総選挙で野党民衆党圧勝、7年半ぶりの政権交代へ−痛みを伴う回復が本格化−

(スペイン)

マドリード発

2011年11月22日

欧州財政危機の拡大が懸念される中、総選挙が11月20日に行われ、最大野党の民衆党(PP)が下院(定数350)の単独過半数を制し、圧勝した。次期首相に就任予定のマリアノ・ラホイ党首は、緊縮財政政策の本格化による痛みを伴う改革について国民の理解を求めた。

<与党批判票、地方主義政党や旧共産党系にも流れる>
下院総選挙(投票率71.7%、前回08年より2.2ポイント低下)は事前の世論調査結果どおり、サパテロ政権の経済危機対応で支持率が大幅に低下していた与党社会労働党(PSOE)の得票率が28.7%と前回(08年)から15.1ポイント低下し、同党は議席を3分の1減らして大敗した。一方、最大野党PPの得票率は44.6%(4.7ポイント増)で民主化以降最大の186議席を獲得し、単独過半数(176議席)を大幅に上回った(表参照)。PPは全50県中43県と大半の地方で得票率1位になった。

PSOEは400万票を失ったが、この批判票の多くが統一左翼(IU−LV、旧共産党系・環境保護主義)などの左派政党に流れたとみられる。また、地方分権意識が強くPPに反発的なバスク州やカタルーニャ州では、地方主義政党がこの批判票の受け皿になった。特にバスク州では、バスク左派民族主義連合(AMAIUR、旧バタスナ系)が7議席を獲得し、PP、PSOE、カタルーニャ連合(CiU)、IU−LVに次ぐ第5党に躍進した。

AMAIURは穏健派バスク地方主義政党(ARALAR)と、かつてはテロ組織「バスク祖国と自由」(ETA)の政治部門だった急進派バスク地方主義政党(BILDU)との連合だが、10月下旬にETAがテロ活動終結を宣言したことで(2011年10月28日記事参照)、左派有権者の大幅な支持を得たとされる。

下院総選挙の結果(100%開票、投票率71.7%)

<ラホイPP党首、「これからが正念場」>
今回のPP勝利の背景には、住宅バブル崩壊から3年、国内経済が一向に改善しない中で変化を求める国民の総意がある。単独過半数を確保し、また5月の統一地方選挙(2011年5月26日記事参照)で大部分の自治州でも政権与党になっているため、国・地方の両レベルで安定した政権運営ができる。しかし、失業者数500万人・ゼロ成長と困難な経済状況下での財政再建と構造改革という厳しい課題に直面しているため、短期間で目に見える成果を出せない場合には、国民の不満の高まりは避けられないだろう。

ラホイ党首は勝利宣言の中で、「敵は失業、財政赤字、過剰な債務残高、経済停滞だ。これからは今後数十年のスペインの未来を決める正念場だ。政権の政治色にかかわりなく、直ちにすべての自治州と協議し、問題解決に向けて調整する。EU内の問題児ではなく、解決を促す側に戻れるよう、国民全体に努力をお願いしたい」と述べた。

<国債利回り、7%近くからいったんは6.4%に沈静化>
今回の総選挙は、欧州財政危機の波及懸念の下で実施された。総選挙の結果によっては財政再建や構造改革が遅れるとの懸念から、選挙直前のスペイン国債(10年物)の利回りは急上昇を続け、11月17日には一時7%近くに達した。総選挙の結果を受けた翌21日朝の同利回りは6.4%と沈静化したものの、欧州株式の低調やムーディーズによるフランス国債の格付け見直し観測で、再び上昇し始めている。

今後は、12月13日に新国会が招集され、国会議長をはじめとする執行部が選任される。12月19〜21日に下院でラホイ氏の首相指名が行われ、22日に就任、23日には政権が発足し、第1回閣議が行われる見通しだ。しかし、現在様子見の市場が1ヵ月の政治空白を容認するはずもなく、PPの対応によっては再度国債利回りが急上昇する懸念もある。そのため、ラホイ氏は近日中に経済財政措置の具体的内容を発表するとみられる。

なお、PPはマニフェストの筆頭に財政再建と構造改革を据えており、これから痛みを伴う改革が本格化することが確実視される。最大の問題の高失業については、中小零細企業や個人事業者への所得税率の5ポイント削減など、企業活動や起業の活性化支援を中心とした取り組みを行うとしている。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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