金融機関に重くのしかかるギリシャ国債カット−11年1〜9月の企業業績発表−

(ギリシャ)

ミラノ発・欧州ロシアCIS課

2011年12月15日

2011年1〜9月の企業業績が11月後半以降に相次いで発表された。債務危機の影響で、金融機関などほとんどの国内主要企業が減収減益になっている。主要金融機関は融資条件の厳格運用に努め、経営基盤の強化を急ぐが、預金残高の減少が貸出残高の減少を上回る勢いで進んでいる。ユーロ圏首脳会議で合意されたギリシャ国債の額面カットも重くのしかかる。「有望市場」として展開してきたルーマニア、ブルガリアなど南東欧諸国の事業も苦戦している。

<民間負担の重さが浮き彫りに>
国内民間金融最大手のギリシャ・ナショナル銀行(NBG)は11月29日、11年1〜9月の業績を発表した。それによると、ギリシャ国債カットに伴う評価損計上前の当期純利益は700万ユーロの損失で、前年同期の2億5,900万ユーロの黒字から赤字に転じた。この当期純利益に7月21日のユーロ圏首脳会議での合意に基づく民間負担(PSI、実態はギリシャ国債の額面カットに伴う評価損計上)を加味すると、全体で13億4,600万ユーロの損失に達する。

トルコや南東欧での国外事業では利益を出しているが、国内単独での損失は16億5,500万ユーロに上る。同行(全体)では前年比で約5%(国内業務では約9%)の営業コスト削減を行っているが、損失を食い止めるには至らず、民間負担の重さを浮き彫りにした。

アポストロス・タムバカキス最高経営責任者(CEO)は「(ギリシャ国内の)企業と家計に広がる景気の不透明感から、大幅な預金残高の減少に直面したが、ギリシャ事業での預貸率(銀行の預金残高に対する貸出残高の割合)は105%に抑えた」と資金管理の健全性をアピールした。預貸率は、銀行としての資金管理状況の安定性を示す指標で、「100%以内に抑えることが望ましい」とされている。なお、同行の預金残高は、前年9月末の701億3,400万ユーロから606億6,800万ユーロに大幅に減少している。

<2位行と3位行が経営統合へ>
3位のアルファ銀行も11月28日、株主帰属最終純利益が5億6,670万ユーロの損失(前年同期は7,550万ユーロの利益)と、赤字に転落すると発表した。PSIに伴う損失は6億810万ユーロで、これが負担になった。9月の預金残高は316億8,200万ユーロで、前年9月末の398億5,600万ユーロから大きく減少した。貸出残高は472億2,200万ユーロで、前年同期の499億4,300万ユーロに比べ若干の減少にとどまり、預金残高との比較でみると過大になっている。1〜9月の預貸率は149%(前年同期125%)まで上昇しており、貸出残高の適正化が求められている。

こうした中、同行は11月15日、臨時株主総会で第2位のユーロバンクEFGとの統合を決定、経営再編に着手した。なお、ユーロバンクEFGはギリシャや東欧圏で広く事業展開するが、ルクセンブルクを拠点とするラティス財閥(ギリシャ系)の傘下。

4位のピレウス銀行も11月30日、PSIを考慮した株主帰属最終純利益が11億5,300万ユーロの損失(前年同期は3,900万ユーロの利益)に陥ることを明らかにした。税前・評価損計上前利益は6億800万ユーロの黒字で、前年同期の同利益4億6,800万ユーロから約30%も改善した。スタブロス・レカコスCEOは「(この業績は)銀行収入(金利・手数料収入など)の12%増、人件費削減をはじめとする営業コストの4%減(特にギリシャ国内では6%減)の貢献による」と説明し、これまでの経営努力の成果を強調した。今後も経営努力を継続し、11年通年では5%の営業コスト削減を目指すとしている。

また、同行のミハリス・サラス会長は「われわれは、より厳格な融資(ローン)評価基準の運用と評価損計上の積み増しによって、バランスシートを守る経営方針をあらためて示した」とコメントした。貸出残高は10年9月末時点の371億4,400万ユーロから11年9月末では355億4,500万ユーロに減少した。ただし、預金残高も同じ期間に287億200万ユーロから245億2,200万ユーロに減少しており、預貸率は129%から145%へと大幅に上昇している。特に国内事業の預貸率は123%から142%へと悪化が目立つ。

債務危機の影響は、国債の評価損として有力金融機関に重くのしかかり、損益悪化を招いている。現地経済アナリストは「預金残高の急激な減少が心配だ。国外への資金シフトは今に始まったことではないが、金融機関にとっては、PSIに伴う評価損計上のタイミングと重なった点で、大きな打撃だ」と指摘する。

<通信やエネルギー企業も収益悪化>
移動体通信サービス事業「コスモテ」などを展開する総合通信キャリア最大手のオテ(OTE、ドイツ・テレコムが40%株式保有)も11月10日の発表で、1〜9月の売上高が37億9,220万ユーロと、前年同期(41億5,240万ユーロ)から約9%減少することを明らかにした。同社は、売上高減少の要因として「ギリシャ債務危機の影響で固定電話回線の解約が急加速したため」と説明している。

同社は、ポータルサイトやコールセンターの合理化、店舗運営の見直し(国内71店閉鎖)、利用明細の簡素化などの経営刷新に着手。黒字は維持しているが、利払い・税前利益(EBIT)は4億6,860万ユーロと前年同期(6億910万ユーロ)に比べ約23%減少するとしている。前年同期に13.7%を占めた売上高に対する設備投資の比率も、12.5%に抑制した。

石油精製・元売り最大手のヘレニック石油(ELPE)は、1〜9月の売上高が68億800万ユーロと前年同期(61億8,000万ユーロ)から約10%伸びたものの、調整後純利益は1億2,100万ユーロと約29%も減少したと発表した(11月24日)。同社によると、「石油の販売量は大きく変わらないが、価格低下圧力が非常に強い」ことが収益悪化の背景と考えられる。

一方、同社は「観光旅行者の増加で、航空分野の石油需要は堅調」という。エジプトやチュニジアなど中東情勢の混乱のほか、政府が観光産業支援のため宿泊代などに課される付加価値税率を引き下げた(23%→6.5%)ことで、ギリシャへの旅行者は拡大したとみられている。なお、ELPEの株式は、ラティス財閥傘下のパンヨーロピアン・オイル・アンド・インダストリアル・ホールディングスが41.3%、ギリシャ政府が35.5%を保有している。

他方、ギリシャを代表する宝飾品ブランド「フォリフォリ」(本社:アテネ)は11月29日、1〜9月は増収増益だと発表した。売上高は7億7,550万ユーロと前年同期から約5%拡大、株主帰属最終純利益も8,240万ユーロと約5%増加した。同社はクツォリュソス財閥が38.2%の株式を保有するが、香港の復星集団(本社:上海市)も13.4%資本参加している。「フォリフォリ」ブランドを扱う店舗は世界24ヵ国・地域で440ヵ所を超え、このうち中国では108に達している。

<南東欧の事業も苦戦>
アルファ銀行の店舗網は国外を含めて900(11年9月時点)を超えるが、国内は414店にとどまり、過半数を国外店舗が占める。グループ行の支店も含めてルーマニアで167、セルビアで139、ブルガリアでは103、アルバニアに45、キプロスで35など、南東欧を中心に広範なネットワークを持つ。

この中で貸出残高が最大のキプロス(45億5,400万ユーロ)は、10%という法人税率の低さからロシアやウクライナのほか、ギリシャ本国からの迂回投資事例も多いため、貸し出しは拡大している。ほかの国では、ルーマニア(貸出残高34億500万ユーロ、前年同期比9.2%減)、セルビア(9億5,700万ユーロ、3.7%減)、ブルガリア(8億9,200万ユーロ、9.0%減)、アルバニア(4億600万ユーロ、21.4%減)と軒並み貸し出しを抑えている。

ピレウス銀行は810の支店のうち、国内354店に対して、国外は456店に達し、ルーマニア、ブルガリア、セルビア、アルバニアなど南東欧を中心に店舗網を拡大している。同行は融資条件の厳格化を推進しており、国外市場での貸出残高は10年9月末時点の71億9,600万ユーロから11年9月末には67億8,900万ユーロに減少。国外でも、徐々に融資の絞り込みを始めている。

総合通信キャリアのオテは、ギリシャ以外ではルーマニア、ブルガリア、アルバニアで事業を展開しているが、1〜9月の業績は、ルーマニアの移動体通信事業以外は減収減益になった。国外事業の主軸は、株式の54%を保有するロムテレコムを通じた固定通信事業だが、同事業の売上高は前年同期比で約10%落ち込み、営業赤字となった。

ルーマニアでの同社ブロードバンド利用者は拡大を続け、既に100万回線を突破しているが、固定電話回線解約の「穴埋め」はできなかった。同社のルーマニアでの移動体通信事業は「コスモテ」(オテ子会社のコスモテ70%、ロムテレコム30%の合弁)ブランド(利用者650万回線、11年9月末時点)。激しい価格競争の中、市場シェア低下は食い止め、利払い前・税前・減価償却前損益(EBITDA)ベースで黒字を維持したとしているが、売上高の減少は避けられなかった。

他方、ブルガリアでは「グローブル」(9月末時点で420万回線)、アルバニアでは「AMC」(180万回線)のブランドで移動体通信事業を展開している。1〜9月はいずれも減収減益になった。両市場とも、プリペイド利用から契約(ポストペイド)利用への過渡期にあり、顧客拡大に苦戦中、と同社は説明している。

ギリシャの財政問題に端を発する欧州債務危機は、ルーマニア、ブルガリアなど南東欧諸国の経済にも暗い影を落としている。ギリシャ企業は低迷する国内市場の打開策として南東欧市場への参入強化に期待をかけているが、壁は厚い。

(三宅悠有、前田篤穂)

(ギリシャ)

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