欧州委、EU単独の金融取引税導入を提案

(EU)

欧州ロシアCIS課

2011年10月05日

欧州委員会は9月28日、EUでの金融取引税の導入を提案した。当事者の少なくとも一方がEU所在の金融機関の金融取引に対し、0.1%、または0.01%課税する。欧州委は2014年1月1日からの適用を目指すとしているが、英国はEU単独での導入に反対しており、難航が予想される。

<年570億ユーロの税収を見込む>
欧州委員会の発表によると、債券、株式の取引に対し0.1%、デリバティブ商品に対し0.01%課税する。これにより毎年約570億ユーロの税収を見込む。税収の一部はEU予算に組み込む予定。6月に欧州委員会が多年度予算案を発表した際に、EUの財源として金融取引税を提示していたが、加盟国と共有することになった。また、EUの税率は最低税率で、加盟国はより高い税率を課すことができる。

課税対象になるのは金融機関同士の取引で、一方の当事者の所在地がEU内の場合の取引。所在地主義をとるため、EU域外での取引も課税対象になる。為替取引や公的機関は対象外。

金融取引税をめぐっては、EUがG20でかねてから導入を検討するよう主張してきた経緯があり(2010年6月18日記事参照)、8月にフランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相が緊急首脳会談を開いた際にも、EUでの導入を提案することで合意していた(2011年8月18日記事参照)。EUは引き続きG20の場で金融取引税の導入を各国に働き掛ける予定だが、欧州委の今回の提案は、EU以外の国での導入を待つことなく、EU単独での導入も辞さないことを示すものだ。欧州議会に向けての一般教書演説でバローゾ委員長が発表したことからも、導入に向けての強い決意がうかがえる。

<英国はEU単独での導入に反対>
ただし、EU単独での導入については、シティーの競争力低下を懸念する英国が強く反対。シティー・オブ・ロンドン・コーポレーション(シティーを統治する特別行政区)のスチュアート・フレイザー政策・リソース委員会議長は「ある調査によるとEUレベルで取引税を導入した場合の税収のうち、62%が英国由来のもので、これはEUへの課税ではなく、ロンドンへの課税だ」として、欧州委の提案に強い懸念を示した。

英国は、税の導入そのものではなく、EU単独での導入に反対している。グローバルに導入するのであれば、必ずしも反対しないという立場だ。EUは差し当たり、11月のG20で各国に働き掛けを続けていくことになるが、これまでの各国の反応は必ずしも芳しくない。

<金融機関に相応の負担を求める>
実体経済への悪影響も懸念される。欧州委の影響評価(PDF)では、GDPに約1.8%のマイナス効果を算定している(「フィナンシャル・タイムズ」紙アジア版9月28日)。ただし、欧州委自身は、モデルに限界があり、緩和効果も考慮されていないことから、実際には影響はマイナス0.5%程度にとどまるとしている。

こうした反対、懸念にもかかわらず、提案が正当化される理由の1つとして、欧州委は、金融危機からの救済のため大規模な資金援助の対象となった金融機関に、財政均衡に向けて公正な対価を負わせることを挙げる。欧州委によると、金融危機に伴い金融部門に対して支払われた財政支援は総額で4兆6,000億ユーロに上る。加えて、金融サービスが付加価値税(VAT)から除外されているため、金融機関は毎年180億ユーロに相当する税の優遇を受けているとも指摘する。バローゾ委員長は欧州議会に向けての一般教書演説で、「今こそ金融部門が社会に還元すべきときだ」と述べた。

欧州委は提案のもう1つの目的として、一部加盟国は既に金融取引への課税を導入しているため、EUレベルでの調和を図ることで金融サービスの単一市場化を強化することを挙げている。欧州委の提案に関するQ&Aによると、ベルギー、キプロス、フランス、フィンランド、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルーマニア、ポーランド、英国で、なんらかのかたちで金融取引に税が課されているという。

<理事会の採択には全会一致が必要>
今後、欧州委の指令案(PDF)は、EU閣僚理事会で議論されることになる。法案の採択には理事会の全会一致が必要なため(EU運営条約113条参照)、最終的には英国の賛同も得なければならない。欧州委の想定どおり14年から導入することができるかは不透明だ。

(牧野直史)

(EU)

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