アイルランドとアイルランド開発庁(IDA)関連予算の優先化の継続
○不動産市場活性化のための印紙税軽減措置(商業用不動産6%→2%)
○1,000万ユーロをマイクロファイナンス・ファンドと一時部分信用保証スキームに投じて中小企業支援を拡充
○04〜08年度に初めて住宅を購入した人に対する住宅ローン金利負担を、17年度までの期限付きで30%軽減(通常は15%)
○公的部門の人員を6,000人(予算4億ユーロ相当)削減し、12年度の総数を29万4,000人に抑制
○公的部門の人員を15年度までに08年度比12%(または3万7,500人)削減。同期間で35億ユーロ(約20%)の人件費削減を見込む

<財政赤字のGDP比、12年度目標は8.6%>
10年度の財政赤字のGDP比は11.5%、11年度は目標の10.6%を下回る10.1%を見込む。政府は、緊縮財政の継続と経済成長、雇用のバランスを図りながら、12年度の目標を8.6%、15年度までに3%に低下させることを目指す。

11年10月11〜20日には欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、IMFによる財政改革プログラム四半期レビュー調査が実施された。その中で、雇用拡大と経済成長のため、セクター別の賃金交渉やトレーニング政策などの構造改革が行われ、競争によるコスト削減を促すために医療、法律、医薬品分野の規制改革が進行中だとして、財政改革プログラムの着実な進展が評価されている。

ケニー首相は12月5日、厳しい予算案公表を前に異例のテレビ会見を行い、「国民に経済危機の責任はない。しかし、1年間に160億ユーロの歳出超過に陥っている状況を考えると、(財政再建を前面に出した)12年度予算案が困窮している人々に影響を及ぼさないとは残念ながらいえない」と、国民負担増大への理解を求めた。

(村上久)

(アイルランド)

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