国内5ヵ所で日本政府などと共催のジャパンセミナー−対日ビジネス重視の姿勢を強調−

(カナダ)

トロント発・バンクーバー発

2011年07月07日

カナダ政府は日本政府、ジェトロなどと共催で6月17〜24日、国内5ヵ所で「Japan Engagement Seminar」と題するセミナーを開催した。東日本大震災から3ヵ月、国民にあらためて日本市場の重要性を訴え、放射線の問題に関してはメディアの報道に正確性に欠けるケースがあるとして、冷静な対応を求めた。外国政府が母国で日本の状況を説明する機会を設けたのはカナダが初めて。5会場で計400人以上が参加した。

<日本市場の重要性は変わらず>
セミナーは開催地によって登壇者が変わったが、日本・カナダ両国政府関係者、ジェトロ、ビジネス界の人々がそれぞれの視点から「震災後」を見通すという構成だった。カナダ政府代表(トッピル在日カナダ大使館商務担当公使ら)、日本政府代表(石川薫・駐カナダ大使ら)、ジェトロ代表(石井裕晶理事)、カナダのビジネス界代表(サーマレイのキルブライド社長ら)が登壇した。

まずカナダ政府代表が震災後の日本の状況と復興に向けた動きや、放射線量に関する科学的データを紹介した。特に放射線量については、メディアの報道に正確性に欠けるものがみられるとして、正しい情報に基づき冷静な対応をすべきだと語った。また、日本企業の優良さ、特許取得数の多さに代表される革新性、日本の社会的、人的インフラの充実、さらには未曽有の災害の中でも秩序を乱さない忍耐強い国民性にも触れ、日本が世界の中で依然として強い経済力を持っており、カナダ企業にとって重視すべき市場だ、と結論付けた。

<日本の安全性をアピール>
次いで石川駐カナダ大使らが、震災での日本政府の対応や復旧・復興への取り組みなどについて説明し、日本の安全性をアピールした。

ジェトロの石井理事は、震災後の原子力発電所被災の状況、日本経済の見通し、サプライチェーンの状況などを説明。カナダは、震災後では世界で初めて日本からの食品輸入規制を正常化したことも紹介した(2011年6月21日記事参照)。また、震災後も対日投資は続いていること、日本政府の外資誘致策の下で復興需要とカナダ企業にビジネスチャンスがあることを紹介し、両国の経済関係強化に向けて期待を示した。

対日投資について具体的には、リチウムイオン電池材料などを製造する、ベルギーのユミコアの最高経営責任者(CEO)が震災後の4月に日本を訪れ、「科学的データに基づいて、東京にビジネスの機能をこれまでどおり置く」としたことを紹介した。

またカナダ最大の自動車部品メーカーのマグナが5月18日、日産「ムラーノ」向けソフトトップ・ルーフシステムを日本で生産開始すると発表したことや、結晶太陽電池製造のカナディアン・ソーラーも09年に日本進出以来、日本国内での需要増に対応しており、11年4月8日には日本のプロ野球チームのスポンサーになることを明らかにし、日本に一層根付く姿勢を示した、といった事例を紹介した。

<日本市場参入の経験談を披露>
その後登壇したカナダ政府、州政府、政府系金融機関の各代表は、対日進出支援スキームを挙げ、日本進出を後押しする多くのメニューを紹介した。

日本と既にビジネス経験があるカナダ企業による討議では、複数のパネリストから、日本市場に参入する際、日本側のビジネス・デューディリジェンス(事業取引のための事前審査)などに時間がかかるので、「忍耐(patience)」が必要とのコメントが相次いだ。カナダ側にも日本市場への理解不足があるといえるが、日本側も商談初期に自社の仕様条件や品質基準などを明確にし、相手に分かりやすく条件を提示する工夫が必要だという。

しかし、一度関係を築けば日本とのビジネスは長続きする、との指摘も多かった。日本企業とのコミュニケーションをスムーズにするために必要な配慮、商慣習なども例示された。

また震災後、カナダからの木材、仮設住宅、ミネラルウオーターなどの需要が増えているとの声もあった。

<在日カナダ大使館、震災後も冷静な対応>
震災後、東京から退避した外国公館もある中、カナダ大使館は東京にとどまった。在日カナダ人の安否確認などの業務が多忙になり、大使館の人員を一時的に増員して週末も対応に当たったという。

日本政府は震災後の復興状況に関する説明会を、アジア、欧米など世界各地で実施しているが、今回のセミナーは在日カナダ大使館の強いイニシアチブをきっかけに実現した。外国政府が自ら率先して母国で日本の状況を説明する機会を設けたのは、カナダ以外に例がなく、日本重視の姿勢や、震災後の冷静な対応も目に付く。

セミナーは、東部のノバスコシア州ハリファクス(6月17日)を皮切りに、ケベック州モントリオール(6月20日)、オンタリオ州トロント(6月21日)、アルバータ州カルガリー(6月23日)、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー(6月24日)の5ヵ所で開催された。カナダ企業関係者を中心に、バンクーバーで130人、モントリオールで90人の参加者があるなど、各地で高い関心を集めた。

(大石仁志、岡野祐介)

(カナダ)

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