本社契約の日本人就業者には弾力的運用−社会保険制度で広州市と意見交換−
広州発
2011年11月16日
外国人就業者に対して中国の社会保険の加入を義務化した規則が10月15日に施行された。しかし、多くの地域で地方レベルの細則はまだ発表されていない。このため、日本人就業者や日系企業は、社会保険にいつ加入すべきか、保険料を納付するとしたらいつからすべきなのかといった基本的な対応に苦慮している。そこでジェトロは11月1日、在広州日本総領事館、広州日本商工会と共催で広州市社会保障局と地方税務局の担当者を招き、中国の社会保険制度に関する説明・意見交換会を開催した。
<加入の時期など不明>
11年7月1日に「中国社会保険法」(中国国家主席第35号令)、10月15日に「中国国内で就業する外国人の社会保険参加暫定弁法」(中国人力資源社会保障部第16号令)が施行され、関連法規の整備が進められている。第16号令により外国人の中国社会保険加入が義務化されたが、日中社会保障協定が交渉中で、日本人就業者や日系企業からは、いつ中国の社会保険に加入・納付すればよいのか、突然加入を強制されることがあるのではないか、延滞に関する罰則や納付義務の遡及(そきゅう)はあるのかといったことを懸念する声が上がっている。
こうした現状から、進出日系企業・日本人就業者に現地政府からの説明が早急に必要と判断し、今回の意見交換会を開催した。
<現地法人との雇用関係がない就業者の加入は想定せず>
意見交換界での広州市社会保障局からの説明のポイントは以下のとおり。
(1)外国人と就業者の概念
中国社会保険法での外国人とは、「外国人就業管理弁法」で定められている外国人就業者を指す。つまり、Zビザ(就労ビザ)を取得し、外国人就業証と外国人居留証を取得している外国人を指す。
(2)加入対象
日本人の場合、a.現地法人との間で雇用契約関係にある日本人と、b.日本本社と雇用契約関係にある日本人、に分けて考えることが必要だ。a.は現地法人から給与を支給されている日本人を指す。b.は日本など海外の法人から給与を全額支給されている日本人を指す。b.に該当する日本人は、現地法人と雇用関係がないと認められる場合、広州での社会保険に加入することを基本的に想定していない。そのため、b.の場合、中国の社会保険に加入していなくても、徴収を厳しく管理しない方針だ。a.に該当する、現地法人と雇用契約を締結した日本人は加入を勧める。
b.の該当者に対して、徴収を厳しく管理しないのは、日中社会保障協定が未締結、広州市での細則の未公布などが理由だ。
一方、第16号令で外国人の加入義務化が明記されたため、企業などがコンプライアンス上、中国の社会保険に加入すべきと判断した場合、当局としては納付を拒まない。社会保険制度は企業にとっては義務と受け止められがちだが、従業員側の立場からは権利でもある。このため、中国の社会保険加入を希望する従業員が離職する際、社会保険未加入状態だと、従業員がその勤務先で就業を開始した時点までさかのぼって納付するよう企業を訴える可能性もあるので留意されたい。
<広州市では細則制定の予定はない>
主な質疑内容は次のとおり。
問:北京市では「本市で就業する外国人の社会保険加入にかかる業務の取り扱いに関する問題についての通知」(京社保発2011年55号)が既に施行されたが、広州市は細則を公布・施行する予定はあるか。
答:広州市は、外国人社会保険加入に関する細則を制定する予定はない。実施する場合は第16号令に沿って実施する。
問:地方税務局の役割について。
答:地税局は00年以降、社会保険の代理徴収と追徴を担当している。広州市の場合、市内12ヵ所に分局が設置されており、これら分局が徴収の実務部門となる。一方、給付については社会保険局が所管する。
問:養老保険と医療保険の基数と比率はどうなっているか。
答:養老保険の基数は、当月分の個人所得税を申請する際の所得総額とし、上限と下限の設定は10年の広東省平均賃金(3,363元、1元=約12円)を基礎とし算出する。実質所得が2,018元(広東省平均賃金の60%)を下回る場合も、この2,018元を算出基礎とする。一方、1万89元(平均賃金の300%)を上回る場合も、この1万89元を基数とする。養老保険の場合、企業負担が20%、個人負担が8%だ。
医療保険の基数も養老保険と同様の考え方だが、上限と下限の設定は10年の広州市平均賃金(4,541元)になる。上限は平均賃金の300%(1万3,623元)、下限は同60%(2,725元)。医療保険は10%の負担で、企業が8%、個人が2%を負担する。
問:滞納金の算出方法は。
答:滞納金の支払いは外国人にも適用され、1日当たり1万分の5の滞納金を課すことになる。
問:医療保険について加入地外で病気などになった場合はどうなるか。
答:属地主義のため、広州で加入していれば広州で受給することになる。例えば、広州で加入している外国人が深センで治療した場合、遠隔地申請という方法で深センで医療保険が適用される。加入者に発行している医療カードを持参して深センの病院に行き、治療後領収書をもらい、広州の医療保険窓口で還付申請するシステムだ。
問:養老保険は男性の場合60歳から支給開始となるが、60歳以上の外国人が加入できるのか。
答:加入しなくてよいだろう。中国人の場合、「職工保険」に加入するルールがあるが、外国人が「職工保険」に加入できるかは定かでない。なお、養老保険の受給は男性が60歳以上、女性が55歳以上で累計15年以上納付している加入者が対象になる。60歳または55歳になっても納付期間が15年に満たない場合、継続して納付が可能で15年が経過した時点で受給を開始できる。
<日中社保協定の行方などに注意が必要>
今回の意見交換会で市側が説明した内容を踏まえると、第16号令の施行に伴い、外国人に対して中国社会保険の加入と徴収を開始する方針であることが分かった。しかし、その対象は当面限定的なものになりそうだ。
日本人就業者に対しては、現地法人との雇用契約があり、現地法人から給与支給を受けている日本人をまず加入・徴収対象にする方針で、日本本社と雇用契約があり、給与全額を日本本社から支給されている日本人に対しては管理を強化しないという、弾力的な対応方針が表明された。本件について当局は「中国人と結婚し中国で社会生活を送る外国人や、本国からの出向ではない現地採用外国人など、社会保険に加入したいが加入できなかった人たちのために道を開いた制度」と強調している。
広州市はこうした弾力的対応方針をとる背景として、日中社会保障協定が未締結で交渉中なこと、広州市による実施細則が未発布なこと、などを挙げたが、制度運用は流動的で、今後も引き続き同協定の締結あるいは実施細則の発表に注目し、日本本社を含めて即応できる準備をしておくことが必要だ。
(森路未央)
(中国)
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