洪水被害拡大の見通し−日系企業に多大な影響−

(タイ)

バンコク発

2011年10月11日

洪水被害が全国に広がっている。10月上旬には、日系企業が多く入居するアユタヤ県の工業団地(サハラタナナコン工業団地、ロジャナ工業団地)でも冠水し、操業が停止されている。今後も大雨などによる河川の増水は続く見通しで、バンコクでも洪水被害が懸念されるなど、予断を許さない状況になっている。

<77都県中30県に深刻な被害>
政府が発表した10月8日現在の被害状況によると、77都県中30県(南部を除く地域)が深刻で、76万世帯以上234万人が被害を受け、全国で253人の死亡が確認されている。また経済的被害も甚大で、860万ライ(約138万平方キロ)の農地と990万頭の家畜も被害を受けた。

7月中旬から北部(チェンライ県、ナーン県など)、東北部(ノンカイ県、サコンナコン県など)で豪雨による洪水被害が報告された。その後、度重なる台風などの降雨で川が増水し、堤防の決壊などにより洪水被害が広がっていった。10月初めに11のダムが基準貯水量を超え、10月4日には北部のプミポンダムで放水量を増やしたことが下流地域の増水に拍車を掛けた。政府は現在、軍などを動員し、住民の保護や土のうを積み上げる作業を行っている。

<工業団地冠水で部品供給がストップ>
バンコクから北に約70キロのアユタヤ県では、工業団地や遺跡にも大きな影響が出ている。サハラタナナコン工業団地では、10月5日に浸水、ロジャナ工業団地でも10月8日に堤防が決壊し浸水したもようだ。10月10日7時にロジャナ工業団地が入居企業に提供した情報によると、ロジャナ1〔フェーズ1〜6(工業団地西側)〕は全域で冠水し、高いところで3メートル以上冠水している。また、ロジャナ2(フェーズ7)、3(フェーズ8)は一部浸水し、ポンプで排水している。

サハラタナナコン工業団地には42社中35社、ロジャナ工業団地には218社中147社の日系企業が入居している。冠水被害を受けた企業には自動車メーカーや電子メーカーに部品を供給する企業などが含まれるため、その影響は当該工業団地内にとどまらず、まだ浸水していない工業団地でも、部品が入らずに操業をストップした企業も出ている。

<バンコクにも被害の可能性>
10月10日現在、アユタヤ県のほかの工業団地(ハイテク工業団地、バンパイン工業団地、ナワナコン工業団地)では被害は報告されていない。インラック首相は10月9日、緊急記者会見を開き、バンコクまで被害が広がる可能性があるとの見解を示した。災害警戒センターはパトゥムタニ、ノンタブリ両県とバンコクの住民に、家具などを高いところに移すなど洪水への備えを呼び掛けている。

バンコク都排水・下水局は10月9日、危険性が高いバンコク内の15ヵ所を発表した(表参照)。さらにバンコク当局は「ノンチョク区、クロンサムワ区、ラッカバン区、ミンブリー区は特に脆弱(ぜいじゃく)なので、大雨や北部からの流入による水位上昇が起きた場合、注意が必要。バンコク東部9つの区に80ヵ所の避難所を設置し、1万人収容できるよう対応する」としている(「バンコク・ポスト」紙10月10日)。気象局は10月10日、中央部の洪水地域では12日にかけて大雨に注意するよう呼び掛けた。

洪水の危険性の高い地域(バンコク内)

<経済成長率を0.2〜0.3ポイント押し下げ>
「バンコク・ポスト」紙(10月6日)によると、キティラット副首相兼商務相は「今回の洪水の被害の影響は200億〜300億バーツ(1バーツ=約2.5円)になると見積もっており、GDP成長率を0.2〜0.3ポイント押し下げる」との見通しを示した。

これまで国家経済社会開発庁、財務省、中央銀行が示している2011年の経済成長率はほぼ4%のため、3%台後半程度になる見通しだ。しかし、この数日で被害規模は大幅に拡大しており、今後バンコクにも被害が拡大すれば、被害額はさらに増加、経済成長を一層押し下げる可能性がある。

<ジェトロに相談窓口を設置>
ジェトロは10月10日、進出日系企業の洪水対応の一助とするため、バンコク事務所に洪水相談窓口を設置した。今回の洪水で生じる資金借り入れなど喫緊の課題への対応や、政府が講じる措置などにつき、個別の相談を無料で受け付けている。

(橋本逸人)

(タイ)

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