日本などへの食品輸出に懸念−洪水の影響−

(タイ)

バンコク発

2011年10月19日

洪水被害で日系食品製造業が入居する複数の工業団地が浸水した。タイは日系食品製造業が多く集積する食料供給基地で、原料や資材の供給などで各企業が密接に関連し合っているケースもあり、今後は、国内向けの食品供給だけではなく、日本などへの輸出への影響も懸念される。

<包装資材や容器の供給にも支障>
農水産物が豊富で原材料を安定的に安価に調達できることや、インフラが整備されていることなどから、多くの日系食品製造業が集積している(商業省に登録されている日系食品製造業は約200社)。生産品目も多岐にわたり、タイ国内や日本向けだけでなく世界に向けての食品供給基地としての性格を持っている。

今回の洪水では、アユタヤ県にあるサハラタナナコン、ロジャナ、ハイテクなどの工業団地、パトゥムタニ県にあるナワナコン工業団地で浸水などの被害があり、入居企業は操業停止を余儀なくされている。

このため、まず、これらの工業団地内の日系食品企業で生産される食品の供給が懸念されている。加えて、日系企業同士が原料や資材の供給などで密接に関連し合っているケースもあるため、今後影響の範囲がさらに広がる可能性がある。例えば、ある企業で生産される加工原料や包装資材・容器などの供給が滞ったため、別の企業で生産される食品を完成させることができなくなるといったケースが想定され、影響はタイ国内にとどまらない可能性もある。

国内の日本食レストランは、コスト削減の観点から国内で調達できるものは、できるだけ利用しようとする傾向が強く、現地調達率も高い。

日本食レストランに食材を供給しているある日系輸入・卸業者は「在タイ日系食品企業生産品の在庫は、すぐに調達できるとの安心感から、(よりリスクの高い)日本からの輸入食品の在庫に比べて少ないのが実情」と語る。また、「生産品を保管する倉庫と工場が離れている場合には、工場が洪水の影響で操業停止になっても、しばらくの間は倉庫保管在庫を取り崩して調達できるが、工場と倉庫が併設されている場合もある」という。

輸出向けの食品供給について、ある日系輸出入商社は「日本向け製品をパッキングしている工場が洪水被害を受け、輸出への影響が懸念される」と話している。

<日系企業の食品流通に影響も>
洪水の影響は製造段階の工業団地にとどまらない。国内に52店を展開する地場系スーパー「makro」の配送センター(アユタヤ県ロジャナ工業団地近辺)が冠水したことから、この配送センターを経由して現地生産品を各地に配送している日系食品企業からは、食品流通への影響を懸念する声も出始めている。

また、洪水被害を受けた工業団地近辺の日本食レストランが冠水して営業停止になり、日本食材の納品ができなくなって売掛金が発生しているという日系輸入・卸業者もある。

一方で、今回の洪水被害による日本からの輸入食品への影響は、現時点ではほとんど報告されていない。これは、バンコクの主要港(スワンナプーム空港、レムチャバン港)からバンコクへの輸送ルートが現時点で確保されているためとみられる。

いずれにしても、今回の洪水による食品供給への影響については、原材料調達、食品製造、食品流通の各方面から把握する必要があり、今後の動向を注視したい。

(井上知郁)

(タイ)

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