税関での過少申告摘発のためのシステム導入−繊維製品約400品目から運用開始−
メキシコ発
2011年12月16日
国税庁(SAT)は12月15日、税関でのアンダーバリュー(過少申告)による脱税を回避するため、新しい事前輸入申告システムを導入した。産業界から提供された推定生産コストを下回る輸入価格が事前申告された場合、SATに自動的に警告が通知され、税関が登録通関士に対して申告価格を裏付ける資料を輸入者に提出させるよう求める。アンダーバリューを疑われた輸入申告データはSATのデータベースに蓄積されるため、後日SATによる税務調査を受ける可能性が高まる。
<通関士が事前申告する段階で警告通知>
メキシコでは輸入に当たり、輸入者の登録通関士が輸入貨物の価格や数量、原産国などの必要データを「プレバリダドール」と呼ばれる輸入事前申告システムに入力する必要がある。SAT税関総局はデータ入力と諸税・手数料などの支払いを確認し、輸入申告が正しく行われたことをシステム上で承認する。輸入者は承認済みの輸入申告書の表紙部分を印刷し、実際に輸入する税関に貨物とともに提示することで最終的に輸入通関が許可される。
今回導入された新システムでは、あらかじめ産業界から提供された「参照価格」データを輸入事前申告システムにHSコードごとに設定し、設定された「参照価格」を下回る価格が事前申告された場合は警告通知が出るようにプログラムされている。「参照価格」は、国内産業界が当該品目の国内外での生産コスト(原材料費と加工賃、光熱費などから計算、利益は除く)を基に推定した最低価格だ。
SATの12月6日付説明資料によると、設定された「参照価格」を下回る輸入申告価格が事前申告システムに入力された場合、システムが警告を出し、自動的にSATにその輸入申告書を電子送信する。SATは同申告書をデータベースに保存するとともに、登録通関士に対してその申告価格を正当化する書類の提出を求める。輸入者が当該貨物を輸入するには、通関士を通じて申告価格を正当化する十分な証拠を税関に提出するか、申告価格を修正する必要がある。
通関士が申告価格を修正し、当該価格が「参照価格」を上回れば輸入は許可されるが、修正前の申告データがSATのデータベースに蓄積されているため、アンダーバリューが重なった場合、脱税リスクが高い企業としてSATに認識され、SATの査察官による税務調査の対象に選定される可能性が高まる。
「参照価格」は、まず繊維製品の約400品目に対して設定され、後に履物、衣類などそのほかのセンシティブ品目まで対象を広げる。「参照価格」は全国工業会議所連合会(CONCAMIN)に加入する業界団体から提供されたものが使われる(SATプレスリリース12月6日)。
<約2年間に700社の輸入業者登録を取り消し>
SATによると、SATが10年以降に実施した税務調査(査察官による企業への立ち入り調査など)により、12年11月末までの約2年間で700社の税関でのアンダーバリューを摘発し、当該企業の輸入業者登録を取り消した。
最近では特に繊維、履物、玩具、自転車、衣料などの輸入業者に対する調査を厳格化している。違反内容が悪質な場合など11件については、連邦検察庁(PGR)に刑事告発しており、さらに9件の刑事告発を今後実施するという。
<繊維、履物、玩具の輸入は要注意>
SATが今回、アンダーバリューに対する監視を強化した背景には、中国政府との合意に基づき設定していた、WTOルールに沿わない対中国特別アンチダンピング(AD)税(2008年10月16日記事参照)が12月11日をもって完全撤廃されたことがある。繊維、衣類、履物、玩具など合計204品目の中国製品に課されていた50〜80%の特別AD税暫定措置は、中国政府との約束を守るかたちで完全に撤廃され、中国製品も他国製品と同様に最高30%の一般関税率だけが課されることになった。
中国製の安価な衣類や履物、玩具の大量流入を恐れる国内産業界は政府に対し、中国製品の輸入急増による国内産業への打撃を緩和するための対策を求めていた。
一部の業界団体は、WTOルールに沿ったAD税課税に向けた調査を経済省に要請していたが、同省は中国製品のダンピングを裏付ける十分なデータが提供されていないとして、今日までAD税課税を決定していない。他方、輸入価格の明らかなアンダーバリューを行っている輸入業者が存在することは、SATの調査で判明していたため、センシティブ産業の業界団体の協力を得て今回のシステムを考案した。
政府は以前にも、税関でのアンダーバリューを防止するための措置を取っていた。08年3月末まではガラス製品、鉄鋼、工具、玩具、繊維、履物、化学製品といった、ダンピングなどの非公正貿易が多くみられる分野の合計332品目に対して「推定輸入価格」が設定され、その価格以下で輸入申告する企業は、推定価格で計算した輸入関税(あるいはAD税)と実際の申告価額で計算した輸入関税などとの差額を保証金として税関に納める必要があった(税関法86−A条I項)。
しかし、貿易手続き円滑化を目的とした08年3月31日付官報公示政令に基づき、中古車を輸入する場合を除いて、推定価格以下で輸入しても保証金支払いが免除されることになり、大蔵公債省令として官報公示されていた関税分類(HS)コード別の「推定輸入価格リスト」から、中古車以外のHSコードが削除された(2008年4月4日記事参照)。
今回導入されたシステムでは、「参照価格」以下で申告したとしても保証金を支払う義務などはない。しかし、「参照価格」が設定されている品目のHSコードや設定された「参照価格」の水準は、今のところ公開されていない。政府がこれらの情報を非公開にしているのは、違法な輸入業者が事前に警戒することで、SATの摘発を回避するのを防ぐ狙いがあると考えられる。
SAT査察官による税務調査は、貿易・通関以外の広範な分野にまで及ぶことがあり、過去5年間の税務関連資料がくまなく調査される可能性もある。企業の悪意のない単純な申告ミスが原因だったにもかかわらず、多額の追徴課税が課された事例もある。繊維、衣類、履物、玩具などセンシティブ品目を輸入する企業は、輸入申告価格に入力ミス(ケタ数を間違えるなど)がないよう、極力注意する必要がある。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
ビジネス短信 4ee9ae0e50910